第68話 パトロール

68.パトロール








「ここが訓練所だ、普段任務の無い隊がここで体が鈍らないように鍛錬している」


大き目の体育館で一度に数百人ぐらいが同時に訓練出来るようになっているみたいだ、筋トレの道具があったりサンドバッグがあったり、床も柔道の道場みたいなやつの柔らかい感じのになっている。


「私達、特殊警邏隊はその性質上対人戦闘が主になる。そのため普段からこうして訓練したりするのが大事になってくるんだ」


そう言って案内してくれるのは特殊警邏隊第5隊長の船越伸一さん、歳は30代後半ぐらいで刈り上げて短くなった髪とそのむきっとした肉体から自分の苦手とする陽の属性の体育会系だとわかる。


案内されているのは俺と同じ様にパトロール要請が届いた探索者達、その数50名ほど。年齢は様々で隊長の船越さんよりも年上であろう人もいれば俺と同い年ぐらいの人まで男も女も様々だ。


特殊警邏隊はその名前の通り特殊な部分がある、隊員全てがある程度のレベルと戦闘用のスキルを持ち合わせておりその所属が警察とダンジョン協会の二つに分かれるところだ。

二つに分かれていても統括するのは警察なのでどちらも警察と言えるがそれぞれ別の場所を主に警邏している。

警察所属の特殊警邏隊はダンジョン外の地上を主にパトロールして怪しい人がいれば声をかけて犯罪が起きれば逮捕し取り締まる。

ダンジョン協会所属の特殊警邏隊はダンジョン内を主目的にしている、その違いだ。


今日は午前中にはこの訓練所で何かするらしく、午後になると5人一組になりパトロールに出ると言っていた。


船越さんは案内しながらも説明を続けているが今までの話しで分かった事は、この断る事の出来ないパトロール要請の一番の目的は興味を持ってもらう事らしい。

特殊警邏隊はなるのが難しい、戦闘力も必要だし現場での瞬時の判断をする頭の良さなど求められることが多いからだ。

その為いつも人手不足だ。


人手不足だから人が欲しいが声掛けしても中々応募に人がこない、どうしてだろうと思って調べて見ると特殊警邏隊が何かよくわからないという声が出てきた、なら興味を持ってもらおうという事らしい。

そのついでに直接人材を見て、いいのがいれば声をかけようという考えもあるみたいだ。



それにしても………さっきから案内されつつ訓練している人達を見ているのだが何と言うか音が凄い、ドガッとかゴツッという明らかに人体からしてはいけなさそうな音が聞こえてくる。

普通ならあのパンチ一発で骨折までもっていかれそうなほどの威力が出ているように見える。

そんなパンチが組手の中で交互に行われている。


怪我をしてもおかしくないだろうアレ………って思っているのは俺だけではないようで他にも同じように訓練しているのを見て驚いている人や大丈夫なのだろうか?と心配そうに見てる人もいる。


「あんなに強く拳を交わしても平気かどうか気になっているようだが、安心してくれ全く問題ない。そうだな………みんなはダンジョンで敵の攻撃を受けたことがあるか?」


船越さんがそう言って皆を見回すがほとんどの人は何も言わず数人がうんうんと頷くぐらいだ。


「ほとんどの者がダンジョンで攻撃を受けないように立ち回る事だろう、無理をしなければこれから先も魔物の攻撃を受けずに済むだろう。だが一度でも攻撃を受けた事がある者はこう思っているはずだ、「アレ?思ったより大したことないな」って」


確かに言われてみればそうかも?とは言っても俺が攻撃受けたのって盾越しだったりするからな、実際に受けたら変わるかもしれない。


「ステータス的な話をすると大体VITの数値が45を超えていれば乗用車に轢かれたぐらいじゃ怪我をしないで無傷で済むようになる。60を越えればトラックに轢かれても無傷だろう、乗用車とかなら逆に相手の方がひどい事になるかもな。そういった風にステータスの力は意外と影響力がでかい。ここに居る隊員達は最低でもVITのステータスが90を超えている、一番伸びている者で150ぐらいだったか?そのレベルになるとよほど強い魔物じゃなければ攻撃を受けても怪我をしなくなる。銃などで撃たれても怪我をしないレベルだ」


現実の銃が効かないレベルになるのか………銃弾を弾くとかスーパーマンみたいだな。


「そういった理由でアレだ、お互いにあのレベルの攻撃を受けても平気だからあれだけ強く打ち合っている」


なるほどなぁ、それにしてもそうか【アルミーシュ】ダンジョンにいた際にステータスの力に気づいたがあの時は動きだけだったがそりゃVITも数値があがっているんだから耐久力とか上がってそうなもんだもんな。

でもまぁ今の俺がどれだけの攻撃に耐えれるかとか気にはなるけどわざわざ攻撃を受けてみようという気にはならないし気にしなくてもいいか、けどいざという時はそれぐらい耐えれるんだぞの気持ちはもっておこう。


「よし、それじゃぁ次に行くぞ」






◇  ◇  ◇  ◇






あの後色々見て回った、事務作業している所や食堂や更衣室など、もうほとんどこれは職業体験だ。

食堂で早めにお昼ご飯を食べたが結構おいしかった、体育会系らしくご飯は大盛自由でおかずなども揚げ物などが多く味もよかった。


そうしてむかえた午後、本命のパトロール任務が始まる。


5人一組で分けられそこに特殊警邏隊の隊員がひとつつくことになり合計6人でパトロールにあたることになる。


「本来ならこういったパトロールは多くても4人まで、通常は2人で行う事になっている」


そう話すのは特殊警邏隊第5の隊員の一人で浅村さんという男性、年齢は20代後半で探索者としてのランクはBらしい。

彼もまた船越隊長と同じく刈り上げた短い髪をしていて服の上からでもわかるもりっとした筋肉をしている。


「はいはい!質問!それって本物ですか!?」


「これか?もちろん本物だ、私達隊員全員に支給されている」


「まじ!?やっべー!」


浅村さんへと質問したのは大学生だという金森さんという男性、先ほどの短い会話から分かる通り明るくノリのいい………チャラい感じの人だ。

彼がそれは本物か?と聞いたのは浅村さんの手首についているアクセサリーだ。


シンプルな銀色の輪っかのアクセサリーだが青い宝石がひとつポツンとついている、これは【天使の涙】という魔道具で一度だけどれだけ大きな怪我をしても全回復してくれるというものだ。

その効果は凄まじくたとえ上半身と下半身が分かれたとしても一瞬でも生きてさえいれば元通りになるという。


それだけの効果なのだからもちろん相応の値段はする、そんな装備が何百人といる隊員全員に支給されているというのだから確かに驚きだ。


因みにこの辺の装備の効果などはあらかじめ知っていたわけでなく、今回の為に付けてきたメガネ型ディスプレイに乗り込んでいるヘレナが文字で都度教えてくれている。

彼女は空気を読んで音声ではなく文字で会話してくれているのだが、こちらから返事するタイミングが中々ないのでヘレナが一人でさっきから色々と一方的に話しかけてくる。


あそこのお店に今度行って見たいだとか、あのお店の本社はどこどこにあってとか。そういった話に飽きると今度は今一緒にパトロールにあたっている人のSNSをどこかから調べてきてこういう事言ってますよとか教えてくる。


特にこの金森さんはヘレナ的にもよしとしないタイプらしく先ほどから彼は裏でこんなこと言ってますよとかSNSで手に入れた情報を教えてくれる。


ヘレナに掛かればネットに上げたわずかな情報から本人を特定しちゃうんだからちょっと怖いなと感じる、けどまぁいきすぎなければ自由にしてくれていいと思う、最後に止めるのは俺の役目だ。


俺と金森さんと浅村さん、残りの3人は一人はおばちゃんって年齢の人で田中さんいつもはDランクのダンジョンを手が空いたときに潜ってお小遣い稼ぎをしているようだ、もう一人は社会人のお姉さんって感じの人で村上さんいつもはパーティでCランクに潜っているらしい、最後の一人が40代ぐらいの人で日村さん今はソロでDランクのダンジョンに通っているらしい。因みに金森さんはパーティでCランクみたいだ。

みんな最初にお互い挨拶をしたがそれっきりあまりしゃべることがない。


女性陣二人………というかおばちゃんのほうが一方的に同じ女性である村上さんに話しかけている。

金森さんは浅村さんと話しつつ隙があれば村上さんに話しかけてに行く感じで、残った俺と日村さんは特に話す事が無いのでお互い無言だ。


「浅村さんはこうやってパトロールしてて事件に遭遇とかしたことあるんすか?」


「もちろんある、だから気を抜くなよ一見平和に見えても事件というのは人知れず起きているものだ。さっきまで何もなかったのにいきなり事件に巻き込まれることなんてのもある」


「へぇ、そうなんすか?まぁ今回は大丈夫っしょ!」


何とも能天気であるが、俺もそうそう事件なんて起きないと思っている。

そもそも現代は監視カメラの技術もかなりあがっており街中での死角なんてもはや無いと言われている。

一般的なお店につけられている監視カメラに駐車場などのカメラ、そこに国が取り付けたカメラにと今では何か事件が起きればすぐにわかるし犯人の顔なども鮮明に映し出せるし、顔を隠していたとしても体形や歩き方、逃走ルートをカメラで追いかけたりなどして何かあってもすぐに捕まる。


それなのに特殊警邏隊などが存在するのは犯罪者も一筋縄ではいかないようになっているからだ。あれやこれやと思いもつかないような方法で犯罪を行っている。

後は単純にこういった警察が見えるところにいると犯罪というのは起きにくい。なのでその存在だけで十分世の中の役に立っているのだ。


それにしても、このパトロールは恒例行事なのか道行く人がチラッとこっちをみるがすぐに興味を無くしたようにあるいていく。

これだけ目立っていれば視線を集めるのは理解できるが、見られるのって意外としんどいものだな精神的に疲れる。


まぁこれも今日と明日だけだ、たった二日間じゃ何も起きないだろ。






とまぁそんな風に盛大にフラグを立ててみたのだが、1日目は何も起きなかった。

問題が起きたのは2日目だ………




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