第37話 【魔鍛冶師】
37.【魔鍛冶師】
「それで、何を作ろうか?」
「う~ん」
またもや強引に連れてこられた工房には俺と神宮寺さんと立花さん、それにいつのまにかいる他の使用人が数人。
そんな中でミスリルで何を作ろうかと言われるがそもそも俺の何かを作るわけじゃないのでまずそこを説明しないといけないがその前に。
「お嬢様、神薙さんは契約を結ばなければ話せないのではないでしょうか?熱中するのは結構ですが手順は守りませんと」
「ん?おぉ!そうだった、え~っとこれだこれだ」
立花さんにそう言われて神宮寺さんが取り出したのは契約書、こういったオーダーメイドなどの物を作ってもらう際にはどうしても個人情報を扱う必要が出てくる。
それは名前や住所だったりお金のやり取りもあるし、それに大事なのは自分にあった物を作るために持っているスキルを開示する必要があるのだ。
自分が持っているスキルを話す事は探索者としては生命線になる、その為こういったときには契約書でガチガチに固めてしまうのだ。
この契約書はただの紙ではない、魔法が掛かっている契約でありもしこの契約内容を破ると最悪命にかかわってくる。
そんな魔法のかかった契約書だから普通は大手の企業しか用意できなかったりするのだがさすがはお嬢様なのかさも当然のように出てきた。
魔法契約書の内容を見てみるがある程度はテンプレ通りだ、その中でも一番重要になってくるのは見聞きした内容を他に話せないという縛りだろう。
これは話す事も書く事も何かしらの独自のサインで知らせる事も全て含まれる。
「私に任せてもらえるならこれにサインしてもらえるか?」
サインする欄を見て見ると神宮寺綾乃の名前と立花カレンの二つの名前があった。
「どうして立花さんの名前も書いてあるんですか?」
「お嬢様は立場上1人にすることが出来ません、なので私も一緒に同席することになります。その為に私の名前も契約書には書いてあるんです」
「なるほど」
まぁ人が増えた所で魔法契約書の場合は関係無い、サインした全員がその魔法に縛られるからだ。
俺的にはこの魔法契約書にサインするのはなんら問題ない、魔法の縛りも特に問題ないしむしろ【魔鍛冶師】に作ってもらえるなんて普通の人なら喉から手が出るほど羨ましい状況だろう。
なのでさらさらっと魔法契約書にサインしていく。
「はい」
俺が魔法契約書にサインすると紙全体が光っていくつもの糸状になりそれぞれサインした3人へと飛んで行く。
そのまま光の糸は俺と神宮寺さんと立花さんに吸い込まれていき消える、これで魔法契約は完了だ。
「よし!それじゃぁ早速どうしたいか聞こうか!」
光がおさまるのをまって神宮寺さんがそう聞いてきた、いつの間にか周りにいた使用人も消えていて工房内にいるのは契約を交わした3人だけになっている。
「作って欲しいのは俺のじゃなくて知り合いの物なんです、お世話になっているのでミスリルでなにか装備を作ってプレゼントしようかと」
【ドワーフの鉱山】に通っていた数日間の間に花井さんとはある程度どんなものがいいか相談しておいた。
メールでのやり取りだったから休憩中とか暇なときにしか連絡できなかったがそれでも作りたい方向性はだいたい決まった。
「ふむふむ」
「プレゼントを送る相手の人は持ち武器が【棒術】で扱うような棒で【召喚】スキルを持っているんです、なのでなにかステータスアップ系の物がいいかなと思っています」
「ほう!」
ステータスアップ系の装備、ネックレスだったり指輪だったり腕輪だったり色々ある、以前に【悲愴の洋館】で手に入れたのもステータスアップ系装備だがその上昇量は低いしダンジョンでドロップする物は必ずしも欲しい物が手に入るとは限らない。
そもそもステータスアップ系の装備はその材質で大体の上昇量が変わってくる。
以前手に入れたのは銀素材だった、その上昇量は上がったかも?ぐらいの気にせいかもしれないレベルでしかあがらない。
それにダンジョンからでる装備は材質もあるがそもそも付与されている上昇量にもばらつきがある。
ある意味でガチャのようでいい物を狙うのもありだがお金とコネがあるならこうやって作ってもらうほうが断然いい。
「それなら、そうだな………【召喚士の腕輪】などはどうだろう?」
「それってどういった装備なんですか?」
「【召喚士の腕輪】まぁ名前の通り【召喚】スキル持ち専用装備なんだが、これは召喚獣との親和性を上げて召喚獣のステータスを全体的にあげる装備になる」
「へぇ、そんな装備があるんですね」
「あぁ、しかもこの装備は使い続けるとどんどん召喚主の魔力に馴染んでいきその親和性が上がっていくという優れものだ。しかもその上昇量は装備者によるから実質上限がない」
「めちゃくちゃ優秀な装備では?」
なにその自分の成長に合わせて育つ装備みたいなのめっちゃいいじゃん!でもそんないい装備なのに何で有名じゃないんだろう?
「そうなんだよ、優秀な装備なんだがそもそも【召喚】スキル持ちが不人気なのとこの装備を作れるの者が【魔鍛冶師】かそれに準ずるスキル持ちじゃないと駄目だからほぼ作られていないんだよな」
「あー、限定的すぎる装備だからって事ですか」
「そう、しかも【召喚士の腕輪】はダンジョンから出ない。作る事でしか存在しえない装備なんだ、似たような装備は出るが性能的には全然違う物になる」
「それって作っちゃうと目立つのでは?」
「見た目はいくらでも変えられるから大丈夫だ」
そうなのか、じゃぁ平気かな?
「それじゃそれを作ってもらえますか?製作費とかどうしましょうか」
「製作費なんていらないよ!今回のはお礼なんだからな!」
そういえばそうだっけ?色々ありすぎて忘れてた。
「それで、作る物が決まったところまではいいんだが。ミスリルがこれじゃぁ足りないんだ」
そういって神宮寺さんが見せてくるのはさっき渡したひと塊のミスリル、たしかにこれだけじゃ足り無さそうか。
「んじゃ追加で出しますね」
「出すってどこから………」
魔法契約書でお互いに縛られているので気にせずスキルを使えるのはある意味でありがたいかもしれない。
そんな風に考えながら【空間庫】にしまっておいたミスリルの塊を全部出していく。
「おぉ!?空間系のスキル持ちか!ってどれだけ出てくるんだ!?」
1つ2つ3つと次々にミスリルの塊を出していく、精製前なので1つ1つが大きい。
「これだけあれば足りますか?」
「足りるどころか多すぎる!他にも何か作ろうか?そうだなぁそういえば頭防具してなかったよな?ミスリルで何か作ろうか」
「頭防具か………まぁ作ってくれるなら構わないけど、どんなの作るつもり?」
「それは完成してからのお楽しみだな!まぁ変なのにはしないから安心してくれ」
そう言われると逆に不安になってくるんだが?まぁいいか頭防具は必要だと思ってたし作ってくれるなら任せよう。
最悪使わないって手もあるし………
「それじゃぁ早速作り始めるぞ!」
黙っていたのを了承と受け取ったのか神宮寺さんはミスリルの塊をいくつも抱えると炉のある方へといって炉に火を入れ始めた。
「神薙さん、お嬢様がご迷惑をおかけして申し訳ありません。ですが出来ればどうか今後もよいお付き合いをしていただけると幸いです」
神宮寺さんが自分の世界へと入ってしまった段階で立花さんがやってきてそうささやいてきた。
「はぁ」
「お嬢様はその立場からあまり外へ出る事が無く今回の出会いは奇跡の様な物でした。あんなに楽しそうなお嬢様は久しく見ていませんでした」
「あんまり外で出ないって、じゃぁこの間のはどうして?」
「あの時はお嬢様がどうしても自分で素材を採る所からやってみたいとおっしゃりまして、お嬢様のお父様も普段お嬢様には我慢をさせてしまっているので今回だけと、それで許可したのです」
「へぇ、そんな話だったんですか」
「はい、それでダンジョン協会へ護衛依頼をしたのですがどうも質の良くない探索者に当たったみたいでして。お嬢様の立場からするともっと質のいいパーティを揃えるべきなのですが突発的な事だったことと依頼をするための理由がいえずあの者達になったのです」
「あれか………」
質のいいパーティを揃える理由か………お嬢様が【魔鍛冶師】だと言えばそれこそ日本で最高のパーティを持ってこれるだろうがその理由を話せずお金持ちのお嬢様の護衛という事でしか頼めなかったという事か。
神宮寺さんが【魔鍛冶師】だってことは日本でもトップのほうならしってそうだが、その伝手から護衛を揃えれなかったんだろうか?とか思うが裏の事なんて俺には実際のところわからない。
あれもこれも想像するしかない。
それにあのおっさん4人組、落とし前はつけたって言っていたが内容は聞きたくもないな。
「あの者達はBランクでも中堅だと言っていたのですがとてもそうは見えませんでした」
あれでBランク中堅だったのか………
そういえば、パーティでのランクと個人でのランクはその意味合いが変わってくるって聞いたな。
パーティでBランクなのか個人でBランクなのか同じランクでもその意味合いは変わってくる。
パーティでBランクの魔物を倒せるのか個人でBランクの魔物を倒せるのか、こういえばその強さの違いがわかりやすいかもしれない。
そんな事を考えるといつの間にかミスリルを熱し終わったのかガンッガンッと叩く音が聞こえてくる。
数キロ、下手したら2桁キロぐらいありそうなほどの見た目重そうなハンマーを神宮寺さんがミスリルの塊に対して打ち付けている。
ずっと不思議だったなぜお嬢様があんなにムキムキなのかの謎が今解けた気がする。そりゃあんな重そうな物振っていたら自然と筋肉がついていくだろう。
振るのにも筋肉が必要そうだしそもそもそのために鍛えているのかもな………
神宮寺さんがハンマーを振るたびに青く幻想的な火花が飛び散る、あれがミスリルの光なのか綺麗だな。
ある程度叩くとまた炉へと突っ込み再び熱する、そして取り出したかと思うとまた叩くその繰り返しだ。
神宮寺さんの体から汗が噴き出てそれが湯気となり立ち昇る、その表情は真剣で彼女がまだ幼いながらも職人であることがわかる。
暫くミスリルを叩いていると次に何か粉みたいな物を振りかけて叩き始めた、するとミスリルの火花がさらに強くなり輝きも増したように見える。
「あれは?」
さっきまで立花さんと話していたが自然と神宮寺さんの姿に見とれて会話が途切れていた、しかしそれも気になった事がでてきたので会話を再開する。
「あれは魔物の骨と薬草を粉末にした物を魔力で混ぜ合わせた物です、お嬢様はスキルの効果で何をどうするかが分かるらしくそのための素材が色々あるんです」
「すごいな………」
俺が覚えるアーツスキルとかは使ってみないとその効果はハッキリとわからないが、職業スキルの場合は何となくわかるって感じかな?
「ん?なんだあれ」
「あれもスキルですね」
神宮寺さんを眺めていると周囲に飛び散っていた青い光が少しずつ彼女にまとわりつきそのまま叩いているミスリルに収束していっている。
その姿はとても幻想的で美しかった。
「綺麗ですね………」
「えぇ」
◇ ◇ ◇ ◇
「よし、出来たぞ!」
1時間か2時間か、長い間ミスリルを叩いていたかと思うと突然そう叫んだ。
「完成したのか?」
「いや形が出来ただけだ、ここから彫金などをしないといけない」
「そうなのか」
「あぁ、取り合えず今日はここまでだ」
「お嬢様夕飯の前に汗を流しましょうか」
「わかった!それじゃぁ先にいってるからな!」
先に行ってるからな………?
「神薙さんもお疲れになったでしょう?よろしければご入浴していってください、それとお食事も是非」
ふむ、まぁ折角だしいただくか。お金持ちの食事っていうのも気になる。
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