第65話 増えた仲間

65.増えた仲間









「神薙響って言います、よろしくお願いします」


今現在、新井さんに誘われた親睦会へとクランハウスに来ていて挨拶を一通り済ませたところだ。

増えていたのは4人でひとりは新井さんと同じぐらいの年齢のおじさんで亀井仁志というらしい。クランに入った経緯としては新井さんの知り合いらしくその伝手でとのことだ。奥さんがいて家もあるのでクランハウスへは通う事になるといっていた。実力的にはソロでDランクへ通えるぐらいでクランへはパーティを求めて入ってきたと言っていた。「おじさんになるとねパーティを組むのも難しいんだよ」そういう彼の背中には哀愁が漂っていた。



二人目は社会人の大人の女性、片山美羽さん。高校までは普通の学校へ通い大学から探索者専門学校へと通って今はソロではDランクのダンジョンへ、パーティではCランクのダンジョンへ通えるほどの実力らしい。

クランに入った経緯としては高校自体の女友達と一緒にダンジョンへと通っていたらしいがひとり彼氏ができ、二人目も彼氏が出来と。気づかないうちに自分以外全員に彼氏が出来て女友達は将来の事を考えて探索者は辞めていったらしい。

それで一人になってしまったところ新井さんに声をかけられてクランへと入ったとのことだ。

「どうして私には彼氏が出来ないんでしょうね、へへっへへへ………」と聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で言っていてちょっと病んでいるのでは?と思ったが俺は賢いのでそれ以上声をかけない。

一人でアパートを借りて住んでいたらしくクランハウスへと引っ越すと言っていた。



3人目と4人目は姉弟で、姉の方は山城聖、弟の方は山城陸。二人は丁度大学生になったばかりらしく探索者として本格的に活動するためにクランへと入ったと言っていた。実力的には二人でDランクダンジョンへと通えるほどらしくもうちょっと上を目指したいという事でクランへは支援を求めてやってきた。これからクランハウスへと住む事になると言っていた。

二人は同じような年齢に見えるがどうやら孤児院出身らしく血のつながったほんとの姉弟ではないとのことだ。

孤児の人は昔からそれなりの数がいて増える事も無く減る事も無くそれがずっと続いている。世の中に探索者という職業が増えて命の危険が増える世の中にはなったが特に孤児が増えるという事はなかった。

理由としては色々あるらしいが自然とそうなっているとのことだ、詳しくないので詳細までは知らないが世の中は何となくそういうものだ。


以上4名が新しくクランへと加入したメンバーになる、ここに元からいる新井さんに俺に花井さんに雪白姉妹と合わせて全員で9人のクランになる。


それぞれ自己紹介が終わり今は軽食を食べながら雑談中だ。


「か、神薙君はBランクなんだよね?」


「そうですね」


「凄いね!その歳でBランクだなんて最年少なんじゃない?」


「どうなんでしょう?そういえば気にしたことなかったです」


今話している相手は片山さん、肩より少し長い黒髪に丸眼鏡、猫背気味で華奢に見える。

話して見ると普通にいいお姉さんだと思うんだけど、どうしてか彼氏ができないらしい。


「確か15歳という最年少でAランクになった子がいたはずだよ、特別措置かなんかで特例として探索者になった子がいるって話しを聞いたことがあるよ」


そう話すのは亀井さん、最近の悩みは抜け毛らしく朝起きると枕にびっくりするぐらい毛がついていたことがあるらしい。


「15歳ですか………あぁあのニュースになっていたやつですか?」


「あの生成事件の時の彼女ですか」


「そうそう、彼女だよ」


生成事件とはダンジョンが生成されるときに巻き込まれて遭難した事件の事だ。


ダンジョンは基本的に人がいないところでいつの間にか生成されている、しかしものすごく稀にその生成時に人が近くにいて巻き込まれることがある。

その確率は乗っていた飛行機が落ちるとか、雷に当たるとか、隕石に当たるとかそういうレベルの確率での話で、普通に過ごしていればまず巻き込まれることなんてない。

しかし巻き込まれる人は存在する。


しかもダンジョンは生成時に入口は出来るのだが必ずと言っていいほど生成から24時間は中に入ることが出来ない。何故か透明な壁が出来上がるらしい。

そんなダンジョン生成時に巻き込まれた哀れな15歳の少女、誰もがその生存を諦めたが24時間経ってダンジョンの入り口が開くと中から自ら出てきた。

当然それは大きなニュースになった、今までは巻き込まれた人はほぼ全員死亡していたからだ。

主な理由としては生成時の不安定なダンジョンの中、出てくる敵のランクも不安定、道も不安定、食料も無し、寝る事も出来ずに彷徨う事になりスキル持ちが巻き込まれたとしても死亡率が高いのだ。

そんな中にスキルも持っていない少女が入ってしかも生き延びて出てきたのだそりゃニュースになる。


詳しい事は公表されていないがその少女がAランクになっている事から何かしらのスキルをダンジョン内で手に入れてその力で生き延びたのだろうと言われている。


「あの事件から3年だからね、彼女は18歳になったといっても最年少なのは変わらないだろうね」


「もう3年も経つんですか、時の流れは早いですねぇ」


「そうだね、この歳になると3年なんてあっという間だよ………」


歳をとると1年経つのが早く感じるとは聞くが何歳ぐらいからそう思うんだろう?今のところ俺はまだまだ1年って長い気がするけど。


「あ、そうだ新井さん」


ちょうど会話が途切れた瞬間を狙って新井さんに話しかける。新井さんは別のテーブルで花井さんに雪白姉妹と山城姉弟と話していた。


「ん?なんだい?」


「今回の集まりに装備一式持って来て欲しいって書いてありましたけど、どこかダンジョンへでも行くんですか?」


「あ、それ私も気になってました」


新井さんから親睦会の誘いの連絡が来た時に書いてあった装備一式持って来てねってやつが気になっていたので聞いてみると片山さんも気になっていたのか同じ様に聞く姿勢になった。


「そうだった、それの話しをしないとだね。明日はみんな休みかな?良ければ明日みんなでダンジョンへ行こうかと思ってね、それで一応装備を持って来てって言ったんだ」


明日は………土曜日か、学校も休みだし特に何もないな。


「私は特に何もないですね」


「俺も何もないからいけるよ」


片山さんと俺がそう言うとみんなそれぞれ予定が無いからいけるよと言っていく。


「それはよかった、じゃぁ明日みんなでダンジョンへ行こうか」


「どこのダンジョンに行くつもりなんですか?」


「明日行こうと思っているのは【ガチャ神殿】だね」


【ガチャ神殿】か………






◇  ◇  ◇  ◇






【ガチャ神殿】とは古来より語り継がれている悪しき文化とでも言えばいいか、今でも携帯ゲームや他のゲーム機でも存在しているシステムで………まぁ、説明するまでも無いと思うのでこのダンジョンの説明だけしておくことにするが、所謂このダンジョンで出てくる魔物を倒してドロップするメダルを集めてガチャをひく、そこで初めて売り物になる物が手に入るというダンジョンだ。


しかも質の悪い事にこの【ガチャ神殿】はF~Sの各ランクに対応したダンジョンがそれぞれ一つずつ存在しているので自分のランクが上がって下位のダンジョンだからうまみが無いなぁって事がないのだ。

そのせいと言えばいいのかどのランクの探索者でも【ガチャ神殿】好きは一定数いて結構な人気がある。


俺もそのうち行ってみようかな?とは思っていたけど思っていただけで特に行こうという感じはしていなかったので今まで来たことが無かった。



「【ガチャ神殿】は久しぶりにきたなぁ」


「私達も何度か行ったことがありますがCランクのは初めてです」


「俺は完全に初めてだなぁ」


久しぶりに来たと言っているのは片山さん、彼女は高校生時代に何度が来たことがあるそうだ。Cランクのは初めてと言っているのは山城聖さん、その後ろで弟の陸さんも頷いている。山城姉弟はDランクの方なら行ったことがあるみたいだ。


そして最後に俺、完全に初見だが【ガチャ神殿】の外観は神殿と言われているようにヨーロッパとかそっち系のパルテノン神殿とかそういう感じの造りになっている。


以上4名でCランクの【ガチャ神殿】に来ている。


どうして全員じゃないんだって?クランでのこういったパーティ組んでダンジョンへ行くって言うのは定期的にやりたいそうで今後も機会があるから今回は取り合えずのメンバー分けって感じだ。


新井さん達の方は花井さんがまだソロの場合Dランクでぎりぎりの実力なので安全マージンをとってDランクの方の【ガチャ神殿】へといった。

そんなわけでここに居るのは俺と片山さん山城姉弟の4人だ。


「それじゃぁ行きましょうか」


「はい」


【ガチャ神殿】の大きな入り口へと入っていくと中は役所の受付のように長い一本の机が横に広がっておりそこに職員がそれぞれ座っている。

どうやらここはダンジョンの入り口にそのままダンジョン協会の窓口を設営しているようだ。


「Cランクの【ガチャ神殿】へようこそ、ご利用ですか?」


「はい、4名でお願いします」


「それではこちらの鍵をどうぞ、305号室になります」


「ありがとうございます」


受付は片山さんに任せる、俺は初めてだし山城姉弟よりは片山さんのほうが年上なので自然とそうなった。


ある程度事前知識は調べておいたのだが、ここはパーティ事に個室へと案内されそこから転移装置でダンジョン内へと入っていく事になる。

ダンジョンはパーティ毎に別のインスタンスで分かれており中でかち合うという事が無い、なのになぜ個室に案内されるかというと各個室内にそれぞれ転移装置と【ガチャ神殿】で出たメダルを使ってガチャを引く機械が置いてあるからだ。

後はパーティの人数によって案内される部屋の広さが違うだけ。



「305号室は………あった、ここだ」


エレベーターで3階へと上がり305号室に入っていく。


「今月は装飾品ピックアップかぁそんなに悪くないね」


そう言って見るのは【ガチャ神殿】の本命ともいえるガチャの機械、そこには大きなポップが出ており『今月は装飾品ピックアップ!今なら11連で必ず一つ装飾品が出ます!』と電光掲示板に書いてあるのがホログラムで投影されている。


【ガチャ神殿】では毎月ピックアップされる物が変更されるらしくどうやら今月は装飾品らしい、他には武器だったり防具だったりアイテムだったり素材だったりと色々あるらしい、人気なのになると部屋待ちになるほどの人であふれかえる事もあるそうだ。


「みんな準備はいいかな?装備はちゃんと付けた?」


「はい、大丈夫です」


「こっちもいつでも行けるよ」


一通り確認して装備の点検をしてから転移装置へと乗る。


「それじゃぁしゅっぱーつ!」


「おー」


【ガチャ神殿】か………何かいいの当たるといいなぁ。








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