第88話 王

88.王









「おぅ、思ったよりすごい光景だな」


『頑張りました』


【ゴランデル王国】2日目、昨日の晩に作ると決めた偵察用の小さな機体は想像以上の数が出来上がっていた。


「これ何体作ったの?」


『全部で1万体になります』


「沢山作ったね………」


目の前に広がるのはクモ型の小さな機体で大きさは1センチほどになる、ひとつひとつがいくら小さいと言ってもこれだけの数が揃えば凄い光景になる。


最終的にクモの形にしたが他にも色んな形を検討していた、蚊型とか、ネズミ型とか。それっぽいのをいくつか考えていて、その中でもトカゲ型が可愛かったのだが実用性がないので却下になってしまった。


クモ型の何がいいのか、体が薄く少ししかない隙間でも入りこめる事、特殊な足の形状と体重の軽さにより壁を歩ける事、そして糸生成の機能を付ける事により糸での移動を行うことが出来る。


いつもの事だが、糸なんてどうやってその小さい体で作るんだとヘレナに聞いてみたが、聞いたところで何もわからなかった。

何だか難しい話を聞いた気がするが途中から覚えていない。


そんなこんながあり最終的にこの形に落ち着いたのだ。



「それじゃぁこれで情報を集めてみようか」


『はい』






◇  ◇  ◇  ◇






『いきます』


ヘレナの合図と共に開きっぱなしにしてある【格納庫】から偵察用機体が次々に出ていく。

今いる場所は【ゴランデル王国】の中心地にある王城から100メートル離れたところにある一軒家の庭先だ。


クモ型の偵察機、1万体のうち7千体を街中へ、残りの3千体は王城へと向かう手筈だ。


「おぉー面白いなこれ」


防具内のディスプレイに偵察機から送られてきた情報で地図がどんどん出来上がっていく。

敵を見つけると偵察機を1体そのまま尾行させるので常に敵がどこにいるのかがわかる。



『マスター、宝物庫を見つけました』


「宝物庫………?」


『はい、画像を出します』


もう王城に着いたのか?っていうかもうそこまで調べたの?はやいな。


「これは確かに宝物庫だな」


表示された画像には地面に山積みにされた金貨に金で出来たカップに宝石がついたネックレス、他にも剣や防具なども乱雑に置いてある。


「これはイミテーションじゃなくて本物か?」


宝物庫の大きさはかなりあり、この全てが本物だとすれば途轍もない価値だと思うが。


『偵察機では判別できません、直接行って見るしかないかと』


「見に行くしかないか、案内を頼む」


『了解』


【忘失の外套】を起動して防具内のディスプレイに表示された道案内に従って進んでいく。

途中何度か表示された案内が変更された、どうやら敵をかち合わないようにしてくれているようだ。

ここは既に敵陣の中になる、戦闘を起こして騒ぎになると途切れる事のない増援に苦しめられるだろう。


(王城も門は開きっぱなしなんだな)


立派な城壁があり、大きな門があるのにもかかわらず入り放題だ。これはダンジョンとしてのそういう設定にされていて閉じれないとかなんだろうか。


門番も王国内へ入る時にいたやつよりさらに大きく強そうなゴブリンだったが、これでは意味がないな。


いや、意味もない事もないか?これは俺が【忘失の外套】とかいう防具があるおかげでこれだけ楽なだけで、実際はこういった門番を倒してから進んでいかないといけないのか。

そう考えるとこのネームドを倒すって言うのは想像以上に難しい事なのかもしれない。



(すごいキラキラしてる)


何事もなく進んでいき、王城内へと侵入していく。中は大理石の床に大理石の柱に、キラキラと眩しいシャンデリアによくわからない絵画となんだか無駄に豪華だ。


『マスター、左から敵がきます』


(衛兵か)


左をみると先ほどいた門番と同じ格好をしたゴブリンが2匹やってきた、フルプレートの鎧に槍とショートソード、兜まで被っているのでギリギリ見えているあの顔がなければゴブリンだとは思わないかもしれない。


こちらに気づいている様子はないので無視して宝物庫を目指す。


(ヘレナ、アレは順調?)


『はい、全て滞りなく進んでいます』


アレとは何か。


今回のネームドを倒すにはさっき言ったように他のゴブリンが邪魔になる、ネームドとだけ戦いたくても恐らく邪魔をしてくるだろう。

では、どうするのか。


こっちに来る余裕がある様にさせなければいい、どうやるかは後のお楽しみだ。



(宝物庫って地下にあるのか)


ヘレナの案内で進んでいるがどんどんと怪しい感じになってきた、王城内は何を動力源にしているかわからない灯りがそこかしこについているのだが進むにつれて明かりも少なくなってきている。


『マスター、止まってください。そこの壁です』


(ここ?階段の途中だけど………)


『この先にある宝物庫の扉はダミーです、本当の入り口はここになります』


地下へ行ってもあるのは偽物の扉で本物は階段の途中にあるって変な所につくってあるんだな。


(どこに扉があるんだ?)


『そこの少し出っ張っている部分を押してください』


(これか?ってそう動くのか)


ヘレナに言われた通り、壁にある少し出っ張った部分を押すと石の壁が人が一人通れるぐらいの空間を残し下がっていった。普通こういうのって右か左にスライドするもんじゃないのか。


気にはなるが取り合えず中へと入っていく、薄暗い狭い通路を進んでいくと普通の木の扉が出てきた。


(この先?)


『はい』


全然この先に宝物庫があるようには見えないがヘレナが言うならあるんだろう、一思いに木の扉を開けていく。


(おぉー眩しい)


扉の先は画像で見るよりもさらにきらまぶしい世界だった、適当に置かれた金貨も剣も防具も、その全てが宝物庫という存在感を引き立てている。

落ちている金貨を一つ手に取る。


(どう?)


『【格納庫】内へと入れてくれますか』


(はい)


手の持っている金貨を【格納庫】へと放り込む。


『少々お待ちください………………簡易的な検査ですが、どうやら本物のようですね』


(まじか、全部持って帰るか………まった、罠とかないよな?)


『調べます』


ヘレナがそういった瞬間クモ型の偵察機が何体も出てきて部屋中を調べ始める。


『魔法トラップを検知、解除しました。物理トラップを検知、解除しました。呪いを検知、解除できないので横へ移動させます』


やっぱりトラップあったのか………っていうか呪いまであるのか。


宝物庫の中にはヘレナが操るクモ型の偵察機の他に【格納庫】内でいつも使っている作業員ロボットまで出てきて総出で仕分けをしている。


一部禍々しい物が見えるが、あれが呪い付きだろうか。


『お待たせしました、ここからここまでは安全な宝物になります』


(了解、ありがとう)


ヘレナが綺麗に分けてくれた宝物を見る、禍々しい気配のある物は数点でほとんどが問題のないやつになる。


ただ、量がすごい。確実に【空間庫】には入りきらない。


(これは【空間庫】に入りきらないし【野営地】の方に倉庫を追加してそこに入れておこうか)


『はい』


宝物庫内から一度【野営地】へと入り適当な箱型の倉庫を建ててから宝物庫へと戻る。


(じゃ頼む)


『了解』


【野営地】への入り口を開けておきそこをヘレナのあやつる機械達が何度も往復していく。


(呪いってどうにかする手段ってないのか?)


折角なら宝物庫にある物全てを持って帰りたいと思ってしまうのは仕方のないことかもしれない。


『呪いを解呪する手段はあります、1つダンジョン協会へ持ち込み解呪の依頼を出す事。しかしこれには相当の費用がかかります。2つ協会を頼らず解呪の出来るスキル持ちを探す、というのもありますがこちらも費用が掛かりますしいつになるかわかりません。最後に解呪可能なアイテムを探すまで保管しておくというのもありますがアレを置いておくかどうかはマスターの判断に任せます』


(うん、あれはもういいや置いていこう)


なんかめんどくさそうだしもういいか………


(あの呪いのアイテム達は解呪したらすごくいい物になるとかは無い?)


『何か特殊な効果が付いている可能性も否定できませんが、そこは運次第になりますね』


(ふむ、ならやっぱりいいか)


呪われてる系のやつは置いていこう、ぱっと見じゃわからないしもしかしたらいい物があるかもしれないけどリスクを背負うほどじゃない。


『マスター、全て運び終わりました』


(了解、それじゃ本命に行こうか)


『はい』


寄り道をしてしまったが本来の目的であるネームドを目指して再び歩き始める。






◇  ◇  ◇  ◇






(あれがゴブリンキングか)


王城の王の間、やたらとふかふかな絨毯と太い大理石の柱があり奥の方には段差が作られて玉座が鎮座している。


玉座には王であるゴブリンキングが座っている。


初見の感想としては、思ったより強そうに見えないって言うところだろうか。脇に控えている護衛であろうゴブリンに比べて体も小さく腕も細い。

しかし先ほどから肌がピリピリとする。強そうには見えないゴブリンキング、なのに何か感じる明らかに見た目通りではない何かが。


今いるのは王の間へと入る入口の陰だ、そこからのぞき込むように見ている。


(奥にいるのが目的であるゴブリンキングだとして、手前にいる2匹は護衛のゴブリンか)


『思ったより護衛が少なく見えます、何かあるかもしれません』


確かに王を守るにしては護衛が2匹だけなのはおかしい、【気配感知】には何もうつらないが何かあると見たほうがよさそうだ。


(取り合えずここでも【忘失の外套】は効果を発揮しているようだし楽に倒せるに越したことは無い、狙うか暗殺)


正面から戦闘をすることも考えていたが楽に倒せるならそれでもいい。


暗殺をすると決めて王の間へと一歩踏み込む。


『マスター!』


ヘレナの声が聞こえた瞬間頭で考えるより先に体が動き大きく横へと飛ぶ、後ろを振り返ると俺が先ほどまでいた所に小さいゴブリンが剣を突き立てていた。


それが合図になったのか王を守る護衛の2匹も動き出した。



ばれた?何でだ?まぁいい、とにかく見つかったなら仕方ないこのまま戦闘を始めるしかない。


「ヘレナ!戦闘開始だ!」


『了解』










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る