就活はきっちりしよう

足駆 最人(あしかけ さいと)

本文

昔々、と言いたいところですがそれほど昔ではなく、少々昔のお話です。

山で暮らしていた狸の娘がいました。

狸の娘は人間の世界に憧れていました。

そして大人になった狸は里を飛び出したのです。


狸は東京に出ました。

狸は就職活動を始めました。

けれども、わからないことだらけです。

履歴書?ポートフォリオ?エントリーシート?

里では学ばなかった大量の単語につかれてしまいました。

そんな困っていた狸に、一人の男が手を差し伸べました。


「就職で困ってるのかい?ウチなら簡単に就職できるよ!」


狸はその話に飛びつきました。

書類を提出し、面接に行き、無事に内定を手に入れました。

遂に、狸は人間世界での安定した生活を手に入れたのでした。


狸の朝は早い。

朝の四時に起床して、支度をして家を出ます。

家の掃除は行き届いておらず、もう何日も干してない布団でたった数時間の睡眠をとるのです。

行きの電車でも、少し寝ます。

電車が到着する時にアラームが鳴るようにしています。

一度本気で寝てしまって、怒られてしまったのです。

電車を降りて、現場に向かいます。

「オラァ!遅いぞ!!」

狸は謝って現場に入ります。

狸が就職したのはお化け達の工事現場でした。

少しでも気に食わない事があれば、狸のことを怒鳴ります。

狸は里で、自分達のことを怖がらせてくる存在をお化けや妖怪と教わりました。

だから、彼らのことをお化けや妖怪と思っているのです。


狸は今日も23時まで仕事をして帰ります。

電車の車窓から外をぼんやりと眺めながらこう思いました。

もう里に帰りたい、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

就活はきっちりしよう 足駆 最人(あしかけ さいと) @GOmadanGO_BIG

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る