第107話 依頼
107.依頼
広々とした草原を走り回る牛、時々何か魔物のようなものを吹き飛ばしながらも走り抜けているのが見える。
「凶暴だなぁ」
走り回っている牛は体高3メートルほどあり、かなり大きいのがわかる。
今日来ているのは通称【食材ダンジョン】と呼ばれている【深緑の森】ダンジョン。ここは主に食べ物になる魔物や素材などが沢山とれる場所だ。
とても人気のでそうなダンジョンだが実際には人がいない、理由としてはここはAランクダンジョンになるからだ。
Aランク探索者でダンジョン協会へと申請してからじゃないと入る事の出来ない特殊なダンジョンとなっている。
ここに来た目的はクランへと来ていた依頼の中にここでとれる食材の採取があったからやってみようと思って来てみている。
何故突然クランへの依頼をしようかと思ったかと言えば。なんと言うか……Aランクになるという大きな出来事を済ませて少し燃え尽きたというか、次の目標が見つからないので色々とやってみようと思ったからだ。
何かやっている内に次にやりたい事が見つかるかもしれないからね。
後はクランへの依頼をする理由は他にもあって、ダンジョン協会の出している依頼を達成すると評価点を貰えてクランへの評価と個人への評価がよくなるから受けている。
クランへの依頼と言うのは主に2通りあり特定のクランへと直接依頼するものと全てのクランへ公開して依頼をだしている物がある。
今回のクラン依頼は全体公開されていた物を選んで受けた。
食材をとりに行く系の依頼は常に出されておりありえないほど大量に持ち帰らなければにはなるが、基本的に持ち帰れば持ち帰った分だけ買い取ってくれる。
全部売らなくても自分達で使う分だけ残して後は売るとかもできるので割と自由がきくのもこういった依頼の特徴だ。
「あ、おいしそうなの発見」
「リンゴですね」
ダンジョン内を歩き回っていると森の中にリンゴの成る木を見つけた、もちろんただのリンゴではなくこれを外へと持ち出せばひとつ数千円で買い取って貰える高級品だ。
見える範囲で、それなりの数があるのが見えるので【格納庫】から素材などの回収用ドローンを呼び出しリンゴの採取を任せる。
【食材ダンジョン】ではみんながよく知る食材からダンジョンにしかない食材まで色々とあるが何がとれるかは場所次第になる。
例えばここ【深緑の森】ではリンゴやブドウなどの果物から先ほどいた牛からとれるお肉に深い階層になると果物はマンゴーなどお肉は豚肉もとれる。
【食材ダンジョン】では何故かその国の食事事情を知っているかのようにその国で馴染みのある物がとれるようになる。
他の国に行けば日本では取れないような食材をとることが出来る。
そんな【食材ダンジョン】が世界に幾つもあるのだがこの話を聞いていて疑問に思った人もいるのではないのだろうか。
食材がダンジョンでとれてしまっては産業に支障が出るのではと。
結果から言ってしまうがそんなことは無い。
食材がダンジョンからとれるようになり一番恩恵を受けたのは、言い方は悪いかもしれないが貧困層だ。
年々上がっていく物価に上がらない給料、安いお肉を選んで冷凍の鶏肉ばかりを買うようになったりそういった世帯にダンジョンでとれる食料はとてもいい結果を残している。
俺が今来ているのはAランクダンジョンだが、【食材ダンジョン】の中にはもちろんもっとランクの低い所がある。
そういった場所で食料がとれるようになり助かった人は大勢いる。
しかもダンジョンは新たな産業を生み出し、今まで景気の良くない世の中だったのが一気に上向きになっていった。
それから何年もたち何十年もたち、今の俺らの世代になる頃にはそういった突発的な好景気もおさまり安定しているが、それでも昔に比べればはるかに暮らしやすい世の中だろう。
ダンジョンからとれる食料で今まで死ぬしかなかった人が生き延び、人口が増え、エネルギー問題も魔石という新たなエネルギー源を手に入れたことで賄えるようになり。
いいことばかりのようにも聞こえるが実際は良くない部分も増えているらしい。
ただそういった問題は一市民である俺のような存在にはほぼ関係ない話しなので気にしない事とする。
問題として気にはなるが、それについて考え込んだところで解決できるほどの存在でもないので結果的に気にしないってだけだ。
「後は牛とかのお肉系もとっていこうか」
「はい」
俺にできるのはただ日々を過ごすだけ、それだけだ。
あ、因みに今回とれた食材をクランへと持ち帰りBBQを行ったのだがお肉がかなり美味しくて大好評だったことを報告しておく。
◇ ◇ ◇ ◇
「うぉーすげぇ綺麗だな」
【食材ダンジョン】で依頼をこなしてから2日後、今俺は【神秘の泉】と呼ばれる場所へきている。
ここへ来た理由はクラン依頼を達成するためだが、その他にもここはAランクじゃないと入れなくてしかも景色が綺麗だと評判だからだ。
評判を聞いてやってきたのだが噂にたがわずめちゃくちゃ綺麗な景色だ。
まわりは暗く夜のようで目の前に見える泉は夜空に浮かぶ星のように水面がキラキラと輝いている。
時折不思議な色をした魚の影が水面に波をたてているのが見える。
「泉だけじゃなくて周りも綺麗だな」
泉から目線を外して見ると周りの草や花などが淡く発光しているのが見える、どれもかれもが幻想的で神秘的で、不思議な場所だった。
「取り合えず依頼だけ先に済ませて後はのんびり景色を見て回るか」
今俺がいる場所は安全地帯となっており魔物の姿は見えないが依頼は早めに済ませたい。
【空間庫】から魔道具になっている瓶を取り出し泉の水を汲む。
すると瓶の中に宇宙が広がる。
これが今回の依頼である【神秘の泉】の水の採取だ。
30分ほど泉の近くで座り、のんびりと過ごした後立ち上がって体を伸ばす。
そのまま泉を後にして安全地帯から離れていく。
「おっと、危ない。安全地帯を出る前に使っておかないと」
肩へ装備している【忘失の外套】を発動して姿を隠す、そしてそのまま進むとすぐに魔物と出くわすが相手がこちらに気づいた様子はない。
少し遠いが見えている魔物はフェアリー型の魔物でその体が水晶で出来ているやつだ。
この魔物の攻撃が厄介で戦うのがめんどくさいので今回ヘレナには待機してもらい俺だけで【忘失の外套】を使いダンジョン内を歩いているわけだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「マスター」
「ん?どうしたのヘレナ」
あれから、クラン依頼をいくつかこなして今日は休日として家のソファで休んでいたらヘレナが声をかけてきた。
「最近、マスターは色々なダンジョンへ出かけていますね」
「そう、だね?」
何が言いたいのだろうか。
「マスターが色々なダンジョンへ行くようになり私なりにダンジョンについて調べてみました。そこでおすすめの場所を見つけたのです」
「ほう?」
確かに最近色々なダンジョンへと行っているがそれに加えて少しどんなダンジョンがあるか自分でも調べていたぞ、そんな俺におすすめのダンジョンか。
「これを見て下さい」
「ん……?【月面】ダンジョン……?」
ヘレナが何か操作すると空中に映像が投影された、そこに映っていたのは【月面】ダンジョンという文字と宇宙の画像が何枚か。
「はい、月にあるダンジョンです。そこに行ってみませんか?」
「何それ面白そう……だけど確か月ってAランクだからといって行けなかったよね?」
人類が宇宙へとロケットを飛ばして、月に到達したのはいつだったか。歴史の教科で習ったけど覚えてないな。
世界にダンジョンが出来て、一時的に世の中に混乱をもたらした物のある程度落ち着いてからダンジョンからとれた素材、その素材から作られた新しい物、新しい発想、新しい技術、そういった物はいろんな分野に使われた。
勿論宇宙ロケットにも。
技術が進み安定して宇宙へと飛び出せるようになり、月面へステーションを作り行き帰りができるようになったのはおよそ60年前。
そんなある日月面にダンジョンが出来た。
月面という特異な場所と、実際に攻略を行った人による報告で【月面】ダンジョンはAランクに指定された。
ただAランクだからと言ってAランクになれば行けるような場所でもないはずだ。
「はい、そこでこれです」
「今度はなんだ……?」
空中に投影された映像が切り替わり、今度は何かの依頼の画像が映し出された。
「指名依頼?」
映っていたのは指名依頼の文字。指名と書いてあることから分かる通り俺個人への依頼だ、依頼主はダンジョン協会。
「はい、先ほどダンジョン協会より届きました指名依頼です。内容は【機獣都市】の殲滅、およびそこでとれる特定の素材の納品になります」
「指名依頼は分かったけど、それと【月面】ダンジョンがどう繋がるんだ?」
「はい、今回の指名依頼ですが。ダンジョン協会側を少し調べた所どうやらこの依頼かなり緊急性の高い物になるらしく、しかも現在他のAランク探索者には依頼を出せない状況なのです。なのでそれを逆手に取りこれを交渉材料に【月面】ダンジョンへの入場許可申請を出そうかと思いまして」
「ふむ…………そんな相手の弱みに付け込むようなやり方をしても大丈夫か?」
ダンジョン協会からの印象が悪くなるのは避けたい。
「はい、交渉材料にとは言いましたが。あくまでも【月面】ダンジョンへの入場許可はお願いする形になります。【月面】ダンジョンは特定の許可がいるといってもそこまで厳しい物ではないので恐らく平気でしょう」
「それは、ヘレナ自身が何かしらの大丈夫だという予想があるってこと?」
「はい」
「なら【月面】ダンジョンの入場許可については任せるよ、それより指名依頼だよ初めてだよね?」
「はい、初めてですね」
指名依頼。いつか来るかもとは思っていたが想像していたよりも早くきたな。
【機獣都市】か、どんなところだろう。楽しみだ。
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