第69話 現代の犯罪

69.現代の犯罪








その日はいつも通りだった、朝起きてご飯を食べて身だしなみを整えてヘレナと雑談しつつ二日目のパトロールへと向かった。



「それじゃぁ浅村さんは特殊警邏隊に入って10年目になるんすか?」


「あぁそうだ」


「へぇ、10年は長いっすねぇ。それだけ長いと色んな事件を見てきてそうっすけど大変だった事件とかあったっすか?」


二日目もメンバーは変わらずだ、浅村さんが先頭になりその横に大学生である金森さんが並んで話しかけている。昨日と比べてだいぶ打ち解けている様子でその辺のコミュ力の高さは流石だなぁと感心してしまった。


浅村さんと金森さんの後ろにはおばちゃんの田中さんと社会人である村上さんが並んでいてこちらも話しているが話題が田中さんのご近所話なので聞いていいのかどうか悩みどころ。

ご近所に住んでいる何々さんが飼っているワンちゃんがどうのこうのとか、誰々さん家の旦那さんは外で女をつくっていて中々家に帰ってこないのよとか。

聞きたくもない話題が聞こえてくる。


最後尾には俺とおじさんである日村さんが並んで歩いているが昨日からずっと会話がない。

共通の話題があるわけでもないし話す事が無いのだ。


とまぁ、そんな感じでパトロールをしている。



「大変だった事件か………最近じゃぁ何かと便利な道具が出来たお陰で捜査も楽になったし大変だと思うような事件はほとんど無くなってしまったが。それでもあえて言うならアレだな連続誘拐事件、あの時は捜査がどうこう以前に家に帰る事も出来なくてそういう意味では大変だったな」


「それってアレっすか!?前代未聞の誘拐人数で世間を騒がせたやつっすか!」


「あぁ、一度で誘拐されたのは全部で245人。最終的には何とか全員無事に救出できたのはいいものの救助者の中には後遺症から精神を病んだ人が出たりと何かと大変な事件だった」


一度に245人もの人数を誘拐した犯罪、事件の詳細は公表されていないので知らないが当時はかなり大変だったと聞いている。過去の事件を色褪せさせないようにと今でも時々テレビ番組で特集などを組むと必ず紹介される事件だ。


犯人は単独犯で捜査の途中で死んでしまったと言っていたので結局動機もどうやって245人もの人を誘拐したのかもわからずじまいになってしまった。

だけどまぁ噂では何やら特殊なスキルを持っていてそれを使ったのだろうと言われている。


俺も何となく想像はつくし【野営地】というスキルを持っているからこそわかる。

スキルの中には異空間へと移動できるスキルが存在する、恐らくこの事件もそういったスキルを使ったんだろう。

じゃないと一度にそれだけの数を誘拐などできない。


『こんな事件があったんですね、ふむふむ。当時のSNSの混乱ぶりは相当ひどかったようです』


浅村さんと金森さんの話を聞いて考えているとヘレナがメガネ型ディスプレイに文字を表示させて話しかけてくる。


『そんなにひどかったの?』


メガネ型ディスプレイに俺が打ち込んだ文字が表示される、実は昨日このメガネ型ディスプレイを一日使ってみてヘレナと会話できないのは不便だなと感じたので文字を打ち込めるように新しいデバイスをヘレナが作ってくれた。


薄いシート状のフリック入力できるやつで、それを左腕に貼り付けている。

こういったデバイスは売ってはいるのだが細かい所が微妙だったのでどうしようか悩んでいたらヘレナがちょうどいいのをパパっと作ってしまったのだ。

最初はメガネ型ディスプレイに思考入力の機能を追加しますか?と言われたのだが物理的に入力する方が何て言うか………かっこいいかも?と思ってそうしたのだ、特に深い意味はない。


『はい、今となっては大体のところが判明しているので落ち着いていますが当時は何が起きたのかもわからず様々な情報がSNSで錯綜したみたいですね』


今も昔も、誰でも気軽に書き込める掲示板の様なアプリは流行り廃りはあったが形を変え品を変え今でも続いている。

昔はSNSなどの書き込みなんて素人が何か言ってるな程度だったが時代が経つにつれて誰でもない誰かの情報と言うのは無視できない物になっていった。

だが、誰でも書き込める。これが時には大きな障害となる、ほぼ嘘の投稿だと分かっていてもほんの少しでも確かな情報がある限りどんな情報でも無視できない。


『色んな情報が錯綜する中でも次第に情報が出そろっていき、次第に犯人と思しき人物なども特定されていって、中には変に行動力のあるバカが怪しいというだけで犯人でもない人物に突撃しにいったりとかなり問題が起きていたみたいですね』


『それは………何て言うかほんと行動力のある人って怖いね』


正義の側に立った時、行動力のあるバカはもっとも恐ろしい。自分達のやっていることは間違っていないという考えしか頭にないからだ。


『今時は誰もがスキルを持っていますからね、ただの喧嘩でも大きな被害が出かねません』


低レベルだったとしても戦闘向きのスキルがあれば大きな被害がでる、今でもたまに酔っ払った人が喧嘩をして街中でスキルを使って怪我をしたとかいうニュースが時々ながれる。



「そういえば浅村さん、パトロールをしている時ってどこか注意深く見たほうがいい所とかあるんですか?」


金森さんと浅村さんの会話が落ち着いたタイミングで村上さんが浅村さんへと質問し始めた。


「そうだな、例えば不審な人物を見つけたい場合などは見た目から分かる事が多いのと後は第一印象などの感覚が大事になってくる」


「感覚ですか?」


「そうだ、人の感覚というのは馬鹿にできない。何となくあの人嫌だなとか近づきたくないなと感じる事は意外とあってたりする、何かエビデンスがあるわけではないが、そういうのは今までの経験からくる無意識の感覚だという自論だ」


確かに、何となくという感覚だけどそういうのって意外と大事だったりするっていうもんな。理由や説明が出来るわけじゃないが何となくそう感じるという感覚………


「なるほど、それじゃぁ場所の場合はどうですか?どこが狙われやすいとかってあるんですか?」


「狙われやすい場所か、映画などではよく銀行強盗が起きるが実際によく狙われるのは素材屋だ」


「素材屋と言うのは魔物の素材を扱っている所の事ですか?」


「そうだ、他にも薬草なども狙われることが多い、ああいった店では持ち運びしやすい大きさで高い物が多く、しかも素材自体を何かに登録してあるというわけでもないからな盗まれてしまうと取り返す事はほぼ不可能と言える」


魔物の素材と言うのはダンジョン協会が一手に引き受けてはいるがその後は加工するために工房へと送られたりと素材自体をどこかの業者へと卸す事がある。

その内の一つが素材屋だ、とはいってもどこかに店舗があって誰でも素材が買えるというわけでは無い。

素材屋と言うのは魔物の素材を扱う人達の事で、取り扱う素材は基本的に倉庫などにおさめられている。

その倉庫が狙われるのだ。


「ちょうどいい、そこに素材屋の倉庫が………」


そんな話をしていた時だった、浅村さんの言葉が突然途切れて沈黙する。何事かと見て見ると驚愕した表情をしている。


「浅村さん?どうかしたんですか………?あれっ!?」


反応のない浅村さんを訝し気に見る村上さんだが何かに気づいたのかその視線が素材屋の倉庫へと向いて止まる。

おのずとみんなの視線がそちらへと向く。


「あー、なるほど………襲われてね?」


『見事に襲われていますね』


思わず口から言葉が漏れ出ていた。だってしょうがないじゃないか、目の前で今さっき話していた素材屋の倉庫が覆面をした集団に襲われているのだから。

大きな音が出ているわけでは無い、それならもっと早くに気づいてた。あの集団は手慣れているのか大きな音もださずに静かに襲撃していた。


「っ!?隠れろ!」


静かに怒鳴るという器用な事をした浅村さんの掛け声で全員がサッと建物の陰へと隠れる。


「どうするんっすか?」


意外………といったら失礼かもしれないが、意外にも冷静な金森さんがどうするべきか浅村さんへと指示を仰ぐ。


「この人数ではどうしようもない、既に連絡は送ったので後は仲間の到着を待つしかない」


こちらの人数は6人、しかもこういった事態の経験があるのは浅村さん一人だけ残りは素人だ。それに比べて相手の集団は見えるだけで10人はいる。


「それはそうっすけど、どう見ても間に合いそうにないっすよ?」


救援がいつ来るかわからないが最低でも10分か下手したら1時間もかかるかもしれない、目の前にいる集団の荷運びの手際はかなり良く用意されている乗り物にどんどんと積まれていっている、見た感じもうあと数分で終わるだろうって感じだ。


「わかっている、だからこれを使う」


「なんすかそれ?」


浅村さんが取り出したのは丸い、野球ボールほどの大きさの機械だ。それが二つ。


「これは【追跡用魔道具今いくよくるよ】だ」


「なんすかその名前は………」


「名前に関しては知らん、これを作った奴に言ってくれ」


話しながらも手に持った魔道具を起動する浅村さん。野球ボールの見た目の魔道具は片方からは足が生えてきて、もう片方からはドローンなどについているプロペラの羽が生えてきた。


そのまま魔道具を手放すと一つは地面から、もう一つは空に飛んでいった。どうやら地上と空と2つから相手を追跡する魔道具みたいだ。


「これでいい、ここで逃すのは悔しいがどうしようもないから仕方ない。見張るだけにするぞ」


「そうっすね………ってアレこっちに気づいてるようにみえるんすけど?」


「気づいてるねぇ」


『見られてますね』


魔道具を使用してすぐ、覆面を被った集団の一人が明らかにこちらを見ていてしかもその後仲間に何か告げている。


「チッ!!お前らは援護だけしろ!あたるとしても複数人で一人を囲め!」


「あ、ちょ!」


覆面の集団がこちらへ気づいていると分かった瞬間、浅村さんが飛び出していってしまった。あの人数に一人で突貫なんて無謀すぎる。


「行くしかないっすよ!」


浅村さんに続いて金森さんも飛び出していってしまった、それが見えた覆面の集団は荷物を積み込んでいたトラックへと3人乗り込んで7人を残して去っていった。


人数が少しでも減ってくれるのはありがたい、取り合えず援護だけに徹底しよう。


浅村さんと金森さんに一瞬遅れたら残っていた4人もそれぞれ建物の陰から飛び出してついていく。


「バフをかけてくれ!」


先に飛び出して既に覆面の集団の一人と戦闘に入っている浅村さんがこちらへ向かって指示をだしてくる、その声をうけて日村さんがスキルを使っていく。


今回のパトロールにあたっている6人のうち、浅村さんと金森さんに田中さんは前衛、村上さんは魔法を扱う後衛、日村さんはバフ魔法を使う後衛。そして俺が中衛だ。


浅村さんを囲もうとしている集団の一人へと金森さんと田中さんがあたりにいくが相手も2人でこちらへときている。


「村上さん、浅村さんのほうの援護をお願いします。金森さん達のほうへは俺が行きます」


「わかったわ」


浅村さんが一人で5人の相手をしてしまう事になるので村上さんへそちらへと援護へ向かうようにお願いする。バフ魔法をかけれる日村さんもいるし3人で何とかしてもらうしかない。


時間を稼いでもらっている間にこっちの3人で敵の2人をどうにか無力化しないと。


『マスター、まずはアレを使いましょう』


「あぁ」


ヘレナの言葉にうなずいて【空間庫】から今回の為に用意した武器であるショットガンを取り出す。

何故ここでショットガンを取り出したか、スキルで買った銃は人に対してセーフティがかかってダメージを与えられないのに大丈夫なのか?って思うかもしれないが安心して欲しい。


既に戦い始めている金森さんと田中さんが射線に被らないように大きく迂回してショットガンを構えて撃つ。


ショットガンからポンッと音がして黒い塊が飛び出す。


「ぐはっ!」


「田中さん!今です!」


黒い塊があたった覆面がその衝撃で呻きガクッと足を付いた瞬間、田中さんへと合図をだすと彼女はそのまま覆面の背後に回り首を絞め、落としてしまった。


それを視界の端で捉えながら続けて金森さんの相手へとショットガンを向けて撃つ。


「っ!」


こちらの攻撃へと備えていたのか一撃を耐えられてしまったので続けて2発目3発目と撃っていく。


「金森さん!」


「おう!」


流石に連続で撃たれると耐えれなかったのか覆面が倒れたのでその隙を狙って金森さんが落としにかかる。


「俺は浅村さんのほうへ援護いきます!」


「了解!」


さて、今までの気づいたと思うが。今回の為に用意したのは〝ゴム弾〟だ、それもスキルで買った物なので普通のより威力が高い探索者相手用のやつだ。


実はわりと初期段階からこの弾は売ってあった、だけど使うことないだろうとその存在を完全に忘れていたのだがスキルを把握しているヘレナから人相手に戦うならまずはこれを使いましょうと思い出させてくれた。


もちろんスキルで買った銃だから人相手にはセーフティがかかり怪我などはさせれない。だけどその怪我をさせないという部分がうまい事作用しているのかゴム弾などで相手を傷つけずに無力化できる。


「うおおおおおおおぉ!」


「【スタンボルト】!」


「わお………」


急いで浅村さんの方へ来たのだが手助けは必要なさそうに見える、覆面に囲まれた中で浅村さんが大きな槍を振り回し普通に戦えている。そこに村上さんの魔法が飛んで行ってかなり優勢にみえる。


けどまぁ優勢だからといって安心できないのでもちろん俺も加わる。


浅村さんの死角にいるやつを狙って〝ゴム弾〟を撃ち込んでいく、倒す必要はない動きを止めれたらその隙を逃さず浅村さんが倒してくれる。


「【穿つ】!」


1人、2人と次第に動きを止めていく。


「加勢するっす!」


先に倒した2人を拘束し終わったのか金森さんと田中さんが参戦した。それを見て覆面達は逃げ腰になる。


「逃がさん!」


形勢逆転だ、今度は俺達が覆面を囲む番となった。そうなると後は時間の問題だ、浅村さんがどんどんと倒していき田中さんが拘束していく、金森さんは様子を伺いつつ浅村さんの援護をしている。


そうして戦闘が終わった。


「ちょうどいい、救援が来たようだ。俺はこのままさっきの車両の追跡にうつる、お前たちにはすまないがここでパトロールは終わりだ戻っていてくれ」


覆面との戦闘が終わってすぐに呼んでいたという救援がやってきた、浅村さんはすぐに彼らと話し始めてしまったので俺達にできる事はもうない。


「はぁ、それじゃぁ帰るっすか」


「そうですね」


時間にして10分も経っていない、初めての対人戦闘はそうして終わった。







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