まっすぐな火

晴れ時々雨

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《長期募集》死にたい人、生きていたくない人、一緒に暮らしませんか。こちら1名含め5名ほどで生活したいと考えています。プライバシー確保。最寄り駅まで徒歩15分圏内の戸建て5LDKの事故物件です。業者に確認したところ、年に三回入居者が変わっているそうです。ぜひ一緒に四回目以降になりましょう。


SNSに捨てアカで広告めいた投稿をして六ヶ月が過ぎようとした六月のある日、一件のDMが来た。僕はすぐさま返信した。

『ではまず、現在その物件が空いているか確かめてみましょう』


僕の元にメッセージをよこしたアカウントの主は、若い女性だった。僕らは二人で物件を見に行った。ご夫婦ですか、とは訊かれなかったので言う機会を逃したが、お子さんは、の質問にはいませんと答えた。死を前にした人間はこれしきのことで動揺したりはしない。

「前にもご説明したとおり、こちらは事情により周辺物件の相場よりお安く提供させていただいております」

「今は空いているんですよね」

すると担当者はじっと視線を据え、一拍後に、

「はい」

と答えた。その言葉にある程度の反応を示した僕らの様子から、担当者はさらに声をひそめて言を継ぐ。

「事情をお知りになっておられるお客様だから言うのですが、実は前回からまた御ひと方、《ご退去》された方がいらっしゃいまして。今回はそれまでと違い、当物件が瑕疵評価に落ちたときと同様のことが起きまして」

「人死に、ですか」

「ええ。と申しましても最初は一家心中でしたけど、首吊りで。ですが今回はちょっと、なんというか、後処理に手間をかけなければいけなくなるような、ご存知ないですか」

「なんでしょう」

「……まぁ言っちゃうと、自然な孤独死、らしいんですよねぇ。考えると余計困惑するんですが、引っ越されて数日と経たずリビングでお亡くなりに。それからお知り合いが偶然発見するまで放置状態が続いたものですから、その、腐敗が進んでおりまして、そう、当物件は日当たりの良さが売りのひとつでして、たぶん事切れた時間帯が日中だったんでしょうね。この辺りは雨も少ないですから農作業には向きませんねぇ。それで」

僕はただ呆然と話を聞くだけだった。

「自然死とはいえ、一応不審死でもあるので警察なんかが入りましてね。ちょっとした騒ぎになりまして、まぁ特殊清掃さんなんかが入って2、3日前にようやく売り物として出せるようになったばかりなんです。ですのでこれまで以上に綺麗になりました。なんせ一部は新材に貼り替えたんですから。まぁ元々築年数が若いんですが。何を考えてしまうかというと、やはり入居後からの日数の浅さですかねえ。入居者様はもともとお痩せになっている方でしたけど年齢もお若く、その、死にそうにない、と仰いますか。でもやはり人というのはわからないものです。特殊清掃と言いましたが、ソレだけじゃないんですよ。儀式です。ソレっぽい道具がまぁ至る所に飾りつけてあって、そういう処分やら処理もお願いしたわけです」

「はぁ」

「ではご契約の書類をお持ちしますので少々お待ちください」


「あの店員さん、ちょっと喋りすぎじゃないですか」

駅に向かう道筋で、一緒に来た女性(銀金魚さんというアカウント名だった)はうんざりしていた。

「でも物件は良いところですよ」

事故物件とはいえ、しばらくは結構な家賃を折半しなければならないと覚悟を決めていたが、帰りの電車内で開いたSNSにまた一件のDMが来ていた。ちょくりつ、というアカウントを遡ると10年前に開設しているにも関わらず投稿はゼロだった。


儀式か。

その情熱がとても馬鹿ばかしくて気に入ってしまった。あの家も死にたがっている。違うやり方を思いついた。

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