第74話 【忘失の外套】

74.【忘失の外套】








「どう?」


『凄いですね、全くわかりませんでした』


「まじか、やばいねこれ」


『扱いに注意しないといけませんね』


「うーむ、流石に監視対象になるだけの事はあるな」



【アルミーシュ】ダンジョンのボスを倒してから5日後、俺とヘレナはBランクダンジョン内で手に入れた装備品の効果を確認していた。


最後のボス戦で宝箱からでたあの謎の肩当だ、鎧の一部のようにも見えるこの肩当だが鑑定が終わり手元へと帰ってきていた。

手に入れた装備の名前は【忘失の外套】という、肩当に見えるこれはフード付きの外套だったのだ。

どの辺が外套かと言うと【忘失の外套】を左肩につけてタッチすると肩当から外套がシュッと飛び出してくる展開式だった。

俺の防具とか神宮寺さんに作ってもらった頭装備みたいな感じだな。


そう考えて見ると俺の装備って展開式のやつばっかだなって思うけど実はこういう形態の防具は一般的でほとんどの人が俺と同じ様に展開式の装備ばかりもっている。

理由としてはかさばらなくて持ち運びが便利だからだ。


収納袋とかあれば荷物が多くても平気じゃない?って思うかもしれないが容量に制限がある以上荷物はかさばらないだけで嬉しいものだ。

それに展開式だからって耐久力が低いとかいう事もないし変わらないからね。


まぁそんな感じで【忘失の外套】の効果を確認していたのだが、その効果がすさまじかった、というかあの時ボスの姿が全く見えなかったのは恐らくこれと似たような装備をしていたからだと思う。

というのもこの外套を装備するとその姿がぼやけて例え目の前にいたとしてもまばたきした瞬間に見失うというほどの姿を隠す効果があったのだ。



【忘失の外套】

<見えず、聞こえず、匂わず。装備した者の姿がまるで世界から忘れ去られたかのように消えてしまう外套>



鑑定した結果の説明がこれだ、この装備やばい。


ボス戦の時は攻撃の時や移動の際には見えていたその姿が、この装備の場合は移動しようがその姿が見える事が無いのだ。流石に攻撃をすればどこにいるか分かってしまうがそれもまたまばたきをする一瞬で見失ってしまう。


実際ヘレナの目の前でこの装備を付けて姿を消してみたのだが俺がどこにいるのか全く分かっていなかった。

さらにこの装備の凄い所はありとあらゆる感知方法を使っても見えない所だ。

音の反響でも、熱でも、魔力系の感知でもスキルでも、どんな感知方法でもわからない。


まぁもし俺とヘレナが知らない何かしらの特殊な感知方法があった場合はその限りではないが、少なくとも俺とヘレナが持ち合わせる感知方法では見つけることが出来なかった。


さて、ここまで【忘失の外套】の凄さを語ったところで気になるのがそれだけ凄い装備だと悪用されそうでやばくね?って事だと思う。俺だって実際こんな装備があるって知ってたらヤバイと思う。


そこで出てくるのが危険指定された装備品の監視規則だ、これは俺みたいにダンジョン協会へと鑑定してほしいやつを提出したときにその効果が明らかにやばかった場合規則としてその装備が監視対象になる。


まずダンジョン協会によって装備者固定の魔法がかけられる、これにより一人だけしか使用できないように制限をかける。次に魔法契約でこの装備をダンジョン外で使えないように縛られる、ダンジョン内では自由に使えるがもし姿の見えない襲撃などの事件が起きれば俺が真っ先に事情聴取される。

さらにさらに、定期的にちゃんと取り扱っているかの報告義務がある、失くしていないかとかそういったことだな。


そこまでしてやっと俺の手元にやってきて扱えるようになる。そういった契約などの手続きがあったので鑑定にだしてから5日後になって手元にやってきた。


めちゃくちゃ手続きあるのに届くの早くない?って思っただろう。普通こういう危ないのってなんだかんだ言ってどんどんずるずると伸びていく物何じゃないのかって。


逆だ、やばい物だからこそさっさと手続きを済ませて所有者を確定させてしまいたい。そうすると管理も楽だからだ。

そんなにやばい物ならダンジョン協会が強引にでも引き取る可能性もありそうなもんだがそういった事は出来ない、基本的にダンジョンでの取得物の権利は手に入れた人にあるからだ、もしそれをダンジョン協会が危ないやつだからと返さないとかがあると今度は闇市に流れて行ってしまう可能性がある、その可能性があるくらいならある程度縛るけどちゃんと渡しますよの方がいい。


それにこの先こういった規格外の装備などがないと攻略できないようなダンジョンも出てくる、なので一筋縄ではいかない難しいややこしい話しなのだ。



「じゃぁちょっと試してくるよ」


『はい』


今回装備を試しに来たのはBランクダンジョンである【鬼の森】という場所、ここには鬼がでる、オーガではない妖怪とかの方の鬼だ。


何故ここに来たのかと言うと鬼は感知範囲が凄まじく遠い所から一方的にこちらを見つけて襲い掛かってくるのだ、その感知方法はよくわかっておらず気配だとか匂いだとかそれとも別の何かだとか色々と言われている。

そんな鬼でも【隠れ身】などの自身の姿を隠す系のスキルがあればある程度までは近づくことが出来る、だけどそれでも結局は100メートルも近づいたところで見つけられてしまうらしいが。


なのでこのダンジョンではBランクの実力がある鬼がこちらの感知範囲外から絶え間なく襲ってくるという悪夢のようなダンジョンなので余程の物好きしかおらず人が全くいないので今回のような装備品を見られないように試すのにちょうどいいのだ。


ヘレナが作ったメガネ型ディスプレイをかけて【忘失の外套】をつけて姿を隠してダンジョン内を歩いていく。

姿を隠せるのが俺だけなので残念ながら【赤雷】も【不壊】もバイクもお留守番だ。


『音が一切しませんね』


メガネ型ディスプレイに表示されているヘレナが画面に文字を表示させて話しかけてくる、彼女の言うように森の中を歩いて枯れ葉や枯れ枝などを踏んでいるはずなのに音が一切しない。


(鑑定結果の説明で分かってはいたけど凄いね。それに鬼もまだこない、調べた情報では5分も歩くと必ず鬼がくるらしいけど)


思念操作で打たれた文字がメガネ型ディスプレイに表示される、【忘失の外套】の効果で声を出しても音が漏れないがヘレナにも聞こえないので今回新しく思念操作の機能を追加してもらって彼女とはそれで会話している。


『たまたまなのかわかりませんがまだ鬼を見ませんね………っていうといましたよマスター』


(おー、ほんとにこっちに気づいてないな)


赤銅色の肌に腰巻だけの姿、頭には小さな角が2本生えており手には金棒。まさに鬼って感じの見た目のが50メートル先にいる。

普通なら既にこちらには気づいていて襲ってくるはずだが【忘失の外套】の効果か全くこちらに気づいていない。


(近づける所まで行って見るか)


『気を付けて下さいね』


ゆっくりと、普段より少しゆっくりと歩いて鬼へと近づいていく。


(気づく素振りすらないな)


鬼との距離は5メートル、相手が一歩踏み出せばこちらに手が届く距離だが気づいた素振りすらない。

鬼は金棒を片手にボーっと立っている。


(ん?)


突然鬼が何かに気づいたかの様に顔を横へと向けて移動し始めた、最初はゆっくりとジョギングするぐらいで段々とスピードを上げ数秒後には姿が見えなくなった。


『どうやら他の人が感知範囲に入ったようですね』


(目の前に俺がいるのにね、やっぱり気づいてなかったか)


こうやって確かめてみると改めてこの装備のやばさがわかる。


(次は攻撃してみよう)


『了解』


さっきの鬼はどこかに行ってしまったので別の鬼を探して歩き始める。


(【忘失の外套】をしてたら採取依頼とかだと楽になるかもね、敵に襲われないし)


『確かにそういった使い方もできそうですね』


採取依頼の中には魔物に囲まれた場所にしか生えない薬草をとってきて欲しいみたいなのもある、そういった依頼だったら【忘失の外套】は強いかもなぁ。

今度ギルド依頼にそういったのがあったら受けてみようかな?


考え事をしながらも鬼を探す、森の中は静かでここがダンジョンでなければ散歩にちょうどいいと思えるような場所だ。


(あ、青鬼)


さっき見つけたのは赤色の鬼、赤鬼さんがいるという事は青鬼さんも勿論いる。

赤鬼さんと違うところは肌の色だけでなく角の数も違う、青鬼さんは角が1本だ。それ以外は一緒。


(やっぱりこっちも気づかれないか)


赤鬼と青鬼は色が違うだけで強さは変わらない、だけど2匹が揃うと何かバフがかかるのか通常より強くなるらしい、ネット情報だ。


『攻撃するんですか?』


(うん)


〝アサルトライフルFoxtrot〟を構えて青鬼の頭を狙う、使用するのは通常弾だ。


1発。


(おー、最強では?)


青鬼の頭へと吸い込まれた弾丸はその銃弾をうけた本人ですら何が起きたかわからずに通り過ぎて行った。


倒すのが物凄く楽だけどなんだかずるしている気分になる、まぁそういった気分になるってだけで使うのはやめないけどね。


『マスター!』


(うおっ!?)


【忘失の外套】の効果にうんうん唸っていると横から突然赤鬼が飛び出してきた、それも2体も。


(まさか今の攻撃の一瞬を感知された?)


『そうみたいですね』


鬼の感知力は凄いな………攻撃するときの一瞬だけ現れる気配を辿ってここに来るなんて。


(まぁ倒しておくか)


逃がす必要もないしこっちに気づいていないうちにサクッと倒そう。


アサルトライフルを構えて1発ずつ撃ち込んで赤鬼を倒す。


(まじか、2体目の赤鬼こっちに気づいてたぞ)


射撃した時間は1秒に満たない、そんな一瞬なのに2体目の赤鬼はこちらに気づいていたのか明らかにこっちを見ていた。


『外套があってよかったですね』


(確かに、無かったら相当きついなこのダンジョン)


鬼を1発で倒しているから実際の強さは分からないがこの感知能力だけで十分驚異的だ、流石にBランクダンジョンといったところか。


(じゃぁある程度確認できたし今日は帰るか)


『はい』


【忘失の外套】の効果を確認したかっただけだからもうダンジョンに用はない、いつも通り夕方まで潜っていてもいいがこのダンジョンはちょっと怖いのでやめておこう。





◇  ◇  ◇  ◇





「あー、さっぱりした」


家へと帰ってきてからお風呂へと入りさっぱりとした、ダンジョンから帰ってきたら必ずお風呂へと入るようにしていたら習慣になってきて最近では入らないと気持ち悪くなってきた。


「ヘレナは相変わらず情報収集か」


荷物持ち君を操るヘレナはいつも通りPC前に陣取りネットサーフィンだ、そろそろ家の中用の機体とか作るべきかな?荷物持ち君だと家の中じゃちょっと大きいしね。


今の時刻は夕方になるかどうかぐらいの微妙な時間、何かするにしてもすぐに晩御飯だしどうしようかなっていう感じ。


ステータスの確認でもしておこうかな?


一応ダンジョンから帰ってきたら確認してはいるがレベルが上がる程度でじっくりと見る必要もなくなってきているんだよな。

何かスキルが増えていればもっとじっくり確認するんだけどね。


というわけで現在のステータスだ。




名前:神薙 響   年齢:15


レベル:68 → 71


STR:156 → 170

VIT:112 → 125

AGI:161 → 179

DEX:732 → 775

INT:8

MND:7


≪スキル≫

<ユニーク>【GunSHOP】Lv:6 

<上級>【空間庫】Lv:6

<スキルリンク>【野営地】Lv:2

<特級>【射撃】Lv:2 → 3

<中級>【銃術】Lv:10

<上級>【堅忍不抜】Lv:─

<上級>【気配感知】Lv:2 → 3

<中級>【遠目】Lv:─

<スキルリンク>【イーグルアイ】Lv:9

<ユニーク>【風読み】Lv:─

<中級>【計算】Lv:8 → 9

<中級>【体術】Lv:3 → 5

<ユニーク>【制御:機械種マギア】Lv:─

<スキルリンク>【格納庫】Lv:─




まぁこんな感じでそんなに変化はない、順調にレベルが上がってきてはいるけどかなり上がりづらくなっているように思う。


どこか戦いやすそうな場所を探してレベルアップ目指そうかな?特になにか目標があるわけじゃないけどやっぱりAランクとかになってみたいんだよね。


Aランクになる条件ってなんだったっけ?後で調べてみるか。








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