ぐちゃぐちゃの果てに

温故知新

ぐちゃぐちゃの果てに

 突然ですが、皆さんは『心も体もぐちゃぐちゃになる』という心理状態に陥ったことはありますか?


 私はあります。


 短大を卒業してすぐ入社した会社で陥りました。


 その会社は、携帯販売の代理店を何店舗か持っていたり、コピー機やウォーターサーバーを売っていたりと営業特化の会社でした。


 そのため、社内にいる人達は皆さんは向上心の高い人ばかりで、人見知りで小心者の私とは正反対の人達でした。


 それじゃあ、どうしてそんな会社に入っていたかといえば、単にその会社しか採用を貰えなかったからです。


 あと、コンビニで1年以上アルバイトしていたので、そこで身につけた接客力で食っていけると思ったからです。


 まぁ、そんな奢りは入社して1ヶ月後で打ち砕かれたんですけどね。


 入社した私は、早々に地元からかなり離れた場所の携帯ショップで働くことになりました。


 そんな訳で、人生初の一人暮しを始めたのですが、慣れない土地での慣れない仕事に最初は悪戦苦闘していました。


 特に、仕事の方では何度もミスをしてしまい、その度に上司や先輩方に頭を下げました。


 そんなポンコツな私に対し、上司や先輩方は最初の1ヶ月は優しかったです。


 そう、優しかったのは最初の1ヶ月だったのです。


 実は、私が入社した会社は超がつくほどの実力至上主義の会社で、中途入社だろうが新入社員だろうが、数字を上げればあっという間に役職につけるし、逆に数字を上げられなければ人として扱ってくれません。


 あっ、ここでいう『数字』というのは、ノルマ達成後の営業成績になります。


 でもまぁ、ノルマは達成出来なかった時点で、会社での人権は無くなるんですけど。


 そんな会社に入った私は、最初の1ヶ月はノルマどころではありませんでした。

 何せ、仕事の基本的なことを覚えることでいっぱいいっぱいでしたから。


 そうして入社して2ヶ月後、まともに仕事が覚えられず、ノルマも満足に達成出来ず、会社のお荷物になっていた私はあっという間に孤立無援になっていました。


 ......そうです。ポンコツな私に見切りをつけた先輩方や上司は、私の顔を見るやいなや心底呆れたようなため息をついたり、冷たい目で突き放すようなことを言ったりするようになったのです。


 まぁ、2ヶ月経っても会社のためにまともに成果が上げられない私が悪いんですけどね。


 そりゃあ、仕事のことを聞いただけで上司が出来損ないの私に対して『殺すぞ』と言ったり、その上の上司から『ねぇ、私はあなたに何を期待すれば良いの?』と呆れ顔で言われたりしても仕方ないってわけですよ。


 そんな仕事でもプライベートでも1人ぼっち日々を過ごしていくうちに、私の頭と心がだんだんとぐちゃぐちゃになっていったんです。


『仕事行かなきゃ!』と頭で分かっていても、心と体は『行きたくない!』と拒絶反応を起こしたり、『これ覚えないと怒られる!』と思っている反面、『もうキャパオーバーだよ!』と頭が拒否したりとまぁこんな感じで。


 そんな異常ともとれる自分の状態を知りつつも、上司や先輩方から植え付けられた強迫観念に駆られ、思考と感情をフル活用して仕事をした結果......




 精神疾患に陥りました。




 幸い、私が母に向かって涙ながらに電話した時に、私の異常に気づいた母が『あんた、1回精神科に行けば?』と私に勧めてくれたお陰で、今こうして仕事をしつつ執筆をしているのですが......あの時もし、母が私に声をかけてくれなかったら、きっと私は自らの人生に幕を引いていたかもしれません。


 そうして、精神科の病院に通い始めてから1ヶ月後、私は会社を自主退職しました。


 まぁ、その時に精神科の先生が診断書を出してくれましたし、私自身それを受け取った時に『あぁ、私、あの会社に居ちゃダメなんだ』とようやく理解したのであっさりと辞めることが出来ましたが。


 正直、『早期離職』という形で退職してしまいましたが、私はあの会社を辞めたことを後悔していません。


 そうじゃなきゃ、こうして仕事をしながら物書きなんてしていませんし、この話を読んでいただいている皆さんとも出会っていなかったのですから。


 あれから幾許か年月が経ち、ぐちゃぐちゃになった心と体はをすっかり元通りになりました。


 それでも、あの場所で受けた心の傷は、退職してしばらく経った今でも、私の心の奥深くに強く残っているのですけどね。

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