ぐちゃぐちゃと何とか言う

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

 近江おうみ君から、メールが届く。写真が添付されている。それは、文庫本のかたまりだが、なんともまとまりが感じられない。

「なんだか、ぐちゃぐちゃしているなあ…」

 ひとりごとに、同級生の遥歌はるかさんが反応する。

「なんですか?」

「ほら、これ」

 写真を見せる。

 一番左から順に。

『烏に単は似合わない』

『烏は主を選ばない』

『怠け者数学者の記』

『ボクは算数しか出来なかった』

『フェルマーの最終定理』

『ホワイトラビット』

『イデアの影』

『新樹の言葉』

『地図』


「うーん、犯人は数学好きですね」

「うん」僕は、頷く。「近江君、大学は理学部数学科だから」

「数学? あっ!」

 遥歌さんが、にんまりする。

「謎は全て解けました」

「えっ、ずるい!」

 数学、数学、数学。と言うことは、もしかしなくても、暗号か。暗号と言えば、素数だけど…。たぶん、関係ない。

「はっ、それにしても、数学者はロマンチックな人が多いですね。受験生に、ハートのグラフを書かせてみたり、数式で告白するなり、運命の人と出会える確率がうんぬんと」

「え、ねえ、素数は違うよね?」

「違います」

 うーんと。教室の時計を見上げる。時計は、十二進法…。

「あっ、二進法か! と言うことは、漢字が『1』でカタカナが『0』か! シリーズの切れ目が、数字の切れ目で…」

 本のタイトルの頭を数字に置き換えると、以下のとおり。

 11、10、0、0、0、11

 二進法を十進法になおすと…

 320003

「ん?」

 僕は首を傾げる。

「3と2で『みつ』、0、0、3で『おおみ』なのは、いいとして…。この間の0ってなんだ?」

「月が綺麗ですね」

「えっ、急に告白?」

 とてつもなく嫌そうな顔をされる。遥歌さんは、小さい頃から僕の絵のファンらしいのに…。あっ、涙が。

「『ゼロ』じゃない、『ラブ』か!」

「よくできました」

 超絶やる気のない声と、やけくそな拍手が聞こえた。


 ※近況ノートに、近江君から届いた写真を載せています。

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ぐちゃぐちゃと何とか言う 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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