第93話 準備

93.準備









オークションがあったのが12月上旬、そしてそれから少しばかり時が過ぎて年を越して数日後。

年末は忙しくてろくにダンジョンにも入れず家の用事をしたりして過ごしていた。


年越しの瞬間はお爺ちゃんの家でこたつに入り過ごして、年を越してからは新井さんなどに会いに行き年始の挨拶などを済ませた。


そして今日諸々が終わり自由な時間が出来たのでとある施設へと来ている。



「ここが受付か」


大きなビルが立ち並ぶ都心の方へとやって来た俺はその建物の中のひとつへと入り正面に置いてあった端末で受付を済ませる。

最近の施設はどこも受付は無人でこうやって自分で済ませるタイプばかりになってきている。他にも人はいるが映像だったりの場合もある、映像には人のアバターだったりアニメ調のアバターだったり動物だったり色んな形がある。


一応今でも生身の人がいる受付もあるのだがその数は年々減ってきている。


「え~っと、これとこれを入力してっと」


事前に今回の事を申請した際のやり取りでもらった情報を入力していく、すると受付の端末からカードが出てきた。これをエレベーター前にあるゲートにかざすと通れるようだ。


カードを使ってゲートを通り目の前にあるエレベーターへと乗る、目的地の階のボタンを押し動き出すのを待つ。


ほんのりと体にかかる重力を感じてエレベーターが動くのを確認し、ボーっとエレベーター内にある階数を表示する画面を見ているとすぐに目的の階へとついた。


「いらっしゃいませ神薙様、こちらへどうぞ」


エレベーターの扉が開くと目の前には人型のロボットが立っていて歓迎してくれた。鉄か何かの素材で出来たボディに手と頭がついていて足はローラーになっているのか足2本分の太さのある足が1本となっていた。この機械はAIで動いており見た目からすぐにロボットだという事が分かる。


技術的には人そっくりのロボットも作る事が出来るのだが今の時代あえて機械だとわかるようにする事が一般的だとされている、理由としては昔人そっくりのロボットが出たときに色々と問題が起きたからだ。


相手が人かロボットか判別つかない人が出たり、人じゃないんだからとロボットに対してひどい事をする人が出てきたりと。

そんなこんながあり技術はあるのにあえてこの形になっている。


人型のロボットの後についていき廊下を歩いていく、この施設は全体的に白で統一されていて無機質な印象だ。

病院に近い雰囲気と言えばいいだろうか、実際は色んな色があるのだけれどイメージが先行している。


「こちらのお部屋へどうぞ」


エレベーターから少し進んだ部屋へと通される、中には人が一人入れるほどのカプセルがドンっと置いてあって他にもモニターがいくつか並んでいる。


「それではこちらに着替えてカプセル内へとお願いします」


そうして手渡されたのはゆったりとした手術着みたいな物で頑張れば3秒ぐらいで着替えれそうなほど簡素な物だ。


ここには機械しかおらず人がいないのでこのまま着替えていく、すぐに着替え終わったのでカプセルへと入り静かに待つ。


ここはどこなのか、何しに来たのか、気になっている人もいると思う。


「それでは学習プログラムをインストール開始します」


その言葉が聞こえた瞬間眠りに落ちるように意識が無くなっていく。


今日来たのは学校へ行かなくても済むように学習プログラムをインストールしてくれる施設だ。






◇  ◇  ◇  ◇






以前に義務教育課程の知識をデータとして買い取って脳みそに直接インストールする方法があると話したことがあると思う、あの時は数千万かかるし別にいいかなぁって思っていたのだけれどオークションで予想以上にお金が稼げたのでこの機会にやってしまうことにした。


ひと昔前なら倫理的にどうなんだとか、安全性はどうなんだとかありとあらゆる突っ込みが飛んできそうな事柄だが今の時代だとそこまで批判はない。

そこまで、と言う通り批判はあるにはある。だがそんな意見も世の流れには逆らえない、関係なしに便利な物は増えていく。


因みにこのインストール、他にも色んな知識を入れる事ができるのだがそれぞれ値段が違っていて高い物なら億を軽く超える。

今回頼んだ義務教育課程の知識は高校2年生からの物で3400万になる。


今はまだ知識だけしかインストールできないが研究が進んでいてそのうち忘れてしまった思い出などをもう一度体験できる装置を開発中らしい。

夢のある研究だと思う、その分大変な事も多そうだが。




「お疲れ様でした」


意識がふっと消えて次に気がついたときには全て終わっていた。


「休憩室へ御案内します」


カプセルから起き上がりロボットに案内され部屋を出ていく、すぐ隣の部屋へと入り中にあったソファーへと座る。


「少し休憩していただいてから次はテストをしてもらいますので先にお着換えのほうお済ませください」


それでは失礼します、そういってロボットは部屋から出ていった。


カプセルを出てからずっと意識がふわふわとしている、前日に説明は読んでいたのでわかるが恐らくこれが知識インストールの影響だろう。

説明には10分から30分ほど意識がふわふわとしますと書いていた。


知識のインストール、休憩、そしてきちんとインストール出来てるかの確認のテストをしてお終いだ。


ちらっと部屋にある時計を見る、時刻は15時23分を指していた。今日ここに来た時の時間が昼前の11時だったので意外と時間が経っている。


部屋の中にはソファーとテーブルに壁際にはお茶などのドリンクと軽くつまめるお菓子類が置いてある、ご自由にお取りくださいと書いてあるので飲み物を貰う事にする。


「はぁ~やっと落ち着いてきた」


お茶を飲んで一息、やっと落ち着いてきた。今のうちに着替えておこう、籠に脱いだ服が畳んで置いてある。


この施設、人の脳みそをいじると言う事から当然ながら国が管理する所になる。これを民間でやってしまっては怖い。

まぁ国がやってるからって完璧なわけじゃないのは分かっているが少なくとも今まで知識のインストールをしている人達はなんの副作用もなく日々を過ごしている。


「失礼します、神薙様。テストをしたいと思いますが平気ですか?」


「はい」


ボーっとしてたらいつの間にか30分も経っていたようでロボットがやってきていた。


「それではこちらをお願いします、制限時間は1科目30分になります」


その声と同時に目の前に投影型のディスプレイが飛び出してきて手元には仮想キーボードが出てきた。


最初のテストは数学か………頑張るか、これをやらないと証明書もらえないからな。






◇  ◇  ◇  ◇






「はい、これで以上になります。インストールに問題は見つかりませんでしたのでこの後証明書を発行いたします」


「よろしくお願いします」


やっと終わった………………長かったなぁ。


数学に始まり国語、理科などの教科からさらに細かい科目へと移っていき最終的に何個やったんだ?もう数えられない。

今の時代何でも調べれば出てくるがそれとは別にこういったことも必要なんだろうな。


そういえばひと昔前には義務教育に英語も入ってたんだっけ、今では自動翻訳の技術が進歩してもはや別言語を習うのは必須ではなくなった。アプリ一つ立ち上げるだけでほとんどの言語を自動でその場ですぐに翻訳してくれるからだ。


それでも言語が好きな人は自分で習うらしいが少なくと義務教育で習う必要は無くなった、それが60年ぐらい前からだっけ?


ゲームでも海外の人が入力したチャットが届く相手の言語へと自動で翻訳してくれるからな。


「神薙様、こちらが証明書になります。このほかにオンラインでも証明書のデータを発行できますのでその場合は私達のホームページか市役所のホームページへお願いします」


「分かりました」


「それでは以上になります、お疲れ様でした」


「はい、ありがとうございました」


やる事は全部終わったので帰ろう、もうすでに時間も夕方を過ぎて夜になってきている。

お腹が空いたし帰りに何か買って帰ろうかな?






◇  ◇  ◇  ◇






『お帰りなさい』


「ただいまヘレナ」


帰りに何か買って帰ろうかと思ったがどこかに寄るのがめんどくさくなって家に着く時間丁度に配達が届くようにネットで注文してしまった、それを玄関先で受け取ってから家へと入った。


家の中にはヘレナがいてネットサーフィンしていたところのようだ、投影型のディスプレイにはどこかのホームページだろうか?そんなのが映っている。


『知識のインストールは無事に終わったようですね』


「うん、思ったより簡単だったよ。ただ習ったこともない知識を覚えているというのは不思議な感覚だったな」


『そうなんですか?』


「なんかデジャヴと言えばいいのかそれが近い感覚かな」


明らかにならった事のない歴史の問題とかをみた瞬間、頭の中にふっと湧いて出てくる知識。強烈な既視感、そんな感じ。


「それよりヘレナの方はどう?探していた物は見つかった?」


『はい、全て見つけました』


「それは良かった、それでどうする?やっぱり作る?」


『そうですね、お願いしたいです』


「それじゃぁ買っていこうか」


『はい』


少し前からヘレナはネットサーフィンで色んな物を探していた、そのどれもが素材だ。

何かの完成品とかそういうわけでなくその前の素材になる。


どうして素材を見ていたのか、それにはある物を作るために必要になるからだ。

今まで何か作る時、【不壊】とか【赤雷】とかバイクとかその全てがダンジョンで手に入れた素材から作っていた。理由としては基本的にダンジョンから出る素材にいい物が多いからだ。


その一方でダンジョン外の素材にいい物がないのかと言うとそうでもなく特定の物で言えばダンジョンからでる素材より優れた物もあったりする。

今回ヘレナが探していたのはその一部の優れた素材だ。


「結構するんだね」


『そうですね、本当に大丈夫ですか?結構な額になってしまいますが』


「大丈夫だよ、ヘレナにはいつもお世話になってるからねこれぐらいなら」


ヘレナが用意した素材の購入ページを見ながらそれを必要数買っていく。

そのどれもが数百万から高い物だと数千万はする。


どうしてここまでして高い物を買っていくのか、作るものとは何なのか。



「予備とかは買っておかなくていいの?」


『それが予備を含めての素材数になります』


「おっけー」


名前も聞いたことない素材を20キロ、2千万。

聞いたことあるけど用途のわからない素材、5キロ700万。


そういったのが続いていく。


「よし、完了。これで全部かな?」


『はい、ありがとうございます』


「うん、楽しみだねヘレナの機体」


『楽しみです』


ヘレナの機体、と言うかヘレナが中に入り動かす人型の機体になる。

アバターとでも言えばいいかヘレナの体をこれから作る。


どうしてそういう話になったのか、色々と今後を考えた結果だ。

今のヘレナは基本的に【不壊】か【赤雷】に入りダンジョンへとついてきてくれている、だがダンジョンによってはどうしても出せなかったりする。

狭かったり、地形的に不安だったりと意外と連れられなかった場面があった。


だけどそれが同じ人型なら?地形が不安定でも歩ける、狭くても俺が進めるなら一緒に歩ける。


というわけでそれなら人型の機体作ってみようって話しになって今回の素材を買う流れに繋がる。

ダンジョンで手に入れた素材で作ってもよかったのだが折角なら現状で最高の物を用意したい。幸いにもお金はある、なら揃えるまでだ。



楽しみだな。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る