第106話 休みと買い物

106.休みと買い物









「あー、いい湯加減だ」


浴槽から少しあふれるお湯を気にしながらもゆっくりとお風呂へと浸かっていく。

Aランク試験が終わってから既に1か月ほどが過ぎているが俺は今【野営地】内に作った温泉でのんびりとしていた。




Aランク試験が終わってから2週間ほど経ったころダンジョン協会から連絡が来て試験合格のメールを貰った。

これで俺もAランクかぁと思ったのも束の間、どうやらAランク探索者には色々と手続きが必要らしくあれやこれやと役所に行ったりして色んな手続きをしていた。

それらすべての手続きが終わったのが2日前でそれからずっとのんびりとしている。


今遣っているお風呂は【野営地】のレベルが上がった事で作れるようになったもので温泉へと入りに行ったときによくある露天風呂の外側が岩はごつごつとしたやつで浴槽内はつるつるとした感じのやつだ。


ダンジョン探索している時はただ魔物を倒す事だけを考えるだけでいいから疲れないが、今回のようにあれやこれやの手続きをしていると精神的に物凄く疲れる。


ちょっと多めに休もうかな。



そういえば【資格の塔】100階で手に入れたドロップ品のジェヴォーダンの獣のぬいぐるみ、あれの鑑定が終わり戻ってきたので新井さんにプレゼントした。

どうやらあのぬいぐるみは魔道具だったらしくて名前は【ジェヴォーダンの夜】という物だ。


効果は注いだ魔力量で効果を発揮する一定範囲内の気配を周りと馴染ませると言う物だ。


鑑定が終わって戻ってくるのに時間がかかったのはこの効果のせいだ。


そもそもダンジョン協会で行う鑑定と言う物はその鑑定結果の効果が実際に機能するものかどうかも調べている。

分かりやすい効果の物なら簡単だ、それこそこの間手に入れた炎がでる魔剣などは鑑定結果からも想像のつく効果内容だ。


だが【ジェヴォーダンの夜】のような曖昧な効果だと調べるのにも時間がかかる。

どういった風に調べたかは知らないがダンジョン協会によると鑑定結果の説明通りの効果がある事は確認できたとのことだ。


気配を周りと馴染ませる、この効果が分かりにくく俺もその説明を見てから似たような効果の物が無いか調べた。

世の中には気配をどうこうするスキルって言うのはそれなりにある、俺の持っている【忘失の外套】という装備も言ってみればそういった気配を消すスキルがついた物になる。


色々調べているととあるスキルを見つけた、【気配希釈】スキル。


このスキルは自身の気配を周りへと溶け込ませるというスキルでよく聞く【気配遮断】スキルなどとは違い完全に気配を消すわけじゃないという特徴がある。

これだけ聞くと不完全なスキルの様に聞こえるが実際にはこれはこれでいい所がある。


【気配遮断】などの気配を消す系のスキルでは、気配を消すという事実が残ってしまう。それはそれで強力なのだが気配を消すと言う事はその場所だけ何も気配がない事になるので逆に気づく可能性が出てくる。

それに比べると【気配希釈】は気配を溶け込ませるので、そこにいるのは何となくわかるけど、どこにいるかは分からないという不思議な状態になる。


どちらもメリットデメリットがありそれぞれが強スキルだ。


そんな感じで【ジェヴォーダンの夜】は使用する事で30メートルの範囲内にいる指定された人の気配を周りと馴染ませるという魔道具になる。


用途としてはダンジョン内での野営時などに使うのが一番いいだろう。


だけれども、俺には【野営地】スキルがあるので使う事が無い。


売ろうとも思ったが【ジェヴォーダンの夜】のような効果のある物は中々珍しく手に入る機会があまりないので、どうせならとクランの所有物として使えるように新井さんに渡した。


クランの人数はあれから増える事も減る事も無く順調にダンジョンを探索しているらしく時々ダンジョン内で泊まる事もあったそうだ。

【ジェヴォーダンの夜】があれば野営が楽になると新井さんが喜んでいた。


そしてその場でAランク試験合格のお祝いをしてもらった。

Aランク試験を受けると言う事は日常の会話でしていたのだが合格したのはまだ言ってなかったのだがどうやら花井さん経由で知ったらしい。


ささやかだがお祝いをしてもらい、その時に今度また一緒にダンジョンでも行こうと約束した。


俺とクランのかかわり方っていうのは恐らく普通ではないんだろう。たまにしか顔を出さないし一緒にダンジョン行くことも少ない。

最近は特に忙しかったしクランでの活動というのはしてこなかった。


Aランク試験も終わって落ち着いたし、これからはもっと顔を出してもいいのかもしれない。






◇  ◇  ◇  ◇






「おはようございます」


「おはよう、神薙君」


というわけでクランハウスへとやってきました。

家の中には新井さんと花井さんがいて何やら書類作業をしてた。


「他の人はダンジョンですか?」


ぱっと見だが今いるのはこの二人だけのように感じる。


「あぁ、みんなダンジョンへ行ってるよ」


「そうなんですね」


「何か用事でもあったのかい?」


「いえ、ただ顔を見せに来ただけです」


「そっか、ゆっくりしていくといいよ」


「はい」


予定を聞く事も無く突然来たんだしそりゃ都合よくいないか。

どうしようかな。




「あ、そういえば……ずっと忘れてたけど手袋買わないと」


ずっと前に壊れかけのまま今も使用を続けている仮想空間使用時に操作するための手袋、時間も出来たし買いに行こうかな。


「新井さん、来たばかりですけど買い物思い出したので行ってきます」


「了解、夜には戻ってくるのかい?折角だし晩御飯でも一緒に食べよう」


「んー、わかりました。買い物が終わったらまた来ますね」


夜7時までには帰ってこれるようにしないとな。






◇  ◇  ◇  ◇





「新しい機種が出てるじゃん」


場所は変わって複合商業施設にあるPC関連のハードが売っている所へと来ている、目の前にあるのはつい最近発売されたばかりの新デバイス。


お手頃価格の物は8万円ほど、高性能版の物は40万ほど。


今使っているVRのゴーグルはひと昔前に高性能だと言われていた物、今では古い物になってしまったがまだ十分に使えるレベル。

だが今目の前にあるのは何やら最近できた新しい技術を使っているらしくこれまでの物とは比べ物にならないほど高性能と書かれている。


『マスター、これぐらいの物なら私でも作れますが?むしろこれよりいい物を作れますが?』


『おおぅ。うん、まぁ作れるんだろうけど自作沼には浸かりたく無いから既製品を買うよ……』


買い物をするにあたってヘレナを連れてきている。

連れてきていると言っても俺がかけているメガネ型ディスプレイ上にいるだけだけど。


何やらヘレナには機械?としてのプライドがあるのか俺がこういった機械系の何かを買おうとすると対抗心を出してくる。


実際彼女が作る機体などはかなりの出来だしそこは疑っていないのだが、こういったデバイスはまだ既製品を買う方が安心する。


自分で組む人達がいるのは知っているが、ちょっと見聞きしただけでもその沼の深さがうかがいしれるので怖くて触れられない。




VR用のベッドも買っておこうかな。


お金ならあるんだしこの際欲しい物は全部買っていくか。


この時代になってよかったと思えることの一つは。かさばる買い物をしても配達技術が発達しているので待つことなく家まで送ってもらえる事だ。

他にも出かけるときとかにも自動運転のタクシーがあるので公共交通機関の時間を気にする必要も無い。


いい時代になったものだ。






◇  ◇  ◇  ◇






「あー、お腹いっぱいで動けない」


現在地は【格納庫】内、置いてあるソファーにどかっと座りお腹をぽんぽんと叩く。

買い物を終えてからクランハウスへと帰り新井さんと雑談をして過ごし、その後焼肉を食べに行った。

高級な所ではなく普通のチェーン店の焼き肉屋だ、そういったところで十分満足できる。


晩ご飯を食べた後は解散となり、我が家へと帰ってくる。その時間に合わせて昼間に買い物したやつを届けてもらうように手配しておいた。


家に帰ってきてからは【格納庫】から作業員ロボットを呼び出し荷物を運んでもらう。

そうしてするべきことがすべて終わってから【格納庫】へと来て休憩している。


なぜ【格納庫】なのかと言うと何やらヘレナが自分用の武装を新しく作ったとかでそれのお披露目だ。

この間作ったやつは急造品なので改めてちゃんと作り直したと言う感じだ。


「それで、それが新しく作ったやつなの?」


「はい、見た目はあまり変わっていませんが性能が大きく変わりました」


そういってヘレナが見せてくれた武装はこの間のとあまり変化は無いように見えるがよく見ると細かい所が違っているようだ。


「何か武器でも増やしたの?」


「はい、こちらをご覧ください」


武装を身にまとっているヘレナがそう言うと肩の部分の装甲がパカッと開いて中を見せてくれる。


「んー?ってそれは!まさか!」


「はい、映画などでよく見る小さなミサイルです」


ヘレナの肩の装甲が開いた場所にあったのは映画や漫画などでたまに見る機械が飛ばす小さなミサイルだ。


「威力は……?」


「もちろん十分にあります、後で見ますか?」


「もちろん!みるみる!」


ヘレナは男心をくすぐるのがうまいな……俺の武装にもほしいぞそれ。


「他にも───



そういった感じでヘレナの新たな武装のお披露目をしたりしてその日は過ごしていった。








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