閑話 山田乃愛の日常 #1

閑話 山田乃愛の日常 #1









人生の分岐点とは自分で見つけ出すこともできますがそのほとんどはいつも突然のような気がします。


私は以前から今の仕事が自分に合っていないのじゃないかと自問自答していました。

今の時代には珍しい部類となった会社への出勤、毎日同じ時間に同じ場所へ行き変わらない仕事を続ける毎日。


ダンジョン協会、それも東京支部配属となると周りからはエリートだと認識され同期からは羨望のまなざしで見られることもしばしばあります。

しかし実際には書類を整理して時々調整の電話を入れるだけの業務です。


学生時代には探索者としてそれなりに活躍していたのですがパーティの解散を気に社会人へとなったのが運命の分かれ目でした。


想像とは違う仕事、想像とは違う毎日。それでも今の仕事を突然辞めるわけにもいかず惰性で過ごす日々。

そんなある日の事、上司である柳さんから声がかかりました。



「Aランク試験の試験官ですか………?」


「そうだ、ダンジョン協会で働く時の契約にあっただろう?見合う能力がある場合試験官をする事があると」


確かにそういった契約があった事は覚えています、探索者としての実力に合った手当がでて給料が良くなるのでレベルとステータスにスキルを申請した覚えがあります。

権限がある人ならば職員の探索者としての情報を見ることが出来たはずです、そしてその代わりガチガチの魔法契約を結ぶ必要があると。

さらにその魔法契約を結ぶと言う事はダンジョン協会の職員としてずっと働くのを了承したとみなされると。

別の角度から見れば突然仕事が無くなる危険性も無くなるとも言えますがその辺どう思うかはその人次第ですかね。


「確かにその契約があった事は覚えていますがどうして私なんですか?」


「色々と理由はあるが、君は今の業務に疑問を感じているのだろう?あぁ、ごまかさなくていい別にどうこうしようという話しではない」


「はい」


「山田さん、君は試験官を担当した職員には新しくとれる選択肢と言う物があるのを知っているか?」






◇  ◇  ◇  ◇






柳さんの提案を了承した私はAランク試験の試験官を務める事にしました。

今回、Aランク試験を受けるのはまだ高校生の男の子。神薙響さん。


16歳でAランク試験を受けれるほどの実力と実績を持っているとは驚きです、一般的にはどれだけ早くても20代後半ぐらいにならないとそれほどの実力は身につかないと言われていますが時々彼のような新星が現れるものです。

確か何十年か前にも彼と同じ様に若くして実力を持った人物がいたはずです、そう言った人はいない事は無いですが数えるほどはいないと言ったところでしょうか。


そうして始まった試験内容の説明ですが、話しを聞いている彼の態度を見ると好感を持てます。

実力がある人と言うのは得てして高慢になる事があります、それに比べると神薙さんは高慢になる事も無くごく普通の高校生といった感じでした。いえ、一般的な高校生よりも落ち着いているでしょうか?とにかくそういった印象を持ちました。


その日は試験内容を説明し、私が同行する事も説明してそれから私がついていくのに支障がない程度の実力がある事を証明しました。

人によっては実力を証明する必要も無いと思うかもしれませんが同行すると言う事は彼と一時的にも一蓮托生となると言う事、ならば不安材料は無くすべきです。


神薙さんもいい子ですし、これなら何事も無く試験が済むと。


その時の私はそう思っていました、彼がどうしてその歳でAランク試験を受けるほどの実力があるのかという事を忘れて。






◇  ◇  ◇  ◇






Aランク試験の内容は【資格の塔】100階にある【資格証】をとってくる事と放棄ダンジョン【管理番号5061】の制圧の二つです。

どちらも一筋縄ではいかない内容です。【資格の塔】では探索者としての知識と行動力が試され放棄ダンジョンでは戦闘力が試されます。


神薙くんがまず向かったのは【資格の塔】でした、私でもそうしたでしょう。

【資格の塔】はそのダンジョンの特徴から徐々に力を出しやすい、言って見れば準備運動がしっかりとできる場所です。


1階【条件:レッサーゴブリンの討伐×1】

とても簡単な討伐です。


神薙さんはここに来るまで武器らしい武器を持たずに来ました、防具は展開型の物を使っているようです。

それに荷物も少ないので恐らく彼はアイテムボックス系のスキルかアイテム袋を持っているのでしょう。


どうやら武器を取り出すようです、行動を見守っていると取り出したのは銃………ですか、珍しいですね。

銃は弱い敵には効果的ですがランクが上がれば一気に役立たずになる武器です、それでも使うと言う事は彼は銃関係のスキル持ちと見たほうがいいですね。


神薙さんが扉を開けて先に進もうと………ん?今微かに銃声が聞こえてきたのと同時に彼から「あっ」という声が聞こえました。

どうやら扉を開けてすぐに敵がいて驚いた物の反射的にレッサーゴブリンを倒したようです。


一瞬動きが止まりましたがすぐに動き出して次の階へと向かう事になりました。



2階は【条件:薬草×1の採取】ですか、一見簡単なように見えて実際には薬草の知識がしっかりと無いと草の見分けがつかず大変な内容です。

しかし彼は何やらもごもごとしたかと思うと一直線に茂みへと入り草を一つとってすぐに次の階へと向かいました。


どうやらきちんと知識はあるようですね。




そうして気がつけば次は20階となる所まできました、正直攻略スピードが異常で驚いています。

私も【資格の塔】を攻略した事がありますがその時はソロで1日で10階を超えるかどうかというところでした。

それに比べると神薙くんの攻略スピードは凄まじいです。討伐系も採取系も迷うことなく一瞬で成功させているからなのですが、なぜ彼にはどこに何があるのかわかるのでしょうか。魔物は気配察知スキルだとしても採取は目的の物がどこにあるかもう少し探すものだと思うのですが。


そんな風に考えていると彼が声をかけてきました。


「さて、山田さん」


「はい、何でしょうか?」


ここまで特に話すことなく来ましたが気がつけば時間もかなり立っていますしその事でしょうか。


「取り合えず今日のところはここまでにしたいと思います」


やはり探索終了の話しでしたか。


「分かりました、それでは一度外に出ましょうか」


「あぁちょっと待ってください」


「はい?」


外へと出ようとしたら呼び止められました。


「外には出ないです」


「はぁ、ここでキャンプすると言う事ですか?一応テント類は持って来ていますが」


「いえ、ここでキャンプもしないです。俺のスキルを使います」


「スキルですか?」


「はい」


スキルで休憩所でも作ると言う事でしょうか?よくわかりません。覚えている限りそういったスキルは聞いた事も無いですが。


「な、何ですか?それは」


神薙さんが手を何もない場所へとかざしたかと思うとそこに渦が出来上がりました。


「これは【野営地】というスキルで別空間に休憩場所を作るスキルです」


「異空間系のスキルですか!珍しいですね!」


「はい、今日はこの中で泊まりたいと思いますついてきてください」


異空間系のスキル!とても希少でひとつ持っているだけで大きなクランへと誘われるほど優秀なスキルが多いと聞きます。


彼は渦へと灰って言ったので私も中へと入ります。


「わぁ………私、異空間系のスキルへと入るのは初めてです。知識としては知っていますがこんな風になっているんですね」


思わずテンションが上がる、私は今とても貴重な体験をしています。知識としてこういった物があるのは知ってはいますがやはり自分自身で体験するのとは大きく違います。


【野営地】という名前のスキルですが中はどこまでも自然な草原が広がっており近くには家が建っているのが見えます。


「山田さん」


「はい!」


「そこにあるログハウスを使用してください、中にある物は自由に使ってくれていいのでわからない事があれば言ってくださいね」


「わぁ、可愛いログハウス!ありがとうございます。あの、見て回っていいですか?」


「はい、自由に見て下さい。一応ここには端っこが存在してそこには目印が置いてあるのでそれだけ気を付けて下さいね」


「はい!」


木のぬくもりがあるログハウスは家の中も素敵で電化製品なども揃っておりかなり充実しています。


ある程度見て回ってから外へ出ると神薙さんが晩御飯の用意をしてくれていました、どうやらBBQのようです。


お肉美味しかったです。




そうして迎えた2日目、さて行きましょうというタイミングで突然神薙さんが何もない空間から女性を呼び出しました。


「というわけで、ヘレナ出番だ」


「はい」


「どぅえぇっ!だ、誰ですか!?」


突然すぎて変な声が出てしまいました。



「神薙さんってソロじゃなかったんですか!?」


「ソロですよ、ヘレナは俺のスキルですね」


「スキルですか?なるほど………人造人間を作り出すようなスキルと言う事ですね?珍しいですがそういったスキルがあると言う事は知っています」


「あー、そうですね。そんな感じです」


どうやらスキルで作られた存在みたいです、【召喚】などで呼び出される【召喚獣】などと同じ種類と言う事でしょう。名前はヘレナさんですか。

ダンジョン内だけで呼び出す分には申請などは必要ありませんが、外で許可証無しに呼び出すとペナルティがある事は知っているのでしょうか?あとでそれとなく聞いておきましょう。


って言うかさらに何か機械が出てきました!何でしょうあの青色をした乗り物のような物は。


当たり前のようにと言えばそうなのですが彼にとっては当然の戦力なのでしょう、神薙さんはそのまま扉を開けて進んでいきました。


どうやら想像以上に神薙さんは多才のようですね。




その後も順調に進んでいき攻略を開始してから8日目、神薙さんが一度地上へ戻りましょうと提案してきました。

私的には彼の【野営地】スキルもありますしずっと潜っていられるのですが、どうやら神薙さんは私に配慮してくれているようです。


本当に大丈夫なのですが仕方ありません、彼の善意を断ることもできませんからね。


そうして8日攻略して2日休むというルーティーンの生活が始まりました。




順調に進み52階【条件:エリア内のどこかにあるゴブリンの巣×1の破壊】が目標の時にそれは起こりました。


条件を見た後扉から先へと進み、神薙さんは立ち止まったかと思うと突然ドローンを何体も呼び出しました。

見た目は配達などでもよく見る一般的な形のものですが大きさが少し違います。


何をするのかなと見ているとドローンは飛んで行き暫くしてから突然大きな爆発音が聞こえてきました。


どうやら彼はドローンに爆発物を乗せて飛ばして巣を破壊したようです。


確かに有効な手ではあります。しかし何と言うかもっとこう………いえ、それは言っても仕方ない事です、その時一番効果的な選択をする。探索者にとって大事なことです。



そうしてまた進み62階【条件:エリア内のどこかにあるオークの巣×2の破壊】がやってきました。


またしてもドローンを飛ばしましたが爆撃するわけでは無いようで偵察を目的で飛ばしているみたいです。

少しすると目標を見つけたのか神薙さんは突然バイクを取り出しました。


空を飛ぶバイクです、こういった物があるのは知っていますが乗るのは初めてです。

体を固定するものが何もないので少し怖くて神薙さんの腰をぎゅっと掴んでしまいました。


っていうかヘレナさん、空を飛んでいませんか!?飛べるの!?



少し飛んで行くと目的地に着いたのか高度を下げてバイクから降りました、巣からは少し離れているようなのですがここから攻撃するみたいです。


神薙さんが取り出したのは黒一色のハンドガンです、あんな小さな銃でどうするつもりなのでしょうか?


位置調整をして銃を構えると銃身が4つに分かれ回転し始める、そこにエネルギーが溜まっていきました。

何やら特殊な銃のようです。


すると突然大きなエネルギー砲が発射されました、次の瞬間見えるのはものすごい音と同時に伸びていく光の柱、5秒ほど照射が続きふっと光が消える。


私は後何度驚けばいいのでしょうか。

確かにスキルによっては見た目が派手だったりするのですがここまで衝撃的なのは初めてです。





その後も順調に進んでいき【資格の塔】攻略開始から24日目、ついに100階へとやってきました。


100階

【条件:〝封印されしジェヴォーダンの獣〟の討伐】


結果から言えば無事討伐しました。


正直エリアの雰囲気が怖くて何があったのかあまり覚えていません。

出来れば二度と行きたくないですね………。






◇  ◇  ◇  ◇






【資格の塔】の攻略が終わってから少しして次は放棄ダンジョン【管理番号5061】の制圧に乗り出しました。


【管理番号5061】ダンジョンは目的地まで遠く移動にかなりの時間がかかってしまいました。

これは何か手をうたなければと考えていたところ神薙さんも同様に考えていたようで、あの空を飛べるバイクを使えないかと言っていました。

結果としてはバイクは無理だったのですがその代わりヘリをまわしてもらえるようになりました。


その後少し準備してから制圧開始となったのですが、どうやらまず偵察から始める様でドローンを飛ばしています。

ドローンからの映像が空中に投影されて分かりやすいです。


偵察が終わり神薙さんがダンジョンへ入るかとおもいきや今度もまた何かを呼び出しました。


あれは何なのでしょう?銃に機械の足が生えています、それがぞろぞろと何機も出てきています。


1体2体、途切れる事のない銃の列。何体出てくるんですか!?


全部で100体ですか、あれ1体がどれほどの戦闘力かわかりませんが数は力です。


神薙さんが言うところの【機銃】と呼ばれる先ほどの機械がダンジョンに入ってから暫くは眺めているだけでした。

10分ほど待機していると中へ入る事にしたのか神薙さんが立ち上がり装備の点検などをし始めました。

それに合わせて私も同様に準備します。


ダンジョン内へ入る彼を追う形で私も中へと入ります、ダンジョンは洞窟型になっており普通ですが死んでいる魔物の数が普通ではありません。

おびただしい数の魔物が通路で死んでいます。


魔物の死体を神薙さんは回収していきますがこの数だとその内容量の限界を迎えそうですね。






◇  ◇  ◇  ◇






【管理番号5061】の制圧を開始してから2ヵ月が経ちました、ダンジョン攻略は順調に進んでおり現在地は67階。通ってきた道には魔物がほとんど残っていないでしょう。


地上へと戻る度に進捗については報告していますが、柳さんも攻略スピードに驚いているのが文面からわかります。


それにしても神薙さん、道中の魔物をほぼ全て回収しているようなのですがどこかに吐き出す事も無くずっと回収ばかりしています。

そう言えば事前資料に彼は予想される討伐数よりも売却数が少ないという報告がありましたね。


こうやって近くにいて初めて気づきましたが恐らくこれは対価を必要とする何かしらのスキルを使用しているのかもしれません。


スキル使用に対価を必要とするのは珍しい物ではありません、代表的なので言えば魔法系スキル。あれらは全て魔力などを対価にスキルを使用しています。

他には剣術系のスキルも使用するのにスタミナを消費するものがあります。


恐らく神薙さんは魔物の死体、または素材を対価として使用する何かしらのスキルがあるのでしょう。


彼のスキルについて推察していると安全地帯へとやってきました、ここはどのダンジョンにも存在する魔物の入ってこないエリアになります。

一般的なパーティではここで野営をしたり休憩をする場所なのですが神薙さんには【野営地】スキルがあるので使う事は無いのでしょう。


ここに来るまでにも休憩をとりたいタイミングでいつでも【野営地】へと入れるのでお手洗いなどでとても助かっています、普通ならこういった安全地帯でなければ安心して済ませることもできませんから………。


神薙さんに頂いたおやつを食べながら休憩しているとヘレナさんが何か見つけたのか話をしています。

聞こえてくる内容から相手は象型の魔物であるタイラントでしょう。


大きな体が特徴な魔物ですがそれが一番厄介になる魔物でもあります。

どうするつもりかと見ていると何やら新しくでかい機体を呼び出しました。

1体は【資格の塔】100階でも見た、たしか【不壊】でしたか?それと初めて見る方は何でしょう。


大きさは【不壊】と変わらないのですがとても大きな銃口がついているように見えます。


「山田さん、こっちに。それとこれを」


「は、はい。耳栓ですか?」


「あまりうるさくはないですが一応つけておいてください」


神薙さんに耳栓を手渡されました、どうやら大きな音がなるようです………。


耳栓をつけて眺めていると動きがありました。

初めて見る機体の方が足の先から何やら地面へと杭をうちはじめました。

するとすぐに大きな銃口にエネルギーが溜まっていっているように見えます。


もしかしてアレを撃つのでしょうか………?

眺めていると周りを囲むように車ほどの大きさの機体が集まってきました、どうやら壁のようにするみたいです。


「きゃっ」


大きな射撃音に衝撃波がやってきて思わず声が出てしまいました。

とてつもない破壊力のありそうな攻撃でしたね………。


探索者としての知識もあり、手数もあり、攻撃力もあるとなると彼がソロなのも納得です、パーティと言うのはお互いに苦手な部分を支え合っていくものですが神薙さんにはそれが必要ないんですから。


本人もソロのほうが気質が向いているように見えます。






◇  ◇  ◇  ◇






そうして神薙さんのあれこれに驚きながらも日々が過ぎて行き、気がつけば80階層。ダンジョン協会の事前調査通りの階層にボス部屋がありました。


彼はここにくるまで特に危うい所も無く順調に進んできています、実力的には既にAランクを越えているようにしか見えません。



「門がでっかいなぁ、これってどうやって開くんだ?」


神薙さんがボス部屋の大きな扉を見て思わずといった様子で呟いています。


「こういった扉は進む意思を持った状態で触れると開くようになっているんですよ」


「へぇそうなんだ」


物理的にどう見ても人の力では開けそうにもない大きな扉、力のステータスに特化している人ならあるいは開くこともできるかもしれませんが、こういった扉は開くためのギミックがついているのが常です。


「ヘレナも準備は大丈夫?」


「はい」


「山田さんは?」


「大丈夫です!」


それぞれ準備ができているか確認してから扉を開いていきます。


「また変わったボスエリアだな」


ボス部屋の中は左右を大きな断崖絶壁の山に挟まれた谷間で中心に川が通っており小さな一軒家の家がぽつぽつと建っていますが他は道と草原だけです、海外のまだ手付かずの土地にはこういった場所があると聞きますがいつか言ってみたいものです。


ボス部屋に入ってからはいつも通り神薙さんがまずは偵察用のドローンを飛ばそうとします。


「ヘレナ、偵察を───」


「マスター!敵です!」


「グルァァァァァァァァ!」


「っ!まじかー最後にこれか」


その咆哮を聞いた瞬間に敵が何であるか気づきました。

太い手足、背中から生える大きな翼、顔はトカゲの様で額には鋭い角が伸びています。


ドラゴン、それがボスでした。しかもアレは………。



「神薙さん!流石にドラゴン相手はまずいです!」


「山田さん?」


ドラゴンはこちらをひと睨みしたかと思うと再びどこかへと飛んで行きました、おそらくこちらの様子を伺っているのでしょう話すなら今のうちです。


「ぱっと見になりますがあのドラゴンは恐らく【ドライグ】です、見た目は普通の赤い竜ですがその実力はAランクの中でも上位の部類になります。あれを倒すにはパーティ単位でないと危険です。幸いこのボス部屋は戻る事が可能なようですし一度考え直した方がいいと思います」


【ドライグ】

ドラゴンには色んな種類がいますがその中でも危険とされている種類のドラゴンです、通常のドラゴンよりも力が強く特に悪知恵が働くので戦闘が長引けばそれだけこちらの嫌がる事をしてくる事で有名なドラゴンです。


今も様子見ですが空を飛んでいつでもこちらへ突撃できる体勢をとっています。



「なるほど。とりあえずヘレナ警戒態勢、いつでもボス部屋を出れるように準備」


「はい」



「山田さん、もし【ドライグ】に襲われてもあなた一人なら逃げれますか?」


「私は………逃げるだけなら一人でも大丈夫ですが」


「なら平気ですね」


「まさか戦うつもりですか?」


「はい」


「………………わかりました、私はあくまでも試験官として徹します。ですが万が一にでもどうしようもないと判断すれば介入しますからね」


「ありがとうございます」


私は試験官という立場を歯がゆく思う時がくるとは思いませんでした、彼が戦いたいと言えば忠告をしていつでも助けに入れるように様子をみるしかありません。


神薙さんから大きく離れるように下がり、しかしいつでも介入できるような立ち位置に移動します。



どうやら戦闘を始めるみたいですね。


アレは………?何やらヘレナさんの周りに渦が出てきましたが………っ!?何ですかあれは!?かっこいいです!ヘレナさんが変身してしまいました!


あっ、【不壊】がミサイルを撃ったかと思うと【ドライグ】のブレスで全て撃ち落とされてしまいました。

しかもその後突進を受けて大きく吹き飛ばされてしまいました。


その隙を狙い神薙さんが巣を破壊したときに使ったビームを撃ちますが【ドライグ】の動きが早く避けられてしまいます。


神薙さんとヘレナさんはそれぞれ分かれて飛んで行きましたが【ドライグ】はどうやら神薙さんを脅威と見たのか攻撃しにいきました。


バイクに乗った神薙さんがスピードを出して【ドライグ】に追いつかれないようにしながらも攻撃をしかけています。

しかしダメージを与えるとまでは行かないのか効いているようには見えません。


突然神薙さんがさらにスピードを上げて大きく旋回し始めました、それを追いかけるように【ドライグ】もさらにスピードを上げていきます。


「あれは………【不壊】を盾にしようとしている?」


彼が向かう場所には先ほど吹き飛ばされた【不壊】ともう1機同じ大きさの機体が待機しています。



【不壊】の下を通った………!なるほど【ドライグ】の動きを止めるのが目的ですか、しかしどうやって攻撃するつもりでしょう?半端な攻撃力じゃ【ドライグ】の体は裂く事ができません。



まぶしっ!何ですか!?今の光は………?アレッ!?【ドライグ】の首が落ちています!今の一瞬で何があったんでしょうか!?


ヘレナさんが何かを振り下ろした体勢で止まっています、という事は彼女が何か攻撃を行った………?ふむ。



何はともあれ【ドライグ】は討伐したようですね、まさか倒しきるとは思いませんでした。

もしもの為にと用意しておいた道具もついぞ使う事はなかったですね。






◇  ◇  ◇  ◇






「報告は以上になります」


「そうか、まさか【ドライグ】を討伐するほどの実力があるとはな」


「はい」


場所は変わって、ダンジョン 協会の会議室。私は柳さんにこれまでを事細かく報告していました。もちろん彼のスキルについては話せませんが大体にはなりますが、どういった攻撃で倒したなど、彼の人となりなど話す事は色々とあります。


「それで、どうだった?現場に出てみて」


「はい、やはり私はこちらの方が性に合っているようです」


「ふむ、では部署移動でいいんだな?」


「お願いします」


「わかった、手続きは私の方でしておこう」


「ありがとうございます」


試験官の話しを受けるとき柳さんが提案された新しくとれる選択肢。


それは、現場職になると言う事でした。


オフィスで働くのではなく、ダンジョン協会職員としてダンジョンへ出動したり探索者のサポートをしたり今よりもっと現場に出向く仕事内容になります。


どうやら私は自分で思っていたよりもダンジョンへ行って活動すると言う事が好きだったみたいです。

試験官として神薙さんと共に動きましたがとても楽しかったです。


給料も危険手当がつく分、今より良くなりますし私にとってはいいことづくめです。






◇  ◇  ◇  ◇






名前:山田 乃愛   年齢:28


レベル:85


STR:65

VIT:92

AGI:135

DEX:78

INT:560

MND:630


≪スキル≫

<上級>【補助魔法】Lv:7

<中級>【魔力操作】Lv:8

<上級>【魔力充填】Lv:4

<スキルリンク>【瞑想】Lv:6

<中級>【危険察知】Lv:3

<中級>【駆け足】Lv:3

<中級>【空間認識】Lv:2



【補助魔法】

一定時間ステータスを向上させる魔法を扱う事の出来るスキル


【魔力操作】

魔力を扱いやすくなる補助スキル


【魔力充填】

行動中でも魔力が微回復していく


【瞑想】

【魔力操作】と【魔力充填】のスキルリンク、楽な姿勢になり目を閉じる事で通常よりも多く魔力を回復する事ができる。


【危険察知】

自分へ迫る脅威を察知できるようになる


【駆け足】

走る時に疲れにくくなり、スピードも上がる


【空間認識】

一定の範囲の空間を認識できるようになる




〝余談〟

彼女の実力的にはBランク上位、パーティでならAランクのダンジョンでも行動できるほど。主に【補助魔法】を扱いサポート役になる。


今回の試験中に万が一の場合はダンジョン協会職員のみ携帯を許可される【緊急脱出】の魔道具を使うつもりでいた。



【緊急脱出】

事前に指定された場所へと転移する魔道具


この魔道具はその有用性からダンジョン協会職員の一部の物しかその存在を知らずさらに一部しか携帯する事が許可されず転移先は東京支部の地下になる。







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