第36話 お礼
36.お礼
ほぼ拉致同然な感じで連れてこられたのは、いつの時代だよと思うような豪邸。
まず鉄製の大きな門がありそこを抜けると森があり暫く進むと綺麗な庭園が出迎えてくれてその奥にはこれまた大きな屋敷が見えてくる。
ここまで広い敷地と大きな建物をみるともはや家というよりそういうテーマパークとかに見えてくる。
大きな屋敷前に車が止まり、勝手にドアが開く。
降りて見ると外にクラシカルなメイド服の女性がいた、わざわざ開けてくれたみたいだ。
「ありがとうございます」
ドアを開けてくれたお礼を言うと軽くにこっと微笑まれた、可愛い。
「こっちだ!」
メイド服の女性っていいなって思っていると未だに名前も分からないお嬢様に手を引かれ屋敷内へと入っていく、彼女は身長が180ぐらいもあり筋肉もむちっとしているので腕を掴まれると抵抗もできない、そのまま連れて行かれる。
何人もの使用人と思われる人とすれ違いなら少しづつ武装解除されていく、持っていた銃を持っていかれバックを持っていかれ一応で付けていた片手剣も、持っていかれた。
防具は脱がせ方が分からなかったのか、防具だしいいやってなったのかそのまま通されたのは応接室と思われる部屋だ。
部屋の真ん中に大きなテーブルが置いてあり傍には高級そうなソファが並んでいる。窓は縦に長い長方形で上の部分が丸くなっておりそこだけステンドグラスみたいになっている。
先ほど持っていかれた装備なども一緒にこの部屋に運ばれたのか隅のテーブルの上に置かれていた。
取り合えず思ったのは今の時代にこういう部屋があるのかという感想だった。
部屋に入って取り合えずソファに座らされたのでそのまま座る、その前に今まで着ていた防具を解除してネックレスに戻しておく。
「おぉ!それは魔道具か?面白そうだな」
「はぁ、まぁそうかな?」
今まで防具を解除するタイミングがなかったから仕方がないがこうも注目されるとやりづらい。
そうしている間にもお茶の用意がされたりお菓子が届けられたりなど何か準備が進んでいる。
「ん?」
「あ、やべっ」
遠くからどたどたと誰かが走ってくる音がする。
「お嬢様!」
「か、カレン………」
扉をバンっとあけて入ってきたのはこの間救助したメイド服の女性だ、あの時は気を失っておりぐでっとしていてわからなかったが、その眼は勝気で意思の強さがうかがえる。
「また無理やり事を進めたんですね!?ご予定をお聞きするだけといったでしょう!あなたがどうしても自分で伝えたいというから行かせてあげたのに!」
「うっ………ご、ごめんなさい」
「謝る相手が違うでしょう!」
「す、すまない。無理やり連れてきてごめんなさい」
「申し訳ありませんでしたお客様、お嬢様にはきつく指導いたしますのでお許しください」
「あ、はい」
突然の怒涛の流れに完全に置いていかれて口から出た言葉はこれだけだった、ここ数時間でものすごく濃い時間を過ごしている気がするな。
「この後のご予定は平気でしたでしょうか?もしご都合が悪ければ今すぐにでもお送りいたしますが」
「特に予定も無いので大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、それではまずは自己紹介から行きましょうか。私は立花カレンといいます、今回は助けてもらった立場だというのにご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
カレンさんはそう言うと深く頭を下げた。
「確かに驚きはしましたが迷惑だとは思っていないのでそう何度も謝らなくて結構ですよ。俺の名前は神薙響です、よろしくお願いします」
「ありがとうございます、よろしくお願いしますね」
深く下げた頭を上げて笑うカレンさんは先ほどとは違い可愛く美しかった。
「あ、私は神宮寺 綾乃だ。今回は迷惑をかけてすまない」
カレンさんに「ほら、次はお前の番だぞ」という視線をうけたお嬢様が自己紹介をする。
というかさっきから明らかに二人の仲が使用人とその主人って感じではなくどちらかというと友達みたいな感じに見える、何となく関係性が見えてきたな。
そしてお嬢様の名前、神宮寺 綾乃………こういってはなんだが180センチで筋肉むちっとした女性にしては可愛らしい名前だな。
「はい、神薙響です」
「そ、それで今回神薙さんに来てもらった理由なんだが。この間助けてもらったお礼をしたかったんだ」
すこしお互いに沈黙していると神宮寺さんが意を決したように話し始めた。
「お礼ですか。まぁ貰えるなら貰いますけど」
「何がいいだろうか?何か欲しい物があればそれにするが」
「欲しい物ですか」
そう言われても困る、そりゃ欲しい物はいっぱいあるがどこまで要求していいのかとか何も分からない状態では何も言えない。
「そういえば、欲しい物を言う前にあの時どうしてあんな状況だったのか聞いても?」
だいたい想像はつくがどうしてああなったのか気になっていた、欲しい物を考える時間を稼ぐためにも聞いてみよう。
「あれか………本当はあそこには私とカレン以外にも護衛を依頼していた探索者が4人いたんだがあいつら………遠くで勝手に戦闘を始めたかと思えば手に負えないといって逃げてきてな、しかも途中でモンスタートレインも起こしたみたいで、逃げられないと思ったのかカレンを餌にしようとして不意打ちの攻撃をしてきたんだ」
「ひどいですね」
やっぱり大体は想像していた通りだったか、それにしてもひどい話だ。護衛対象を餌にして逃げるなんて、物語などではよくあるシチュエーションだが現実でも起きるとはな。
「あぁ、だが安心してくれ神薙さんに助けてもらった後にきっちりと落とし前はつけたからな!」
きっちりと落とし前の部分でものすごく笑顔になったので怖くてその続きは聞けなかった。
「それで、助けてくれた神薙さんには是非ともお礼をしたいんだ。何がいいだろうか?」
「んー」
考えながらも出されていたお茶を一口飲む、なんだこのお茶ものすごく美味しいな………これが高級品か。
「特にこれといった欲しい物は………あ、そうだそれではミスリルを加工できる職人さんを紹介してくれませんか?」
「ミスリルを加工できる職人?」
丁度いい機会かもと職人の紹介を頼む、新井さんにプレゼントするミスリルを加工する職人だ。
本来なら帰った後で自分で調べて探すつもりだったが。
ミスリルはその性質上加工できる職人は限られる、大手の企業だったり個人でやっている偏屈な人か、そういった通常では頼む事も難しい相手ばかりだ。
俺の場合は大手の所へ持ち込もうと思っていた、一応大手でもそういった一般の人からの依頼を受け付けている所もあるのだ。
その代わり加工代金だったり完成するまでの時間がかかったりするし、オーダーメイドにしたくても細かい所まで要望を出す事は出来なくなるが。ある程度きまった形のならすぐにできるのでそれにするつもりだったのだ。
だけど正直もっとちゃんとした所に依頼できたらなーという気持ちは多少残っていた、なので今回の事は丁度いいかもしれない。
彼女はお金持ちだろうし、俺では本来たどり着けない伝手とか持っていたりするかもしれない。
まぁ無いならないで別の物にするが。
「ミスリルを持っているのか?」
「えぇ、さっきのカバン………あぁありがとうございます」
カバンっと手を彷徨わせた瞬間横からスッとさっき持っていかれたカバンを差し出された。
動きが素早い。
カバンから【ドワーフの鉱山】から採ってきたミスリルの塊を取り出す。
「これを使ってお世話になっている人になにかプレゼントを贈ろうと思ってまして、加工できる職人を探していたんです」
「ふむ、見せてもらえるか?」
「はい、どうぞ」
カバンから取り出したミスリルを神宮寺さんに手渡す、なぜ【空間庫】があるのにカバンにミスリルを入れているのかって?
実は今までも多少の戦利品はカバンに入れて持ち帰ってた、なぜなら毎回戦利品無しで戻っていたら空間系のスキルか収納袋を持っていると思われるかもしれないからだ。
スキルがあると思われると勧誘がひどくなるだろうし、収納袋でも持っているだけで勧誘されるし俺はソロなんだ狙われる可能性だってある。
そういうリスク回避のために一応多少はカバンに何か入ってますよーって感じをかもしだしている。
「なぁ、神薙さん。よければだがこのミスリルの加工を私に任せてはもらえないだろうか?」
「神宮寺さんに?」
「あぁ!こう見えて私は【魔鍛冶師】のスキルを持っているんだ!」
「お嬢様!」
「何だカレン、いいじゃないか」
「ぐっ、少しは危機感を持ってください【魔鍛冶師】スキルはその珍しさだけで襲われる対象になるんですから」
「わかったわかった」
突然自分のスキルを言い出した神宮寺さんにも驚いたがそのスキルにも驚いた。
【魔鍛冶師】と言えば有名なユニークスキルで歴史の教科書にも載っている。
それを持っているだけで人生に勝利したと言えるほどの有用スキルだ。
普通のスキルとは違い、これはいわば職業スキルだ。【料理人】だとか【大工】などのその職業に特化したスキルでそのどれもが持っていればその道で食っていける。
そんな中でも【魔鍛冶師】の需要はすごい。
世界にダンジョンが出来てから探索者という職業ができて、もちろん武器を作る職人も増えた。
刀剣を扱う鍛冶師、しかしどれだけダンジョン素材を使おうがその性能を十全に生かせずにしかしそれでもある程度は戦えるのでそのまま時代は進んでいった。
そんなある時【魔鍛冶師】という特殊なユニークスキルを持った人が現れた。
彼、あるいは彼女はそのスキルを使い、今まで生かしきれていなかった魔物の素材の性能を引き出し作られた武器はそれはもう破格の性能になったみたいだ。
誰もが強い武器が欲しい、それを持つだけで探索が楽になり有利になるからだ。
そんなわけで【魔鍛冶師】が作る装備はどんどんと高値が付きしまいには1つ売るだけで生涯を過ごす資金を稼げるほどになった。
そんな物を作れる人物がいればもちろん必然的に悪い人達に狙われることになる。
誘拐して、言う事を聞かなければ殺して、言う事を聞くなら監禁して奴隷のように扱う。
そういったことが実際に起こった、だから【魔鍛冶師】スキルを持つ者はその存在を徹底的に秘匿されてきた。
たまに【魔鍛冶師】スキル持ちが作ったであろう新作が出来るときがある、そういったときには世界中でその存在を探されるが見つける事は出来なかったという。
それぐらい秘匿されるべきスキルをもった人物が目の前にいる。
「それは俺には言わない方がよかったのでは………」
「私が話したんだからいいんだ!それよりもこのミスリル私に任せてもらえるか!?」
「まぁ出来るならいいんですけど、逆にいいのかな?」
「いいんだよ、私があのダンジョンへいった理由もミスリルが使いたかったからだからな!それに私はこう見えても十分修行を積んでいるからな!」
こう見えても………か、確かに見た目は若いそれこそ俺とそんなに歳が離れていないんじゃないだろうかと思う。
「何歳なんですか?」
「む!女性に年齢を聞くとは仕方のないやつだな!だがこたえよう!私は17歳だ、高校3年生だぞ。ちなみにカレンも同じだ」
「ちょっと、お嬢様!」
「取り合えず私の工房に行こう、こっちだ!」
またしても腕を掴まれて連れて行かれる、さっきまでの反省は何だったのか。何だかもう疲れてきた。
「お嬢様!お客様に失礼ですよ、手を放してあげてください!」
「おおぅ!すまんすまん、じゃぁこっちだ!」
カレンさんに言われて解放されたが神宮寺さんはそのまま歩いていってしまったので慌ててついていく。
暫く歩き屋敷の外へと出る扉に着いたかと思うとそのまま神宮寺さんは外へと出て行ってしまった。
後をついていくと屋敷の裏は庭のようになっておりそこに少し大きめの一軒家って感じの家が建っていた。
横には鍛冶場なのか石造りのしっかりとした建物もある。
「ここが私の工房だ!」
神宮寺さんはそのまま鍛冶場っぽい所へ入っていったのでついて中へと入るとそこは何かの素材とよくわからない道具がいっぱい置いてあった。
炉があるのはわかるがあの大きなベルトのついた丸いやつは何なんだろう?不思議な物がいっぱいある。
「さぁそのミスリルで何を作ろうか!」
そう言って笑顔になる神宮寺さんは今まで見てきたよりも年相応の可愛らし女性に見えた。
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