混ざった色の創るものは

蒼雪 玲楓

その目に映る色は

『むかしむかし、あるところに悪い魔女がいました。


 その魔女は世界を壊してしまおうとしていたのです。


 魔女は世界を憎んでいたのです。


 様々な種族が暮らすこの世界を見て、魔女はいつもこう言うのです。


「ああ、この世界はなんて醜いんだ!黒い、黒い、どす黒い色に染まりきっている!だから、私が一度壊して真っ白にしてしまおう!」


 魔女はその言葉の通り、世界を滅ぼし始めました。


 最初は魔女の住み処の近くにあった小さな村が、その次はその近くの小さな町が襲われました。


 その被害は段々と大きくなっていきます。


 魔女を恐れた国々は勇者に魔女を倒すようにお願いしました。


 そして、勇者は魔女と長い時間をかけて戦いました。


 魔女を倒した勇者は王様たちにお願いをしたのでした。


「次のあの魔女になる者が現れないよう世界中に、そして後世に伝えてほしい。この世界は美しいのだと」

 』




「はい、おしまい」


 子供たちに囲まれながら絵本を読んでいた少女がその本をパタン、と閉じる。


「他のお話読んでよー」

「何回も聞いたから覚えてるよー」

「おねえちゃんはなんでこれ読むのー?」


 質問の返答に悩むのか、子供たちに囲まれながら少女は苦笑いを浮かべる。


「んー……この世界には色んな色があって、それはとてもなん綺麗だよって知っておいてほしいから、かな?」

「難しいよー」

「どういうことー?」

「それじゃあ……君の家系はどんな魔法が使えるかな?」

「うちは水の系統だよ!」

「じゃあ次、君は?」

「火!かっこいいでしょ!!」

「じゃあ、あなたは?」

「水系統だけど、氷よ」


 次、また次と少女は子供たちに質問を繰り返していく。

 そうして全員分の答えを聞き終わったところで、あらためて全員の顔を見渡してから言葉を続ける。


「今答えてもらったことからわかると思うけど、皆が使える魔法は系統が似ていることがあっても同じものはありません。そして……」


 少女は人差し指をたてると、その先に小さな白い光を灯す。

 この世界の住人で魔法の基礎ができているものならば誰もができる自らの魔力の可視化だ。


「この魔力の色は全く同じ色は存在しません。皆がこれをできるようになればこんな風にそれぞれ違う色が見れます」


 少女の指先に灯る光は白から赤、青、緑と様々な色に変化していく。


「すごーい!」

「おねえちゃんの魔力は色が変わるのー?」

「あはは。皆も親御さんに聞いてるかもしれないけど魔力の色はそれぞれの家系で遺伝する魔法の力を受けて決まるから変わらないよ。私のこれは魔法で見た目を変えて見せてるだけ」

「そのうち俺にもできる!?」

「んー、どうかな?鍛えればできるかも?」

「よし、俺頑張る!!」

「僕も!」

「皆期待してるからねー。……っと、そろそろいい時間だね。お菓子持ってちゃんと帰るんだよ」


 はーい、という声が響き渡りぞろぞろと子供たちが帰っていく。

 そうして誰もいなくなったのを見届けて少女は呟く。


「あの物語には話してない真実があるんだけどね」


 少女は終わりまで読み終わった本の最後のページを開き、そこには書かれていないものをまるで知っているかのように言葉を紡ぐ。



『悪い魔女には周りのすべての人や生き物に色が付いて見えていたのでした。


 赤や緑、青に黄色。最初はその色に見とれいてた魔女も徐々に疲れていきます。


 どんな綺麗な色も、ぐちゃぐちゃに混ざれば黒になってしまうからです。


 世界を滅ぼせばその真っ黒な景色を見なくてもいいかもしれないと考えたからこそ魔女はあんなことをしたのでした。


 勇者は戦いの中でそのことに気がついたからこそ、次の魔女を生まないように王様たちにお願いをしたのでした。』



「まさか私の前世夢で見たものがこの物語の魔女そのままだなんて、気づいたときは驚いたよね。皆にも他の人の魔力の光が常に見えてるものだと思ってたし……ほんと、それが周りにばれる前にこの本読めてよかったよ」


 少女は今開いていた本をしまうと、表紙も中身もすべてが真っ白な本を取り出す。


「今はまだ綺麗な次代の魔女の物語の行く先は彩られた未来か、真っ黒な絶望か。どうぞお楽しみに……なんてね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

混ざった色の創るものは 蒼雪 玲楓 @_Yuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ