第94話 ヘレナという存在

94.ヘレナという存在









ヘレナ専用の人型機体を作ると決めたときどういった物にするのか色々と考えた。


【不壊】や【赤雷】を作った時はかっこいいかなって思ってノリで作った部分がある、だが人型のヘレナ専用機体となると軽い感じで作るわけにはいかない。

今までヘレナは形が無く、どちらかと言うとゲームとかでよくあるオペレーターみたいな存在だった。


だが人型になると言う事はどうしても意識してしまう、ヘレナにも人格があり生きているという事を。


ヘレナは俺のスキル内にあった機能の1つだ、それは分かっている。だがこれまで一緒に過ごしてきて少なくとも俺はそういう軽い感じでヘレナを見てはいない。


初めは便利な機能だな、ぐらいだった。


だが今では仲間でありパートナーである、ヘレナとは俺のとってそういう存在になっている。


そんなヘレナが人型になると言う事は一種の降臨的な?ただ【不壊】や【赤雷】を操っているのとは何か違う、上手く言葉にできないがそういう気持ちがある。


そういった事を色々と考えて決めたのは、最高の物を用意しようという事。


だけど素材について何て詳しくないのでヘレナに任せるしかなかった。

ヘレナには出来る限りの物を用意してくれていいと伝えてあるお金だっていくらあるか知っているしそれで足りるならどんな物でも買っていいと。


そんなこんなで素材を買いあさり始めて1週間、頼んでいた素材がやってきた。

ダンジョン産の物から現代で作られた物まで色々と、必要数だけじゃなく予備などで多めに。




しめて32億円。


いや、うん………ね?そんなに高い素材がある事に驚きだよ。






◇  ◇  ◇  ◇






「どう?ちゃんとそろってる?」


『はい、全て揃っています』


【格納庫】内に山の様に積みあがった素材の入った箱、いったいいくつあるのかわからないほど多い。


目の前では作業員ロボットが積みあがった箱を開いて整理していた、どういう順番か分からないが箱から出した物を並べて行っている。


素材は全てインゴットなどの何かの形になる前の状態の物ばかりだ。


既製品を買ってもよかったのだがこれから作るのはオンリーワンの機体だ、ヘレナによると既製品と同じ形の物は作るが素材が違うから作るしかないといっていた。


いつもどうやって素材を形にしていっているのか実はあまりしらない、ヘレナが作業員ロボットを使って何かしらしているみたいなのだが【格納庫】内には所謂工場にあるような機械は一つもない。



『マスター』


「何?」


作業員ロボットがせかせかと動くのを眺めているとヘレナがあやつる作業員ロボットが近づいてきて話しかけてきた。


『素材が揃ったのでこの後は作り始めるのですが、もう追加する機能はありませんか?』


「んー、特に思いつかないかな」


『分かりました、一応余裕を持たせておくので後からいつでも機能の拡張は可能です』


「了解」


『それでは作り始めますね』


「おー」


さて、作っている間何をしていようかな。






◇  ◇  ◇  ◇






「うーん、暇になってしまった」


ヘレナ専用人型機を作り始めてからはや2週間、その間はダンジョンに行くことも無く家でのんびりとしていた。ダンジョンに行かないのは折角なら今作っているヘレナ専用人型機が完成してから一緒に行きたいなと思っているからだ。

のんびりと言っても家の周りを掃除したり、畑に異常は無いか見たりとか機械のメンテナンスなどやることはそれなりにあったし【格納庫】内へといって作業を眺めたりもしていた。


後は暇な時間はいつもやっているオンラインゲームをしていたのだがデイリークエストをやってウィークリーのクリアできそうなのを一通りした後にいくつか取りたかった素材をとりおわるとやる事が無くなってしまった。


いつもは学校が昼まであったのだがそれもこないだの知識のインストール作業が終わったので証明書を提出した後、学校は卒業となった。

現代になって学校とはほぼ慣例というか昔から続いているから今も何となく続いているだけだ、それなのに義務で通わなくて行けない。


そろそろ学校自体を無くすという話もあるらしいが、もしそうなった場合の影響などが懸念され一向に進まない。


因みに大学もあるが俺は通わない、探索者として上手くいかなければ大学へ行く可能性もあったが謙遜無しに俺は探索者として食っていけるレベルになっていると自覚している。


というか元々何もしなくても食べて行けるだけのお金はあった、それは質素な暮らしという注釈がつくが。

それが探索者をするようになって探索者で稼いだお金だけで普通に暮らせるだけ稼げている、今探索者をやめてもこまらない程度には。


じゃぁなんで探索者を続けるのかと言われれば簡単だ、楽しいから。それだけ。



「お昼は焼きそばかなー」


頭の中で冷蔵庫内にあった食材を思い出しながらお昼に何を食べるか考える、キャベツと人参とインスタントの焼きそばがあったからそれで作れるはずだ。

お肉は無いので野菜だけ焼きそば、目玉焼きでも乗っけようかな?



『マスター』


「うぉっびっくりした、どうしたの?」


ソファーに座って天井を見上げていると突然ヘレナに声をかけられてびっくりした、人型機を作るのに【格納庫】に籠りっぱなしで全然こっちには出てこないから油断してた。


『完成しましたよ』


「お!ついにできたか、早速行こう」


『はい』


ヘレナが作業している間開けっ放しだった【格納庫】へと続く渦の中へと入っていく。

中は現在進行形で後片付けをしている所だった、作業員ロボットが素材などを運んで壁際にある棚へと仕舞っている。


「ん、どこだ?」


【格納庫】内に人型の何かは見当たらない。


『こちらです』


「これ?なんかすごいなこれ」


ヘレナの操る作業員ロボットの方へ向き直るとそこにはSFとかで出てきそうな機械のカプセルが立てかけた状態で置いてあった。コールドスリープっぽさがすごい。


「これは何なの?」


『雰囲気づくりのために作ってみました、それっぽくないですか?』


「めちゃくちゃそれっぽいけど………何か特別な機能があるとかじゃなく?」


『はい、ただのカプセルです』


「おぅ、まぁいいやじゃぁお披露目してくれ」


『了解』


そう声をかけた瞬間カプセルがプシュっと音を立てて開いていく、効果音までそれっぽくしてるのか?これ。


「おぉー、これってもしかしてヘレナがよく使っている仮想アバターの姿か?」


「はい、こちらの方が馴染みがあるかと思いまして」


「っ!もうその姿で話せるのか、なんだか不思議な感じだな」


カプセルの中にいたのはヘレナがよく仮想アバターとして使っていた金髪ボブカットの西洋人っぽい顔の女性だ。

いつも画面内にいた女性が目の前に出てきて喋っている、なんとも不思議な感じだ。


「体にどこかおかしなところはあるか?」


「自己診断を開始します………………オールグリーン。異常ありません」


「そうか、取り合えず買っておいた服を着てくれるか」


「はい」


カプセルから出てきたヘレナはこれまたSFっぽいぴちっとしたスーツのような物を着ている、だがさすがにずっとその恰好でいるわけにかいかないので事前に買っておいた服に着替えてもらう。

服を選んだのはヘレナなので邪推しないように。






◇  ◇  ◇  ◇






「それじゃぁ色々と確認していこうか」


「はい」


買っておいた服に着替えたヘレナ、ぴちっとしたジーパンに無地のシャツにジャンパーを着ている、靴はブーツだ。

ヘレナの趣味なのか分からないが似合ってはいる。


「それでは、まず運動機能から確認していきます」


「了解、ここで見てるよ」


【格納庫】から場所は変わって【野営地】内、軽く動くのならここがやりやすい。


ヘレナ専用人型機がまずはストレッチを開始する、筋を伸ばしたりしているがそれって必要なのか?

なんて思いながら見ているとすぐにストレッチは終わり次は走り出した。


「はやいな」


軽く走りだしたと思ったらすぐに凄い速度で走り出した、それでもまだ余力があるのかまだはやくなっていっている。


「今度は力か?」


走るのをやめたかと思うと次は【野営地】に立ててある銃の的の側までいき拳を握っている。

力加減を試すかのように最初は軽く、次第に重く拳を振るスピードも上がっていきガンガン凄い音が聞こえてくる。


見た感じだが普通にBランクのダンジョンでも通用しそうなぐらいの力はありそうだ。

残念ながらステータスなどは見れないので確かなことは言えないが俺の感覚的にはそう見える。


「マスター」


「お帰り、どうだった?」


「はい、今のところは想定通りの力が出ています。これ以上は実戦で試すしかないかと思います」


「そうか、じゃぁ明日にでもいく?」


「お願いします」


「了解、取り合えずもうちょい試すといいよ」


「はい、それでは試してきます」



ヘレナ専用人型機、見た目は完全に普通の人なのだがよく見ると機械だとわかる所がある。

それはどこか、手や足だ。


手や足に黒い線が入っている、アニメなどで表現される時にある人に似せた機械によくあるあの線だ。

やろうと思えば完全に人の肌を再現できるし、完璧に人っぽくできる。


でもそうしなかったのは何故か。


俺の好みだ、見た目は完全に人なのに機械っぽさが残る手足ってよくない?


っていうのは半分………いや8割ぐらい本音だが他にも理由がある、そもそも法律的に人そっくりのロボットを所有する場合届け出を出さないといけない、だが機械だとわかる特徴を残す事により書類の提出などをしなくて済む。

そういった事もありよく見ると機械だとわかるようにしてある。


ヘレナ専用人型機の眼もよく見ればレンズだとわかるしな。


「っていうかヘレナ」


「はい、何ですか?マスター」


「身長高くない?」


「そうですか?」


ずっと気になっていたのだがヘレナ専用人型機、俺より身長が高い。

俺はもうすぐ170センチぐらい、だけどヘレナは明らかに身長170を超えている。


「何センチあるの?」


「175センチで作っています」


175センチ………………まぁ、俺も?成長期だし?175センチなんて飛び越えて180も超える予定だし?いいんだけどね?


「その身長にした理由とかあったりする?」


「特にないですね」


ないのか………まぁいいか。



「それで、エネルギーの方はどう?減ったとかそういうのある?」


ヘレナ専用人型機が動き出してから既に1時間ほどが経っているので次にエネルギー問題を聞いてみる。

見た目は人っぽくてもその体は機械だ、動くためのエネルギーが必要になる。


「はい、今のところ1%も消費する気配もありません。計算では無補給でも100年は動けるはずです」


「100年か………やっぱ凄いんだな【星石】」


今回ヘレナ専用人型機を作るにあたって動力源をどうするかの話しになった、そこで候補に挙がったのが使い道のなかった【星石】だ。


【深海の遺跡】ダンジョンで手に入れた【星石】、一応は次に何か機体を作る時に使おうかな?ぐらいの感覚で残しておいたのだが今回の人型を作る事になってどうせならと使う事にした。

価値がありすぎて逆に売れそうにも無かった素材なので使う分には問題ない。


ヘレナ専用人型機の動力源は【星石】以外にも魔物からとれる魔石のエネルギーなど【星石】だけに頼らない動力になっている。


仕様は難しすぎて理解できなかったが簡単に説明すると【星石】を中心に魔石や電力なども使い【星石】の消費を抑えると言う物らしい。

もし仮に万が一【星石】のエネルギーが尽きたとしても他の物を動力にして動く事ができるようになっている。


メンテナンスなどはヘレナは自分でできるだろうしほぼほぼ無限に動き続けると言うわけだ。



「武装の確認はダンジョンに行ってからだな」


「はい」


もちろんただ体を作っただけじゃない、武装も勿論作ってある。ここでは試せないが。


「俺は戻るけどヘレナはどうする?」


「もう少し確認したいのでここに残ります」


「了解、一応18時までには終わるようにね?」


「はい」


体が出来た事が嬉しいのかヘレナはどこか笑っているようにも見えない事もない。









余談だが覚えている限り俺の両親はどちらも身長170センチ以下だ、それでも俺は180センチをあきらめない。











◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

あとがき


気がつけば閑話も含めてですが100話になりました、いつも読んでくださる皆さまありがとうございます。

これからもゆっくりではありますが更新を頑張っていきます。









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