閑話 立花カレンの日常 #1
閑話 立花カレンの日常 #1
初めましての方は初めまして、私は立花カレンと申します。
神宮寺家でお嬢様の側仕えとして働いております。
お嬢様、今現在目の前で重さ数キロはありそうなハンマーを振りかぶりその鍛えあげられた筋肉を惜しげもなく見せています。
今のお姿から想像できないかもしれませんが、お嬢様はその昔病弱でその体も細く貧弱で外へ出かける事もほとんどできない程だったのです。
いつもベッドの上で外を眺めるだけだったお嬢様、そんなお嬢様のお相手として選ばれたのが執事長である祖父の孫の私でした。
年齢も丁度良くお嬢様とは幼馴染として、高校生になってからは側仕えとして今も共にいます。
そんなお嬢様の体が弱かった原因の病気。
病名は魔力過多症、物語なのでよく出てくるあれそのまんまの皆様の想像通りだと思います。
一応説明しておきますと、魔力過多症とはダンジョンが出来てから新しくできた病気で名前の通りその体に過度の魔力が取り込まれてしまう病気です。
症状としては魔力の取り込み過ぎによる体の機能不全、とはいっても体がうまく動かせず歩く事ができないぐらいでむしろその体事体は魔力の影響で他の病気をすることもなく怪我をしてもすぐに傷口が塞がるなど病気とついてはいますが死ぬ心配もなく親からすれば安全に子供が育つのでむしろ嬉しいのかもしれません。
しかし本人はそうはいきません、満足に動かせない体というだけで一体どれだけのストレスを抱えてしまうのか。
動かしたくても動かない手、歩きたくても歩けない足。その辛さは想像することもできません。
魔力過多症、この病気を治すのは簡単でそれはスキルを覚える事です。
そもそも取り込んだ魔力を逃す先が無いという事が原因でなる病気なのでスキルを覚え魔力を流す先ができると自然と魔力過多症は治ります。
お嬢様も例にもれず高校1年生の時に神宮寺家当主であるお父様から、私からすればご主人様となる方からスキルオーブをもらい受け無事にスキルを覚え魔力過多症もすぐに治りました。
もっと早くにスキルオーブを上げればいいのに、と思うかもしれませんがスキルというのは覚える物によっては武器となり危険です。
まだ心が未熟で何が原因で暴発するかわからない子供にそんな力は安心して与えられません。
なので国が探索者としての活動ができる高校1年生、15歳になるまでスキルを覚える事を禁止しています。
高校生も十分子供じゃないかと思われるかもしれませんが、気にしたら負けです。今の時代そういうもんなんです。
お嬢様が初めて覚えたスキルは【魔鍛冶師】というユニークスキルでした。
スキルについて詳しくない私達は初めユニークスキルを覚えるなんてよかったねぐらいだったのですが【魔鍛冶師】というスキルを知っていくうちにどんどんとその影響力の恐ろしさを知りました。
一振りするだけで山を切り崩す剣、ありとあらゆる攻撃を防ぐ盾。
まるで漫画やアニメにでてきそうな能力のついた装備を作り出す事のできる摩訶不思議なスキル、それが【魔鍛冶師】というユニークスキルでした。
もちろん普通の鍛冶師の人達もただの装備を作るわけじゃありません、それこそ一振りでビルを倒壊させる剣、トラックに突っ込まれても無事な防具など一般の人からみればアニメや漫画のような能力を持つ装備を作り出すことが出来ます。
しかし【魔鍛冶師】はそういうのを1段も2段も何段も飛ばした先の装備を作り出してしまうのです。
もちろんスキルにはレベルがあり、お嬢様はまだそういった装備を作る事はできませんがいずれはそういった領域に到達してしまう。そういうスキルなのです。
【魔鍛冶師】スキルを覚え魔力過多症という病気も治り、自分の意思で自由に動かせる体を手に入れたお嬢様はそれはもう今までの鬱憤を晴らすかのように動き始めました。
それは私達の想像を遥かに超えて今までのお姿からはとても考えられない程の動きっぷりでした。
まずお嬢様は今まで出来なかったスポーツを一通りしました。長距離走、サッカー、バスケットボールにバレー、バドミントン、卓球、柔道、空手、水泳と。
全てを上げきる事は出来ませんがみんなが知っているスポーツから知らないようなマイナーなスポーツまでできる物は全てしたと言えるでしょう。
幸いな事に?お嬢様のお父様であるお方はそれはもうお嬢様に甘かったので、何でも好きに今まで我慢させた分なのか何でも許しました。
そしてお嬢様はスポーツと同時にせっかくスキルを覚えたのだからといって【魔鍛冶師】スキルを使い始めました。
まず屋敷の裏に一軒家と鍛冶場である工房を建て、それからある程度の知識を現役の鍛冶師の方から教えてもらいその後は独学で【魔鍛冶師】スキルを使い成長していきました。
魔力過多症が治ってから少しづつ体に筋肉などが付き見た目にも健康的な清楚なお嬢様という感じだったのが【魔鍛冶師】スキルを使い肉体を酷使し始めるとむくむくとむきむきといつの間にか筋肉がもりあがり、それにあわせて身長も伸びていき、気が付けば2年が経ち今の身長180を超えて筋肉がむちっとしたお嬢様が誕生してしまいました。
途中で何かおかしいなと気づいてしまってもそれはもう楽しそうに動かれるお嬢様を見ていると中々言い出せず気づけばこうなっていました。
お嬢様のお父様もやはり娘はどんな姿になっても可愛いのか今も変わらず甘いままです。
時々フリルがいっぱいついた可愛らしいお洋服などをプレゼントしていてお嬢様を困らせています。
そんなお嬢様は今現在その【魔鍛冶師】スキルを使いある物を制作しています。
依頼主は私の隣で一緒にお嬢様を眺めている神薙響という男性、私達よりも年下で高校1年生とのことです。
彼は不思議な人です、マイペースでボーっとしていて楽観的なのかお嬢様に振り回されていてもどこか楽しそうです。
お嬢様が助けていただいたお礼のために彼のご予定を直接聞きに行きたいと言ったときは驚きましたがこれも社会経験なのかご当主様の許可が出てしまったので口を出す事はできませんでした。
まぁ予定を聞いてくるだけだし、一緒に何人かメイドも行くだろうから大丈夫かなと思っていたらまさかそのまま連れ帰ってくるとは思いませんでした。
神薙さんにはとても失礼な事をしてしまいましたが、彼はそれでも笑って構わないというだけでした。
そんな彼との出会いは衝撃的だったみたいです、私は気を失っていたので知らないのですが。
ある日お嬢様が次のステップアップのためにミスリルを使った何かを作りたいと言い出しまして、しかもそれを直接採りに行きたいとまで言い出しました。
さすがにこれにはご当主様も難色を示し暫く悩んでいたのですが最終的にはお嬢様が行くことをお許しになりました。
そして誰がお嬢様を護衛するかという話になった時に自然な形で私が一緒にいくことになりました。
もちろん私は幼馴染で側仕えという事も加味されたのでしょうがそれ以上に私もスキルを覚えてある程度の護身術を習っていたことも影響しているでしょう。
神宮寺家に仕えている使用人のほとんどは屋敷で働くのに便利なスキルを覚えていたりします。
【掃除】スキルだったり【料理】スキル【剪定】スキル、【生活魔法】などを使ったりなどいずれも使用人として何かしら役にやつスキルを持っています、しかし屋敷の護衛以外では戦うようなスキルは持っていません。
そんな中私が高校1年生の時、お嬢様と一緒にスキルオーブを貰い覚えたのは【メイドの嗜み】というこれまた不思議なユニークスキルでした。
この【メイドの嗜み】というスキルは不思議な物でだいたい何でもできてしかし何もできない矛盾したスキルなのです。
どういったことなのかというと、このユニークスキルはメイドとして仕える相手がいる場合のみ発動するというものすごく限定的なスキルなのです。
私の場合はお嬢様がいるので【メイドの嗜み】といユニークスキルの発動条件は満たせますが、もしこれが仕える相手のいない人などが覚えた場合死にスキルと呼ばれるのでしょう。
【メイドの嗜み】そのスキル内容は仕える相手がいる場合のみ自身のステータスが大幅に上がりメイドとして必要そうなスキルを大体つかえるという物です。
メイドとして必要そうなスキルとは一体なんなのか、あまりにも大雑把で適当な説明ですがその性能は素晴らしい物でした。
まず【掃除】スキルなどで覚える事のできる【浄化】という汚れを除去するアーツスキルを覚えます。
他には【生活魔法】に【料理】はもちろん【礼儀作法】や【護身術】それにともなった戦闘スキル【格闘】や【捕縛術】など、それにちょっとした空間系のスキルである【アイテムボックス】系の収納スキルも持っています。
みんなが欲しがる【アイテムボックス】系の収納スキル、使えると分かった時にはそれはもう嬉しかったのですが今では少し使うのに躊躇します。
なぜか物を取り出すのにメイド服のスカートの中からしか物が取り出せないのです。
本当に意味不明でこのスキルを作った存在がいるとしたら一回死んだほうがいいかもしれません。
まぁそういうわけで私がお嬢様と一緒にミスリルが採れるダンジョン【ドワーフの鉱山】へと行くことになったのですが、目的のダンジョンはCランクダンジョンでもちろんそれ相応の難易度になっています。
私は【メイドの嗜み】というスキルを手に入れてからスキルを十全に扱うためにそこそこレベルを上げました。
2年間で今はレベル41です。
そこそこのレベルですがやはりお嬢様と2人では危険という事もありダンジョン協会で護衛依頼を出すことになったのですがそれもまた問題になりました。
お嬢様の【魔鍛冶師】というスキルの価値が高すぎて逆に高ランクの冒険者へ依頼を出せないのです。
ご当主様からすればそれこそAランク、もしくはSランクの人に頼みたかったのでしょうがそのランクのパーティとなると受ける依頼は国からのなどの重要な依頼ばかりになってしまいます。
それにもし仮にAランクやSランクのパーティに依頼を出せたとしてもお嬢様の持っているスキルがばれる可能性も十分にあります。
伊達に高ランクなわけではありません、彼らは自分達に有利に働くスキル持ちだとわかれば強引な勧誘もいとわないでしょう。
神宮寺家が裕福でそれなりの繋がりを持っていたとしてもそれでも逆らえない権力という物は存在します。
そういった訳でそれだけのパーティを動かすだけの理由を出すこともできず妥協としてBランクのパーティへと依頼する形になりました。
もちろんBランクパーティも十分高ランクです、一流と言えるでしょう。
しかし【ドワーフの鉱山】へと行く日、依頼を受けてやってきたのはとても有能な探索者には見えない4人組でした。
しかしダンジョン協会がこの人達をBランクと認めたのならそうなのでしょう、仕方なくそのままダンジョンへと進みました。
しかしやはりというか道中もひどかったです、こちらの事など関係なしに進み、ぺちゃくちゃとしゃべりながらさらには戦闘も適当でした。
何となく不穏な雰囲気で嫌な気持ちで何か起こりそうだなと思っているとその予想が当たったのか彼らは不必要な戦闘を起こし、しかも敵が予想以上に多かったのか私達を囮にして逃げたのです。
この際に私は後ろから不意打ちを受け意識を失ってしまいました。
ここからはお嬢様から聞いた話です。
Bランクパーティの4人組は不必要に戦闘を起こし私に不意打ちを仕掛け意識を刈り取り、お嬢様の足枷としました。
お嬢様は意識を失った私を見捨てることが出来ずにその場に残り戦ったそうです。
後から聞きましたがこの時にお嬢様は結構な怪我をしたみたいです。今では完治していますが到底許せません。
私を見捨てる事も出来ず、絶望的状況で戦っていると神薙さんが助けてくれたそうです。
何十体もいた『ドワーフ』を一瞬でなぎ倒しさらには爆発で一気に倒したらしいです。
『ドワーフ』を倒し終わった後にお嬢様は私を背負い神薙さんと一緒にダンジョンを脱出したらしいです。
その後は皆さんご存じの通りお嬢様は神薙さんにお礼をしたいといい、ご予定を聞きに行くといいそのまま連れてきて今に至ります。
ちなみに私達を囮にしたBランクパーティの4人ですがその後きっちりと落とし前をつけさせていただきました。
どう落とし前をつけたかはとても口には出せないので言えませんが、少なくとも彼らはもうまともに生活できないでしょう。という事だけ伝えておきます。
希望していたミスリルを扱う事ができて楽しそうなお嬢様、それを見て何となく楽しそうな神薙さん。
そしてそれを見守る私。
なぜかどことなく落ち着く空間です、こういった瞬間が長く続けばいいと思います。
「よし、出来たぞ!」
神薙さんと時々話しながらも数時間、気が付くとお嬢様がミスリルを使いある程度の形にしていました。
「完成したのか?」
「いや形が出来ただけだ、ここから彫金などをしないといけない」
「そうなのか」
「あぁ、取り合えず今日はここまでだ」
「お嬢様夕飯の前に汗を流しましょうか」
汗を大量に流しながら笑顔で話しているお嬢様、このままだと彫金までいきそうだったのでここで一旦声をかけて先にお風呂と夕飯を提案します。
「わかった!それじゃぁ先にいってるからな!」
お嬢様はそれだけいうと颯爽と工房から出ていきました。
「神薙さんもお疲れになったでしょう?よろしければご入浴していってください、それとお食事も是非」
出ていったお嬢様を見ていた神薙さんへ御一緒にどうですか?と聞くと「折角だしいただきます」とのことでした。
もうしばらくこの楽しい時間が続くみたいです。
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