第97話 【資格の塔】

97.【資格の塔】









【資格の塔】とは、その名前の通り塔の見た目をしたダンジョンである。一般的にダンジョンは階層を下っていくのに対して【資格の塔】では逆に登っていく形になる。

このダンジョンは特徴的な部分がある所謂特殊ダンジョンと言われる物で俺が知っているので言うと【ガチャ神殿】とかああいうのと一緒でダンジョン内の構造が何かのテーマに沿って作られている以外に何か特徴的な物があるとそう呼ばれる。



「ソロ用はあっちみたいですよ」


「はい」


前を歩く山田さん、今回のAランク試験の同行者である彼女に連れられてダンジョンの入り口である魔法陣の方へと歩いていく。

ここにはパーティ用とソロ用とがあり自分の目的にあった場所から入っていく事になるのだが今回は試験でソロなのでそちらへと向かっていく。


山田さんがいるし本来ならソロ用の方へとは入れないのだが入口で警備している係の人へと彼女が何かを話すとそのまま通された、今回のが試験だと言う事を伝えたのだろう。


因みにここに来るまでに探索するにあたっての装備などは準備万端だ、【資格の塔】についても調べてきている。

いつものふわっとした調べ方ではなくヘレナにも頼りしっかりと調べてきた。


調べた情報によると今回の目的である【資格の塔】100層へとはソロの場合挑む人の実力にもよるが大体ひと月あれば攻略可能らしい。

ダンジョンには5階層ごとに魔法陣がありそこで一度探索をやめる事も出来て再び攻略する時には途中から、という事も可能だそうだ。


他にも内部はそれぞれ個別のインスタンスエリアになっており自分以外の探索者に会うと言う事も無い。

そして人物を個別に判断するための道具があり、それが───


「この水晶って事か」


「そうです、それを5階層ごとにある魔法陣へとかざすと模様が刻まれて色が変わっていくんですそれで自分がどこまで攻略したかを判断するわけですね」


手のひらの上で転がすようにして眺めているのは【資格の水晶】と呼ばれる物で大きさは5センチほどの六角柱で太さは2センチといったところか。今持っているのは無色透明の物でこれに色と模様がついていくと言う事らしい。


「それではこの先で私が何かするという事は無いので自身のタイミングで行動してください、他に何か聞きたいことなどがあればその都度言ってください」


「了解」


【資格の塔】にあるソロ用の入り口を通り今いるのは1階。


「1階は調べた通り討伐か」


10畳ほどある四角い部屋に先へと進むためと思われる扉がひとつありその手前に看板が立っている、そこには【条件:レッサーゴブリンの討伐×1】と書いてある。


これが【資格の塔】が普通とは違う特殊なダンジョンと呼ばれる所以だ、階層ごとに次へと進むための条件が提示してありそれをクリアしなければ先へと進めないという仕様で進むにつれてどんどんと内容が難しくなっていく。


これじゃ資格じゃなくて試練じゃない?と思うかもしれないが俺もそう思う、だけど世間一般的にそう呼ばれている以上ここは【資格の塔】なのだ。


と、言うわけで先に進むためにもレッサーゴブリンを倒す準備をする。

【空間庫】からいつもの〝アサルトライフルGolf〟を取り出しマガジンに弾が入っている事を確認して装填を済ませる。



チラッと山田さんの方を見る、彼女は一般的な探索者が装備するような革鎧を身に着けて腰には剣を装備して手には魔法の杖を持って背中には大きなリュックを背負っている。

何とも不思議で見慣れない恰好だがちょっと考えておかしいのは俺の方かと納得する。

本来なら持たなければいけないはずの道具などは【空間庫】があるので持つ必要も無く、何かあれば【野営地】などへ逃げ込む事も出来るのでセーフティエリアの心配もない。


そして武器だが山田さんは魔法の杖を持っている。そう魔法、彼女は魔法スキル持ちだったのだ。

訓練所で見せてもらったのは【火魔法】で中々の威力があった。その他にも使える魔法があるらしいのだが訓練所では使えないと残念ながらみることは叶わなかった。



「ヘレナ、行くよ」


『はい』


頭部の防具を展開させて準備が完了し終わったらヘレナに声をかけてから扉を開けて先へと進む。

今回ヘレナは途中まで無しで完全にソロで行動する、理由としては【資格の塔】を調べたときに分かったのだが低階層はめちゃくちゃ簡単だからだ、わざわざヘレナ専用人型機を出すまでもない。

なのでもちろん【赤雷】なども呼び出していない。


とは言っても流石にずっとこのままと言訳にもいかないので頃合いをみてヘレナを出す予定ではある、ただ最初から一緒じゃなくてもいいかなっておもっただけだ。


あとはずっとこのスタイルだったからこっちの方が落ち着くと言うのもある、いつでもヘレナと話せるしね。


「あっ」


1階層の扉を開けた瞬間少し離れたところにレッサーゴブリンが見えたのだが何も考えずに自然と銃を構えて撃ってしまってそのままレッサーゴブリンは消えていった。

思わず驚いてあっと声が出てしまったが何も問題無いか。


でもまさか扉を開けてすぐにいるとは思わなかった。


1階はワンフロアのみらしくレッサーゴブリンが死んで消えた向こう側に次へと進むための扉を階段が見える、どうやら倒したあとに条件をクリアして扉が開いていたようだ。


倒したところにレッサーゴブリンの素材が落ちているので拾ってから先へと進む。


「次は薬草か」


2階層目には【条件:薬草×1の採取】と書かれているのでそれを見てから先へと進む、今度もワンフロアのみみたいだが1階とは違い地面に草が覆い茂っている。

部屋の中はバスケットコートほどの広さがありそこいっぱいに草が茂っているので普通に探すには大変そうだが。


「ヘレナ」


『はい、画像解析の結果どうやらあそこに薬草があるようです』


俺も一応薬草がどんな物かは知ってはいるがこれだけ草が覆い茂ったところから探すのは流石にめんどくさい、なのでここはヘレナの出番だ。

ヘレナも一緒に見ているこの景色を一時停止して画像解析をしてどこに薬草が生えているか教えてもらう。


ヘルメット内に表示されている案内に従って歩いていきそのまま薬草を採取する、目の前まで近づけば流石にどれが薬草か俺にもわかる。


「この調子でガンガン行こう」


次の階層へと続く扉まで近づき扉前にある箱へと薬草を納めると扉が開いていく、そして箱の下から採取した薬草が再び出てくる。どうやらこれがクリアの報酬らしい。

なんだがものすごく簡単だがこの調子でどこまで行けるか、普通は100階までひと月という話だし途中で難しいのとかがあるんだろう。


薬草を【空間庫】へと入れて次へと進んでいく、現時刻はまだ昼前の10時。今日中にどこまで進めるか楽しみだな。






◇  ◇  ◇  ◇






「次は………20階か。時間は19時、いい感じだな」


あの後も順調に進んでいき今は19階の条件をクリアしたところだ、次はきりのいい20階になる。


階段を上っていき出たところすぐにある魔法陣へと近づいていき【資格の水晶】をかざす、すると魔法陣がぽわっと一瞬光る。これで水晶に登録完了だ。


色は薄い緑色で模様も少し複雑な物が刻まれている、階層と模様は誰の物でも一緒らしくこれを持っていると自分は何階まで行っていますよという証明にもなる。


「それにしてもちょっとずつ条件がめんどくさいのになっていってるな」


『確かにあの様子だと100層までひと月はかかりそうですね』


1階

【条件:レッサーゴブリン×1の討伐】


2階

【条件:薬草×1の採取】


3階

【条件:レッサーコボルト×1の討伐】


4階

【条件:ゴブリン×1の討伐】


5階

【条件:鉄鉱石×3の採取】



という感じでちょっとずつ難しくなっていっている。

10階からはさらにエリアも広くなり壁ができて迷路のようになっていった。



10階

【条件:エリア内のどこかにいるオーク×5の討伐】


11階

【条件:エリア内のどこかにある薬草×10の採取】


12階

【条件:エリア内にいるゴブリン×10、コボルト×5、吸血コウモリ×5の討伐】


13階

【条件:エリア内のどこかにある銀鉱石×7の採取】


14階

【条件:エリア内のどこかにある精霊草×5の採取】


15階

【条件:エリア内にいるトビトカゲ×5、ゴブリン×8、フォレストディア×3の討伐】


階層を進むごとに倒す敵、採取する物が増えていっている。今のところ討伐か採取といった感じだが他にもいろんな条件が出てくるらしい。事前に調べた所によると変わったものもあるがそれが出てくるかどうかはランダムなのでどうなることやら。



「さて、山田さん」


「はい、何でしょうか?」


ここまでの間特に何も言うことなくずっとついてきていた山田さんへと振り返って話しかける、疲れた様子もなくまだまだ元気に見える。


「取り合えず今日のところはここまでにしたいと思います」


「分かりました、それでは一度外に出ましょうか」


「あぁちょっと待ってください」


「はい?」


リュックをグッと持ち直し位置調整した山田さんが魔法陣へと歩き出そうとするのを声をかけて止める。


「外には出ないです」


「はぁ、ここでキャンプすると言う事ですか?一応テント類は持って来ていますが」


「いえ、ここでキャンプもしないです。俺のスキルを使います」


「スキルですか?」


「はい」


言うや否や見せるがはやいと【野営地】スキルを使い入口の渦を作り出す。


「な、何ですか?それは」


「これは【野営地】というスキルで別空間に休憩場所を作るスキルです」


「異空間系のスキルですか!珍しいですね!」


「はい、今日はこの中で泊まりたいと思いますついてきてください」


山田さんはダンジョン協会の職員だが魔法契約により俺のスキルを誰かに漏らすと言う事が出来ないようになっている、なので本来なら見せたくないスキルも堂々と使える。


先に入るのは不安だろうから俺から【野営地】内へと入っていく、少しすると山田さんも【野営地】内へとやってきた。


「わぁ………私、異空間系のスキルへと入るのは初めてです。知識としては知っていますがこんな風になっているんですね」


物珍しそうに【野営地】内を見渡す山田さん、落ち着くまで待っていてもいいがはしゃいでいる姿を見られるのは恥ずかしいかもしれないし俺は泊まる準備をする。


準備といっても事前に建ててあるログハウスがあるのでそこへ入って確認するぐらいだが。

因みにちゃんと山田さん用に2つログハウスを建ててある。中には冷蔵庫やお風呂など一通りの電化製品とベッドなどの家具も置いてある。


「山田さん」


「はい!」


「そこにあるログハウスを使用してください、中にある物は自由に使ってくれていいのでわからない事があれば言ってくださいね」


「わぁ、可愛いログハウス!ありがとうございます。あの、見て回っていいですか?」


「はい、自由に見て下さい。一応ここには端っこが存在してそこには目印が置いてあるのでそれだけ気を付けて下さいね」


「はい!」


今回【野営地】に山田さんを連れてくるにあたって色々と準備した、Bランク試験のときは何も考えていなかったので特に用意してなかったのだが流石にまずいかなとおもったのだ。


夜になって初めて【野営地】を使用したのだが普段ならもっと頻繁に使ってた、ただ何となく今まで使わずお昼ご飯とかも外で食べてトイレなども探索者用の道具を使った。


そういうの一度使ってみたいなっておもってやってみたのだが普通に不便だったので今後使う事は無いだろう。というか【野営地】が快適すぎる。


そんな【野営地】だがログハウスを建てただけでなく以前とは風景も変わっている。

地面は緑の芝生なのは変わらないが遠くにでかい山が見えるのと浅い川を追加した、それ以外の物は一度邪魔かなと思って撤去した。


なので今【野営地】内は凄くスッキリとしていて気持ちがいい、まっすぐ平らな平原に川が一本流れているのとログハウスが2つ建っているだけ。


まぁまたすぐに射撃訓練用の的などを置いていくので散らかりそうだが、たまには掃除しないとな。



「晩御飯はBBQにするか」


山田さんもいるし楽なのがいいよね。今のうちに火をつけておこう。

食料は事前に買ってあるのが食料専用に別で用意した冷蔵庫に入ってある。


「よし、やるかー………の前に防具脱いでシャワー浴びよう」


流石に汗を流してからにしよう。










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