第103話 【管理番号5061】 #3

103.【管理番号5061】 #3









1日に10層ほど進めていたのは4日目まででそれからは一気に攻略速度が遅くなっていった。

理由として3つほどあるのだが一番大きいのは【機銃】が魔物を倒しきるほどの火力を出せなくなった事だ。


【管理番号5061】は元々はCランクほどのダンジョンで今、魔物が溢れているこの状態がAランクに近いBだとか自分で考えて納得していたが全くそんなことなかった。

ここは階層が進むにつれて少しづつ魔物のランクがあがるダンジョンだったようだ。


4日目に40階層まで到達して5日目にいつも通りダンジョン攻略を開始したのだが出てきた魔物がオーガになっており【機銃】が何機あつまって撃とうが倒しきれなくなってしまった。

逆に【機銃】を破壊されて修理する羽目になった。


そこからは主戦力を【赤雷】シリーズに任せて【機銃】は格納庫へと戻し俺とヘレナも積極的に魔物を狩るようにした。


2つめの理由に【機銃】が魔物を倒せなくなったこととも関係しているのだが今まで数で押せていたのが一気に【赤雷】シリーズの5体と俺とヘレナだけの戦力になったので殲滅スピードがとても落ちた。


3つめに攻略した階層までの移動時間がある、このダンジョンは転移陣などの便利機能がない場所らしく何日か潜った後に地上へと戻り、また同じだけ階層を進まないといけない。

道中の敵がリポップするとはいえ一度ある程度倒しているので再び隅から隅まで倒す必要はない、しかし何十階層も進むのは時間がかかる。


そんなわけで途中からは地上に戻る頻度を落とし休日は【野営地】内でとる事にした。

1週間のうちに2日間休みをとるのは変わらずに地上に戻るのは2週間に2日、こちらの事情につきあわせている山田さんには申し訳ないとその事を彼女に話した時にはむしろ気にしないでくださいと言われた。


自分の事で試験を失敗するほうがよくないので気にしないでください、とのことだ。


まぁ言われてみれば確かにその通りなのだがやっぱり気になる物は気になるので、ある程度は配慮しつつ予定をたてよう。


そんなこんなで攻略スピードはおちたものの【管理番号5601】へ来てから2ヵ月、現在の到達階層は67階だ。






◇  ◇  ◇  ◇






「この辺は安全地帯かな?」


「そのようですね、周りに魔物の気配を一切感じません」


「ついでだしちょっと休憩していこうか」


67階は森林と草原が合わさった階層でいつも通り魔物を倒していた。

【赤雷】シリーズの3機ほどを先行させて盾役のような事をさせつつ残りの2機と俺とヘレナで遠距離から攻撃していく戦闘スタイルをとっていた。


そんな風に進む事2時間、不自然なほどに魔物のいない場所へと出た、ここは所謂安全地帯と呼ばれる物だろう。

深く潜る必要があるダンジョンではしばしばこういった不自然なほどに魔物の近寄らない場所が出てくることがある。

そういった場所は休憩場所として探索者に使われている、過去に行ったダンジョンでも同じ様に安全地帯はあったのだが休憩するなら【野営地】のほうが便利なのでいつもそちらを使っていた。


今回はあえてここで休憩する、今【野営地】に入ってしまうと気が抜けるしこの後まだ進む事を考えると気分を落としたくない。


【空間庫】から飲み物とおやつにチョコを出して適当に座りながら食べる。


「山田さんもどうぞ」


「はい、ありがとうございます」


「マスター、私は偵察ドローンを飛ばしておきます」


「了解、頼んだ」


休憩しながらも【赤雷】シリーズを【格納庫】へと一度戻し軽くメンテナンスを行う、何もないとは思うが出来るときにやっておいた方がいいだろう。

【赤雷】シリーズがいなくなった代わりに【機銃】を呼び出しておいて周囲に警戒網をはる、この階層の魔物は倒せなくても敵がくれば警報がわりにはなる。


チョコを食べ終わったら次に自分の銃のメンテナンスを行う。


汚れがついていたら拭くとかその程度だが銃を見ていく、分解してメンテナンスは週に1回ほどで普段は軽く見る程度だ。

本当なら使用したら毎回分解してメンテナンスするべきなんだろうけどそこまでするのは疲れる。

それにもし壊れても手軽に買えてしまうと言うのもあるのかもしれない、大事にしないわけじゃないけどそこまで大事にはしないって感じだな。


「マスター」


「ん?どうかした?」


「これを見て下さい」


ヘレナがそう言うと空中へと映像を投影した。


「んー象?」


映像に映っているのは動物園などで見る象に近い見た目をしている、ただ体の所々がデコボコとしていて装甲のようになっている。


「大きさは20メートルほどの象型の魔物のようです」


「20メートル………でかいな」


「はい」


「ならこっちもでかいのを出すか」


休憩をお終いにして立ち上がり、【格納庫】から【不壊】を呼び出しておく。


そしてもう1機、今回新しく作った奴を呼び出す。


大きさは【不壊】と同じぐらいで4つ足の多脚だ、だが一番違うのは今回作ったものは人が乗り込めるようには設計していない。

【不壊】にだってほぼほぼ乗らないからな意味無いような気がしてつけなかった、一応後から乗り込めるように拡張性は残してあるらしいがその時が来れば改造しよう。


他にも違う場所はボディが戦車のような楕円形でそこに明らかに大きな武装が取り付けてある。一見、角のようにも見えるぐらい飛び出している砲身、これがこいつの武器になる。

エネルギー系のカノン砲で超遠距離火力特化の機体だ。名前は【砲懐】。当て字だ。


【不壊】は武装を付け替えたりして色々と出来るが【砲懐】は火力特化の射撃のみ、大物専用だ。


まぁそうはいっても試射しただけで実際どれだけ通じるか分からないのでこの機会に試したい。


「ヘレナ、その象型の魔物はどの辺にいる?」


「3時の方向およそ12キロ先です」


「ならいけるか。よし、ここから撃つぞ」


「はい」


俺の合図でヘレナが【砲懐】を操作して標的へと照準を合わせていく。

計算では【砲懐】の有効射程距離は30キロ、もちろん計算上の事なので実際にはどうか分からない。

それに衛星代わりの偵察ドローンなどの支援もありきの話しだ。


「山田さん、こっちに。それとこれを」


「は、はい。耳栓ですか?」


「あまりうるさくはないですが一応つけておいてください」


俺はフルフェイスでしかもこの防具には音を抑制する機能もついているので耳栓はいらない。

さらに【格納庫】から【赤雷】シリーズを呼び出し俺とヘレナと山田さんを囲むように配置して壁にする。


「射撃体勢」


「射撃体勢はいります」


俺の合図で【砲懐】が脚を広く動かし姿勢を整えたかと思うと4つある脚の先から杭が地面へとうちこまれる。


「射撃体勢完了、照準をドローンからの情報と連携、同期します………完了。続いてエネルギーチャージを開始」


射撃体勢を整えた【砲懐】は次に砲身へとエネルギーをチャージし始める、何とも言えない不思議な音が微かに聞こえてくる。


「エネルギーチャージを完了、いつでも撃てます」


「攻撃開始」


「攻撃を開始します」


攻撃開始の合図をすると【砲懐】の砲身が青色に淡く光りすぐにビームが放たれた。


「きゃっ」


「おー、やっぱり派手でいいなぁこれ」


エネルギー系の射撃音と反動による地面の揺れに空気の震える風圧を感じる、【赤雷】シリーズを壁にしていたので大丈夫だったが壁がなかったら風圧とかで尻もちをついていたかもな。


「象はどうなった?」


「倒しきれたようです」


空中に投影していた象の映像を見ると綺麗に頭だけが無くなった象が倒れていた。

距離が12キロあってもこの威力か、かなり使えるな。


「砲身はどうだ?」


「砲身冷却システムの作動を確認、再使用可能まで5分といったところです」


ヘレナに話しを聞きながら【砲懐】の様子をみる、砲身の部分がパカッと開きシューという音が聞こえ、放熱しているのがわかる。


「うーん、やっぱり砲身入れ替え式にするべきだったか?だがなぁ毎回GP使うのはな」


今現在使っている武装は1回撃つたびに冷却時間を挟んでまた撃てるようになるというタイプだ、もうひとつこれとは違うタイプで撃つたびに砲身を入れ替え冷却時間を短縮するものがあったが交換するタイプは毎回そこそこのGPを消費してしまうのでどっちも一長一短があり悩ましい。


考えながらも取り合えず回収用ドローンを飛ばしておく。


「ん?大丈夫ですか?山田さん」


「は、はい………すごい衝撃でしたね」


振り返ると山田さんが口をあけて放心していたので心配になり声をかける。どうやらさっきの【砲懐】の攻撃が衝撃的だったみたいだ。

試射したときは俺とヘレナだけで確認したので山田さんが見るのは今回が初めてだ、ならしょうがないか。






◇  ◇  ◇  ◇






安全地帯での休憩を終えて、【不壊】と【砲懐】を【格納庫】へと戻してから探索を再開した。


「安全地帯を抜けたらこれか、ほんとに敵が多いな」


目の前に広がる草原にはゴブリン、オーガ、ミノタウロス。空にはグリフォンに鳥型の魔物の姿も見える。


メイン火力に【赤雷】シリーズを置いて【機銃】には倒しきれなくても足止めはできるだろうと妨害を任せて俺とヘレナで殲滅していく。


出来るだけ手数少なく倒したいのでアーツスキル全開だ、【マハト】や【魔法転換:銃弾】や【オートタレット】などを惜しみなく使っていっている。


【不壊】を呼び出すスペースが出来ればすぐに呼び出してさらに殲滅スピードを上げる。

回収用ドローンも呼び出しておき進行の邪魔になりそうなやつは無理やりにでも回収してもらう。


「回収したやつをGPに換えて、弾補充に【リロード】して、ヘレナ!右側がちょっと危なそうだぞ!」


「はい」


ある程度倒せば敵の数も落ち着いてくると思うがそれまでが大変だ。

もう数体【赤雷】シリーズを増やすべきか?進むにつれてエリアが広くなってきてこちらの手数が足りなくなってきている。


「手榴弾!」


時たま思い付いたかのように爆発物を投げておく、これだけ敵がいれば適当に投げても大体はあたる。

〝龍殺しの一撃〟を使えば一気に殲滅できるのだがそうするとGPが稼げないので危なくなるまでは今のままでいくつもりだ。


「ヘレナ!【不壊】を前に!」


「はい」


チラッと奥を見れば何やら大きい魔物が見えたので取り合えず【不壊】に突撃してもらう。ついでに道中の魔物を押しつぶしてもらおう。


その間にドローンへと爆発物を積載した物で爆撃を開始するよう操作していく。


「あれはマンティコアか」


手榴弾に爆撃に【不壊】の突撃で魔物が一気に減って余裕が出来たので先ほど見た大きな魔物を見る。

人のような顔に四つ足のライオンのような姿、体高は5メートルはありそうだ。


【不壊】を盾にして援護射撃を始める。


急所であろう頭を積極的に狙いひたすら撃ちまくる。


「【マハト】」


勿論射撃の火力アップも忘れない。


1つ2つとマガジンを撃ち切っていき4つ目をリロードしたあたりでマンティコアが倒れた。


「ふぅ………疲れた」


マンティコアが最後の大物だったのか気づけば生きている魔物の姿が見えない。


「お疲れ様です、マスター」


「ヘレナもお疲れ様、悪いけど回収ドローンを頼む」


「はい」


ヘレナに回収を任せて俺は【機銃】を警戒へと回していく。


もうすぐ夕方か。今日は疲れたし早めに次の階段を見つけておきたいな。

感覚的にはそろそろ見つかってもいいと思うんだけどな。


「マスター」


「ん?」


「階段を見つけました」


「お、見つけたか。それじゃ回収おわったら階段まで行って今日の探索はお終いにしよう」


「了解」


丁度良く飛ばしていた偵察ドローンが階段を見つけたようだ、これでゆっくりできる。








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