第96話 試験内容

96.試験内容









Aランク試験の最終確認通知がきてから次の日には確認のメールを出し、さらに翌日には今の俺にとってはもはや必需品になってしまった【ラドナクリスタル】などの素材をとりに【アルミーシュ】ダンジョンへと来ていた。


目的は素材なのでダンジョンの入り口からバイクに乗り道中の敵をほとんど無視して飛んで行った。

このダンジョンがフィールド型で1層しかないからこそこんな移動方法がとれている。


「マスター、あそこに敵がいます」


「んじゃそっちに向かうか」


飛行モードにしたバイクに乗るのは俺とヘレナだ、彼女は自力で飛ぶこともできるがエネルギーを消費してしまう。エネルギーを使うにしても余計に使う必要はないのでバイクに二人乗りしている形になる。


以前のバイクは一人乗りだったがヘレナ専用人型機を作った後にどうせならとバイクのシートを二人乗り用にした。

シートを伸ばした分バイクが大きくなったが問題ない。


「中隊か」


見えてきたのはひときわ大きな1体の『機械種マギア』とそれより少し小さい【ラドナクリスタル】をコアにしている『機械種マギア』が5体、あとはお供が15体ほどだ。


【アルミーシュ】ダンジョンでは今見えている中隊のほかに【ラドナクリスタル】をコアにしたリーダー格を1体とお供の小隊に都市前の扉にいる大隊と自分の中でグループ分けして呼んでいる。


「んじゃいつでもいいよ」


「はい、それでは戦闘開始します」


中隊の敵から1500メートルはなれた場所で【赤雷】を土台にして〝対物ライフルGolf〟を構える。

俺の横ではヘレナが同様に〝対物ライフルGolf〟を構えている。


スコープを覗きながら戦闘が始まるのを待っていると中隊の上空へとドローンが飛んで行き物を落としていく。


するとすぐに爆発音が聞こえてくる、それと同時に待機させていた【不壊】が走り出し中隊へと突撃する。


「いい感じだな」


「はい」


話しながらも爆発で起きた煙が晴れたところから狙い撃っていく。


戦闘時間にすれば5分にも満たないだろうか、あっという間に動いている敵はいなくなった、それを見て回収用ドローンを【格納庫】から呼び出しておく。


空中から爆撃による陽動とすかさず突っ込む【不壊】に遠距離から【魔法転換:銃弾(雷)】による一撃必殺で相手になにかする時間を与えずに倒しきる、一方的な戦いだ。


以前ならこんな作戦はとれなかったのだが今は違う、作戦を考えるにも自分だけでなくヘレナもいるし考えれる幅が広がった、より安全により一方的になおかつ欲しい物は得れるように。

アニメや映画なら敵と正面からぶつかって倒していくのが絵面的には正解なんだろうけれど実際に自分の命がかかっているのなら安全に倒せるならそうやって倒したい。


この調子で大隊も倒しておきたいな、今度いつ来れるか分からないし予備の素材はいっぱい欲しい。

そんな感じで今日はいってみよう。






◇  ◇  ◇  ◇






「おはようございます、ダンジョン協会東京支部探索課からきました柳といいます」


「おはようございます、神薙です」


「こちらは私の部下で山田といいます」


「山田乃愛といいますっ!よろしくお願いします!」


「神薙響です、よろしくお願いします」


現在地は地元のダンジョン協会の会議室だ、そこへ入ってきたのは50代近い男性とそれに比べると随分と若く見える女性との二人組だ。

柳と名乗った男性はやり手の事務職の人といった感じできりっとしていていかにも仕事ができますといった雰囲気を感じる。

山田と名乗った女性はどこからどうみても新卒という感じだ、綺麗でおろしたてといった感じのスーツにおどおどとした動き。明らかにこういった場に慣れてない感が出ている。


この二人は東京支部の探索課から来たと言っていた。探索課、それも東京支部と言えばエリート中のエリートだ、実力が無ければそこには入れず実績がなければ残れないそんな場所だ。


「さて、早速Aランク試験の話しをしたいと思うが構わないだろうか?」


「はい」


今日ここに来たのはAランク試験の内容について知るためだ。


「よろしい、ではAランク試験について説明する。試験内容は3つになる。1つめ、Bランクダンジョン【資格の塔】100層にある【資格証】をとってくる事。2つめに北海道にある放棄ダンジョン【管理番号5061】の制圧。3つめにその2つを彼女、山田を連れた状態で達成する事。当然ながら一緒に行動する以上魔法契約により知り得た情報は話せないようにする。以上になる、何か質問はあるか?」


おおぅ………言いたいことありまくりで何から言えばいいのかわからない。

【資格の塔】は色んな意味で有名だからやらせようとする意図はわかるのだが。放棄ダンジョンか、立地がよくないだとか得られる物が微妙とか様々な理由により放棄する事が決定されたダンジョンがいくつもあると聞いたことがある。

放棄されたダンジョンは最低限の管理しかされないので内部には魔物が溢れ攻略するのが難しいと聞く、その分誰にも荒らされていないので未発見の何かが見つかる事が多々あるとも。

時々TVとかでどこどこのクランが放棄ダンジョンを制圧してお宝を見つけただとかニュースになっているのを見たことがある。


「そうですね………1つめの【資格の塔】についてはわかりました、あそこ有名ですし内容は理解できます。2つめの放棄ダンジョンですが難易度はどのぐらいになるんでしょうか?」


「放棄ダンジョン【管理番号5061】はAランクに近いBだと調査で分かっている」


「その二つを彼女と一緒に?護衛任務と言う事ですか?」


「そういう事になる。だが安心してほしい、彼女は自分の身は自分で守れる程度には動けるからな。だが試験内容的にそうなった時点で失格となる」


「その山田さんの実力を見て見たりとかは出来ますか?知らないとどこまで守ればいいのか分からないので」


一緒に行動するにしてもどこまで動けるかどうか見ないとどこまで守ればいいのかどうかがわからない。


「そうだな、それは魔法契約をした後に確かめればいい」


「では最後に、試験期間はいつまでですか?」


「試験期間は半年とする、試験期間は5月1日からとなるので試験終了日は11月1日までとなる。それまでに【資格の塔】100層と放棄ダンジョン【管理番号5061】の制圧を完了するように」


「分かりました」


「では、魔法契約に移ろう。契約書は用意してあるのでお互いに契約内容をよく読みサインするように」


そういうやいなや柳さんが魔法契約書を取り出して渡してくる、契約内容はよくあるやつだ、知り得た情報を第三者に渡せないようにすることなど基本的な事だけで特にこれといった物は見当たらない。

当然文面はもっと難しく書いてあって内容ももっと複雑だが簡単に言えばそういう事だ。


山田さんがサインをして、続いて俺もサインを済ませる。すると魔法契約書は浮かび上がり空中で光となって消えて残滓が契約者である俺と彼女へと吸い込まれていく。


「これで契約完了だ、試験内容は以上となるがこのほかに聞きたい事があれば山田に聞くように」


「はい」


「それでは失礼する」


柳さんはそれだけいうと立ち上がり会議室から出ていった、残ったのは俺と山田さんの二人。


「え、えっと。改めまして山田乃愛です」


「あ、はい。神薙響です」


「神薙さんは試験内容についてしっかりと把握出来ましたか?」


「はい、なんとか理解しました」


「そうですか、もしわからない事があれば何でも聞いてくださいね」


「はい」


ここで改めて彼女、山田さんの見た目について話しておこう。

肩甲骨あたりまでのびた黒髪に主張しすぎないようなナチュラルメイクに丸眼鏡、服装は一般的なスーツで身長は156センチほどだろうか少し小柄だ。


戦える様には見えないのだが大丈夫だろうか。


「あの、山田さん」


「はい、何でしょうか?」


「先ほども話しましたが山田さんがどうやって自分の身を守るのか知らないと一緒に行動する時にどう動くべきかが決めれないので良ければ訓練所へと行きませんか」


「はいっ!そうですよね私の戦力が把握できないと困りますよね。では訓練所へと行きましょうか」


「お願いします」


「すぐに場所をとるので待ってくださいね」


訓練所はダンジョン協会の支部ならどこでも一応ある、があまり利用する人はいない。わざわざここに来るぐらいなら自分よりもランクの低いダンジョンへといって相手を見つけて試す事の方が多いからだ。

だからといって利用する人が皆無というわけじゃないところが困る所らしい。


訓練所は1つの広場があるような感じではなくいくつかの細かい部屋に分かれていて利用する場合予約をとる必要がある。

その予約を山田さんはやってくれているようだ。


「取れました、では行きましょうか」


「はい」


山田さんについていき会議室をでて廊下を歩く、エレベーターにのり地下へといき一つの部屋へと入っていく。


部屋の中は広く縦にも横にも50メートルはありそうだ、天井も高く20メートルほどある。

的やサンドバッグ、他にも刃を潰した武器が各種と置いてある。


「その恰好でやるんですか?」


「あ!着替えてきますね!」


山田さんはスーツだ、その恰好でするんだろうかと疑問だったが流石に着替えてくるか。


待ってる間暇だしちょっと俺も体動かそうかな。


今日の恰好はジーパンにTシャツとパーカーとものすごく普通だ。ジーパンが若干動きを阻害するかな程度だが本格的にやるわけでもないし構わないだろう。






◇  ◇  ◇  ◇






「お待たせしました、それでは何から見せましょうか」


戻ってきた山田さんは所謂スポーツウェアの恰好と言えばいいのだろうか、ぴちっとした伸縮性のある服の上に一般的なTシャツやズボンなどを穿いている。


「そうですね、始める前に。山田さんは一緒についてくるんですよね}


「はい」


「そうなると指揮系統と言いますかどっちが指示を出すかをきちんと決めておいた方がいいと思うんです」


「そう、ですね。その通りだと思います」


「今回は俺の試験なので自分が指揮をとりたいと思いますがもし万が一自分の身が危険だった場合は自分の身を優先してください。そうなったときには俺もあなたの事は考えずに自分の身だけを守るので」


「分かりましたどうしようもなくなるまでは神薙さんの指揮に従います」


「ありがとう、それじゃぁまず山田さんは今回Aランク試験についてくるわけだけどそれについてこれるだけの実力はあるって言う事だよね?」


「はい、もちろんです」


「戦闘経験としてはどんなもんですか?ダンジョンにどれぐらい言った事があるだとかどういったパーティーで行ったとか」


「そうですね………ダンジョンはBランクならば何度も入った事があります、Aランクダンジョンへは今回の試験を担当するにあたって3回ほど実地試験をして確認してありますので逃げるだけならば大丈夫です」


「ふむ、試験を担当するのに実地試験をしたんですか?」


「はい、そうじゃなければついていく事なんて出来ませんから」


まぁ言われてみればそうか、ダンジョン協会側できちんと確認してあるから山田さんは試験を担当しているわけだしな。


「あれ?じゃぁこの確認もあまり意味がない………?」


ダンジョン協会側で確認できているなら大丈夫か?


「いえいえ、そんなことないですよ。一緒に行動するんですから確認は大事です」


「ですよね、うん。俺もそう思ってました」


「はい!」


そうだよな、いくらダンジョン協会側が確認したところで俺は確認していないのだからちゃんと確認する意味はあるはずだ。


「では、まずはどの程度動けるのかの確認からしていきましょうか」


「そうですね、頑張ります!」








あれやこれやと確認したが結果から行ってしまえばなんの問題も無かった、流石は東京支部のエリートだったよ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る