第99話 【資格の塔】 #3
99.【資格の塔】 #3
「またか、これめんどくさいんだよな」
【資格の塔】82階、攻略を開始してから15日目になる。今日が終われば休みを入れる予定なので出来れば進めるだけ進みたいのだがこの階層の条件がまためんどくさい。
82階
【条件:エリア内のどこかにあるカニス草を採取して下級回復薬軟膏タイプ×1を調合し納品、エリア内のどこかにいるサイクロプス×5の討伐】
要するに薬の調合とサイクロプスを倒すだけなのだが今までどちらかだったものが今では複合して出てくるようになった。
ここまで【資格の塔】を攻略していてわかってきたのだがこのダンジョンは探索者としての総合力を試される、そういうダンジョンなんだと言う事が分かってきた。
薬草などの素材を見極める知識力や魔物を探す観察力、条件内容から目的をたてる行動力やそれらを総合した探索力。
探索者としてどのレベルにいるのか【資格の塔】を攻略する事で自然とわかるようになっている。
因みに俺はほぼヘレナのお陰であれこれ出来ている、薬草なんか見ても分からないけどヘレナには分かる、魔物を探すのだってヘレナの操る偵察機に任せている。
俺も少しは薬草の種類とか勉強するべきかな………?
「マスター、カニス草です」
「これか。いくつ必要になる?」
「軟膏タイプを作るには5株ほど必要になります、後は蒸留水があれば素材はそろいます」
カニス草は葉の一部がオレンジ色に染まっており緑とオレンジのグラデーションになっている。
形は普通にその辺に生えてそうな雑草みたいな感じで1本にょきっと伸びている草だ。雑草という名前の植物は無いと言うが何かわからない物は雑草と呼ぶしかない、なのでカニス草は雑草っぽい薬草だ。
「あとはサイクロプスだけれど」
「もう見つけています、あちらの方向へ12キロほど進んだところにいます」
「了解それじゃいこうか」
「はい」
カニス草を【空間庫】へとしまい、バイクへと乗り込んで飛行モードにしてから飛んで行く。
以前の2人乗りの状態だと全員乗れなかったので今ではバイクにサイドカーを取り付けてある、後ろにヘレナが乗りサイドカーは山田さんだ。
10分ほど空を飛ぶとヘレナが示してくれた目標地点へとたどり着いた。
サイクロプスはどういった物か何となく想像つくとは思うが一応話しておくと、全長15メートルほどの巨人で一つ目、筋骨隆々でその馬鹿力が厄介な魔物だ。
「まぁ相性的に問題ないんだけれどね」
悲しいかな、サイクロプスは近接特化の魔物なので遠距離攻撃が基本の俺からすれば楽な敵だ。バイクの運転を一時的にヘレナに任せ、またがったまま〝スナイパーライフルGolf〟を取り出し狙う、弾は徹甲榴弾だ。
1匹、2匹、3匹と順調に倒していく、下にはサイクロプスが10体程いるので選び放題だ。
「ガァァァァァッァ!」
「うるさっ」
一方的に倒されていくサイクロプスだが流石に何もしてこないわけじゃない、手に持った棍棒みたいな物を投げてくるし叫ぶしでうるさい。
バイクの操作はヘレナに任せているので自動で避けてくれる、俺はゆっくりと狙って撃っていくだけだ。
「よし、倒しきった。調合するか」
「はい」
下にいたサイクロプス10体をすべて倒した、条件は5体だったが多く倒す分には問題ない。
討伐は終わったので次は軟膏の調合だ。
勿論、調合用に専用の機械を作ってある。ヘレナが。
◇ ◇ ◇ ◇
86階
【条件:エリア内で24時間過ごす】
89階
【条件:エリア内のどこかにある遺跡を調査し謎を解き対象の魔物を倒す】
93階
【条件:5時間以内にフェアリー〝麗しのローレンス〟を捕獲する】
95階
【条件:エリア内のどこかにいるグリフォン×10の討伐】
97階
【条件:エリア内のどこかにある秘石×1の採取】
99階
【条件:襲い掛かる魔物の群れに3時間耐える】
【資格の塔】で出てくる条件はランダムだ、ある程度こういった物が出ると言う傾向はある物のその階層へ行くまでどんな条件かはわからない。
階層を進めるごとにエリアは複雑になっていき環境も変わっていった、ただの森だったものが市街地になり、巨大な駅構内になったりどこかの商業施設になったり、洞窟型の迷路になったり。
条件も簡単そうに見えてとんでもなく難しくなっていった、謎解きとか俺だけじゃ絶対解けなかったと思う。
93階の条件であるフェアリー〝麗しのローレンス〟の捕獲も、捕まえる事は簡単だったのだがみつけるまでが大変で一度失敗した。制限時間に間に合わなかったのだ。
因みに【資格の塔】の条件を達成できないと攻略している階層の入り口へと戻されてやり直しになる。その際エリア内の環境も変化してさっきまでいた魔物がいなかったり、いなかった魔物が出現したりと変わっていく。
そんなわけで、休みを入れつつも攻略する事24日目、遂に100層へとやってきた。
100階
【条件:〝封印されしジェヴォーダンの獣〟の討伐】
「ジェヴォーダン………?」
名前は何となく聞いたことがあるがなんだっけこれ。
「ジェヴォーダンの獣。フランス、ジェヴォーダン地方に現れたとされる未確認生物ですね」
「ふむ?」
どうしてダンジョンに地球上の未確認生物の名前がついた魔物が出てくるのか不思議だが、そもそもダンジョンがファンタジーな存在だし気にするだけ無駄か。
これを言い始めたらゴブリンとかだってそうだしな。
「参考までに、ジェヴォーダンの獣は牛ほどの大きさの狼に似た生物とされています。ダンジョンで出てくるような魔物ですしあてになる情報だとは思いませんがないよりはましでしょう」
「獣、狼。まぁつまりそういう系って事ね」
「はい」
どういった姿形をしているか事前にある程度分かるだけでもとれる対策は変わってくる。
「じゃぁ準備するか」
普段ならこのままいくが100階で明らかにボス戦っぽいし準備は入念にする。
進んだ先のエリアの広さ次第だが【不壊】も出す準備をしておこう。
アサルトライフルをメインに、サブにハンドガンと念のために〝龍殺しの一撃〟も腰にさしておこう。
予備のマガジンは2つさして置き、他は【空間庫】へ。
あとは獣なら嗅覚などが鋭いだろうしそれ対策で何かもっていくか。
「確か消耗品の弾のところに催涙弾とかあったよな」
【GunSHOP】スキルを開き見ていく。
<ユニーク>【GunSHOP】Lv:7 ▼
LV:1 <GunSHOPを開いて売買が出来る> ▼
武器:▽
外装:▽
防具:▽
消耗品:▼
〝訓練用非殺傷弾〟1GP~▽
〝訓練用的〟2GP~▽
〝訓練用計測器〟5GP~▽
〝実弾〟10GP~▽
〝携帯食料〟3GP~▽
〝ケミカルライト〟30GP~▽
〝特殊弾〟100GP~▽
・
・
・
特殊:▽
〝特殊弾〟を開きスクロールして見ていく、催涙弾で1000GPかそんなに高くないし5セットほど買っておこう。
「こんなもんかな、行こうか」
「はい」
最終確認をしてから100階の扉を開き先へと進む、先頭は【蒼雷】に任せる。
今まで扉を出てすぐに襲われたことは無いが魔物がいたことはあったからその対策だ。
「暗視へ切り替えます」
進んですぐにその暗さに気づいた、次の瞬間にはヘレナの合図でヘルメットについている暗視機能が作動する。
「ここは草原か」
暗視が発動して見えてきたのはどこまでも続く草原だ、建物もなく木も無くひたすら真っすぐに草原が広がっている。
あるのは月明かりと星、地面に生えている雑草だけ。俺達が出す音以外何も聞こえない静寂。
「あ、山田さん大丈夫ですか?」
「はい、暗視ゴーグル持って来ていますので大丈夫です!」
「よかった、それじゃぁまたバイクに乗りましょう」
「はい」
【格納庫】からバイクを取り出し乗り込む、見渡す限り草原で魔物は姿はないし探すしかない。
「マスター!何かいます!」
「どこだ?」
ヘレナの警告を聞き周囲を警戒する。
右を見ても左を見ても前も後ろも何も見えない………いや、何か………微かに音が聞こえる?これは獣の息遣い?
はっはっはっは、と狼が舌をだし呼吸する時に聞こえるような音が微かに響いている。
「まずいな、ヘレナ飛ぶぞ!」
息をしている音は聞こえるのに姿が見えない、そして聞こえているという事は向こうはこちらに気づいているという事だ。
【格納庫】から【不壊】と【赤雷】を呼び出し俺と山田さんはバイクに乗り込み空へと飛ぶ、ヘレナには自分で飛んでもらう。
「どこにいるんだ?」
獣の息遣いが近づいているのがわかる、先ほどまでよりその音がより聞こえやすくなっているからだ。
「山田さん?」
後ろへ乗っている山田さんが震えている事に気づいた、背中へと置かれた手がぶるぶると震えている。
「だ、大丈夫です!神薙さんは戦闘に集中してください!」
「どうしようもなければ【野営地】に入っててもいいですからね?その時は行ってください」
「わかりました!」
無理はさせたくないが彼女は試験官だから安易に逃げれない。
『マスター!いました、あそこです!』
ヘレナの通信が聞こえてきてヘルメット内のディスプレイに敵のいる場所が表示される。
「あれか、残像しか見えないが」
『どうやらスキルか何かで姿をくらましているようです』
ヘレナに言われてみた場所には何かの姿がぶれた残像しか見えない、しかもそれが物凄いスピードで動いている。
「【不壊】達で囲んでいこう、向こうからの攻撃を誘ってその隙を狙う」
『はい』
【不壊】【赤雷】【蒼雷】が3方向へと動き出しジェヴォーダンの獣を囲んでいく。
「あ、【赤雷】が………」
突如大きな破壊音が響き【赤雷】が吹っ飛んでいく、どうやらジェヴォーダンの獣に攻撃されたようだが何もわからなかった。
【赤雷】の大きさじゃ耐えれないと言う事か。相手もそれが分かっていたんだろうな小さいやつから攻撃していっている。
「ヘレナ、【不壊】をぶつけてから【魔法転換:銃弾(雷)】で敵の動きを止めてくれ」
『了解』
ヘレナに指示をだし、こちらも準備する。マガジンを入れ替え徹甲榴弾をセットする。
【蒼雷】を少し下がらせ【不壊】を前にだす。
ジェヴォーダンの獣は相変わらず残像のような姿しか見えないがこちらの狙い通り【不壊】へと攻撃目標を定めたのか動き出した。
『マスター!』
先ほどと同じく大きな衝突音が鳴るが【不壊】はジェヴォーダンの獣の攻撃に耐えたようだ、そこへすかさずヘレナの銃撃が飛んでいく。
バチバチバチと雷がはじける音がしているジェヴォーダンの獣を狙い俺も撃ち始める。
「グァァァァ!!ガァッ!」
「ヘレナ!逃がすな!」
『はい』
身を低くして銃撃に耐えていたジェヴォーダンの獣が咆哮をあげて【不壊】をはじき飛ばした、その体から紺色の靄をだし何か魔法かスキルを使ったのかもしれない。
あれだけの魔物だ多少は知能があるだろう、ここで逃がすと後々面倒になるので決めきりたい。
ヘレナがジェヴォーダンの獣へと近づき逃がさないように退路を断つ。【不壊】もすぐに呼び戻し挟み込む様にジェヴォーダンの獣を抑えていく。
俺はバイクを飛ばしジェヴォーダンの獣へと近づきつつ〝龍殺しの一撃〟を取り出す、拡張パーツを取り付けてアサルトライフルへと変形させておく。
「グルァァァァ!ガッ!ガウッ!」
ジェヴォーダンの獣が青く光る刃を出現させて【不壊】とヘレナを狙う、ヘレナは飛んで回避したが【不壊】は避けれず機体が破壊されている。
ヘレナは【飛翔機】を飛ばし攻撃の手数を増やしジェヴォーダンの獣を食い止める。
その隙に俺は逃げようともがくジェヴォーダンの獣の上をとり、そこからアサルトライフルへと変形させた〝龍殺しの一撃〟で撃つ。
撃つ、撃つ、撃つ。
トリガーから指を離さずに1000発全てを撃ち切る。
「ガァッ……ァ…」
「はぁ、倒せたか」
ジェヴォーダンの獣が音を立てて倒れるのを見て体から力を抜く。
一度でも仕切りなおさせると面倒なことになると本能的に判断してやりきったがちょっと無謀だったかもしれない。
まぁいいや、倒せたしいいよね。
「それにしてもこれがジェヴォーダンの獣か」
「でかいですね………」
死んだジェヴォーダンの獣へと近づいていく、その姿は見た目はほぼ狼だが大きな牙が生えているのと体高が10メートルもあるのと顔つきがやばすぎるほど凶悪だ。
どうやっても友好的にはなれない顔つきをしている。
それにしても何とか倒せてよかったな。さっきまでの感じだとどうもジェヴォーダンの獣は闇討ちしてくるタイプっぽいな。
こちらへの恐怖心を煽り姿を見せず気づけば殺されている、そんな戦闘方法だったのだろう。
こっちに有効的な手段があったからあっさり終わったがなければ相当苦戦するだろうな。
「なんにしてもこれで【資格の塔】はお終いか。100層まで来たんだしなにか報酬とかないのかな?」
【資格の塔】は薬草などの素材は手に入っていたが魔物の素材がひとつも手に入っていない。ドロップ品はあったが特筆すべきものはなかったし何て言うかうまみの無いダンジョンだったな。
「マスター」
「ん?どうした?」
ジェヴォーダンの獣の死体が光りになって消えていくのを眺めているとヘレナがこちらへやってきた。
「これを、どうやらドロップ品のようです」
「おー!これは………ぬいぐるみ?」
ヘレナが持ってきたのはジェヴォーダンの獣と思われるデフォルメされたぬいぐるみだ、大きさは胸に抱えると丁度よさそうなぐらい。
「顔がデフォルメされてても凶悪だな………」
デフォルメされているはずなのに怖い顔、どうにもならなかったのかこれ。
「まぁこれは鑑定行きだな、ちょっと休憩してから帰ろう」
【資格の水晶】へ100階の記録を残して帰ろう、次は放棄ダンジョンだ。
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