閑話 新井さんの日常 #1
閑話 新井さんの日常 #1
「ふぁ……ふぅ。おはよう、ムンちゃん」
「きゅ!」
ここは独身用アパートの一室、少し高めの家賃ですがペット可で駅にも近く便利なので住んでいます。
「はい、どうぞ。今日は少しお高めのご飯ですよ、昨日は頑張ってくれましたからね」
「きゅきゅ!」
そう言って置いたのは従魔用にダンジョン協会が発売しているご飯。それをうれしそうに尻尾を振って食べているのは私の召喚獣であるムンちゃん。
本来召喚獣はご飯を食べる必要がなく、召喚主である私の魔力を吸って生きています。ですがやはり見た目は完全に狐なわけでして。ご飯をあげずにほったらかす事も出来ずにこうして毎日ご飯をあげているのです。
幸いな事に本狐?もご飯が美味しいのか喜んで食べてくれているので今のところ問題は起きていません。
私の名前は新井 修二、現在32歳です。去年まで昨今では珍しい生身の営業職として各地を転々としていましたが、勤めていた会社も時代のあおりを受け、ついには全ての業務をオンラインに変えてしまい私のような古い働き方の人間は必要なくなってしまいました。
会社も在宅で出来る営業の仕事はどうか?と言ってはくれていたのですが、この機会にずっとなって見たかった探索者へと思い切って、今年なってみました。
そして初めてなら必ずスキルオーブが貰えるというGランクダンジョンへと赴き手に入れたのが【召喚】のスキルでした。
そうして初めての召喚で私の元へと来てくれたのが今目の前でへそ天をして私に撫でられている狐であるムンちゃんです。
初めて呼び出す召喚獣は人によって変わってくるらしく、私の場合はそれが狐であったという事みたいです。
後から知ったのですが【召喚】スキル持ちは誰かとPTを組むのが難しいみたいでした、最初はそれを知らずダンジョン協会が紹介してくれるPT募集へと応募したのですが。行く先々で「【召喚】スキル持ちはちょっと………」と言われ断れてしまいました。
そうして初めて【召喚】スキルがPTを組むのに向いていないと気づきPT募集への応募はそれっきりです。
それからの私はムンちゃんと二人、出来るだけ人の少ないダンジョンを攻略するようになり今ではEランクダンジョンの【骨骨の洞窟】に挑めるまでになりました………が、私達には早かったのか少し危険な場面が出るようになってしまいました。
その日は今までの事を考えて奥まで行かずに、浅い階層で戦っていたのですが運が悪い事に犬スケルトンが2匹に蝙蝠スケルトンのPTへと当たってしましました。
ムンちゃんは頑張って戦ってくれていましたが、召喚主である私自身の戦闘力が無く決めてに欠けて中々倒せませんでした。
無理やり戦うか逃げるか、迷っている時にそれは聞こえてきました。
「あの!助けはいりますか!?」
「あ、あぁ!助けてくれ!」
突然聞こえてきた声に私は咄嗟に、助けて欲しいと返してしまいました。
ダンジョン内では無駄ないざこざが起きないように出来るだけ探索者同士接触しないのがマナーです。
しかしそれを考えても尚私の現状がまずく見えたのでしょう、彼は一瞬にして私とムンちゃんを助けてくれました。
彼は自分の名前を神薙 響と名乗りました。神薙君はどこかの国の軍隊のような装備をしてその手には銃を持っていて、見る人によってはそれだけで逃げ出したくなるような見た目をしています。
私なんて動きやすい革鎧を着てるぐらいで一般的な探索者の装備でしたからね。
そんな彼と少しお話をしましたが見た目と違い好青年でした。こちらからは何も言ってないのに進んで帰りの護衛をしてくれました。
話しているとどうやら彼も私と一緒でソロの探索者として活動しているようでした。ソロで活動する探索者の多くは私と同じように何かしらソロでいる理由があります、きっと彼も人には言えない何かがあるのでしょう。
私は大人ですからね、察していますよ。
そうして彼と二人と一匹でダンジョンから外へ出てお別れしました。それからという物同じダンジョンへ通っているのですからたまに神薙君と会う事があり、そのたびにお話しをしています。
これってもしかして友達ってやつですかね?
◇ ◇ ◇ ◇
「お帰りなさい新井さん。今日はどうでしたか?」
「花井さんただいまです。はい、これ」
そう言って取り出したのは大量の魔石です。神薙君に助けられたあの日からもっと慎重にダンジョンを攻略するようになり安定して魔物を狩れるようになりました。
毎日毎日【骨骨の洞窟】で活動する事により段々と慣れていき、今では大量の魔石を持ち帰る事ができるようになりました。
「これまたいっぱいですね~。それではここへ入れてくれますか?ムンちゃんはこっちへおいで~?なでなでしてあげるからね~」
「きゅ!」
本来魔石などは自動で計算してくれる機械が受付とは離れた所にあるのですが、ここ【骨骨の洞窟】ダンジョンのあるダンジョン協会支部では来る人が少なすぎてここまで業務を自動化すると受付嬢のする事がないので取ってきた魔石は受付で計算する事になっています。
まぁ受付で計算するって言っても計算するのはその機械ですから結局意味があるのやらないのやら。よくわからないです。
「──さん!聞いてますか!?新井さん!」
「あ、あぁすいません。なんの話でしたっけ?」
「もう!しっかりしてくださいよ?いいですか?今日もおうちへ行って会議しますよ!」
「そんな………連日悪いですよ」
「いいんです!私が好きでやっている事なんですから………それに……こうしないと会う機会が………ゴニョゴニュ」
「何ですか?」
花井さんが俯いて話すので最後の方の言葉がうまく聞き取れませんでした。
「何でもないです!とにかく今日もいきますからね!」
「はい………」
彼女、ダンジョン協会の受付嬢である花井さんは以前に【召喚】スキルの事を悩んでいる時に相談に乗ってもらいそれからという物毎日のように家に来ては探索者としてどう強くなっていくべきかの会議をしています。
ですが私にはわかりますよ、大人ですからね。
花井さん………彼女は重度のもふらーというやつです。家に来るときもここの受付でも常にムンちゃんを撫でていますからね。勘のいい私にははっきりとわかります。
ムンちゃんも花井さんの事が好きなのかとろけるように撫でられています。
◇ ◇ ◇ ◇
「だ~か~らぁ~いいですかぁ~?新井さんは~もっと強くなれるんですよ~!」
「はいはい、分かりましたから。お酒はそれぐらいにしましょうね?」
「何よ!私は酔ってないわよ~!」
場所は変わって夜の遅い時間、私の家で会議という名の宴会をしていました。今日はいつもと比べて沢山お金を稼げましたからね晩御飯は豪華に焼肉にしました。
ムンちゃんはお腹いっぱい食べて眠気が来たのかいつも定位置で丸まって寝ています、可愛いですね。
問題は花井さんです。お酒を出したのが間違いでした………彼女は酔っていないと言っていますたその言動は支離滅裂で体もぐでんぐでんとしていて明らかに酔っています。
たしか彼女は今年で21歳と言っていましたか。まだ若いのにこんな無防備になって危ないですね、起きたら少し説教しなくては。
「はぁ、これは今日も帰せないですね」
花井さんの体を持ち上げていつも使っているベッドへ寝かせます。ついでに寝苦しくないように羽織っていた服を脱がせて楽な恰好にさせます。
「ん~もぅ何ですか~?新井さんのえっち~ふふふっ」
「はいはい、いいですからお水を飲んでください」
酔いがひどくならないように寝る前に冷たいお水を一杯花井さんに飲ませてベッドへと寝かせます。
私は地べたへとお布団を引いて寝ますかね。
◇ ◇ ◇ ◇
「ムンちゃん!」
「きゅ!」
私が声をかけるとムンちゃんは一鳴きして大きな火の玉がボウッと音を立てて飛んで行きます。飛んで行った火の玉は犬スケルトンに当たり周りにいた他の犬スケルトンや蝙蝠スケルトンを纏めて吹き飛ばして倒しました。
私達が【骨骨の洞窟】ダンジョンで魔石を大量に手に入れれるようになった理由がこれです。召喚獣のムンちゃんが魔法を覚えました。
覚えたのは【狐火】というムンちゃん特有の魔法です。
ここで一度ステータスを見てみましょう。
名前:ムンちゃん 種族:妖狐
レベル:12
STR:8
VIT:12
AGI:25
DEX:15
INT:70
MND:65
≪スキル≫
<ユニーク>【狐魔法】Lv1:▽
少し前までステータスが全体的に低かったのですが【狐魔法】のスキルを覚えた途端一気にステータスが伸びました。
そのおかげで犬スケルトンを纏めて倒せるようになりました。
そして覚えたのはムンちゃんだけではないのです。私も強くなりました
名前:新井 修二 年齢:32
レベル:10
STR:5
VIT:7
AGI:12
DEX:20
INT:35
MND:40
≪スキル≫
<上級>【召喚】Lv1:▽
<ユニーク>【癒し手】Lv1:▽
<初級>【棒術】Lv1
実は2つ目のスキルオーブを手に入れてユニークスキルを手に入れたのです。その名も【癒し手】、名前から分かる通り回復魔法系のスキルで手で触れることにより相手の怪我を治し、さらには防御力を上げたりのバフ効果までつける強力なスキルです。
【癒し手】を使ってムンちゃんを強化する事が出来るようになったのです。
後は花井さんの勧めでダンジョン協会の講習で棒術を習いスキルになりました。これで多少なりとも自衛が出来るようになりその分ムンちゃんが魔物の相手をしやすくなりました。
「よくできましたムンちゃん。偉いですよ」
「きゅきゅ!」
犬スケルトンを倒したムンちゃんを持ち上げ撫でまわす。ついでに【癒し手】を使い小さな傷でも治していく。
「今日もボスまで行きましょうね?」
「きゅ!!」
ムンちゃんと二人、こうして私の日常は過ぎていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます