ぐちゃぐちゃになったそれは…

「二つの影が逃げて行きます! 追跡しますか?」

「いや傷を負ったとしても、何も無い暗闇だと我々『白金族』より『玄武族』の方が有利だ」

「外に連絡して工場を包囲し、明るくなるまで待とう」

「どうせ外へは出られない、朝になったら突入しよう」

「我々はここで待機して、二人の動きを警戒するのだ」

 小隊長は命令した。

「了解しました!」

 隊員達は答えた。



 傷を負ったマヤを、レンは抱きかかえて持ち場へ戻ってきた。

 マヤの胸からは金色の血が流れ出ていて、白い体は増々白くなっていった。

「マヤ、気をしっかり持つんだ!」

「レ… レン、私もう… だめみたい…」

「最後に強く抱いて… そ… そして、熱いキスを……」

 息も絶え絶えにマヤは答えた。

 レンはマヤの体をしっかりと抱き、キスをした。

 二人の体は『虹色』に光ったが、マヤの光は弱かった。


 暗闇の中で『虹色』の光が消え、青白い光だけが残った……


「マヤ、マヤ……」

「何時になったら、『玄武族』と『白金族』はお互いに信頼して愛し合う事が出来る様になるのだろう……」

「みんながお互いに通じ合えば『虹』が出ると知れば、もっと世界が良くなるのに……」

「ボク達二人が生み出した『虹』を見せれば、信じ合うきっかけになったはずなのに……」

「結局、相手に対する差別や憎悪がボク達二人を切り裂いた……」


「ボクとマヤが別々に埋葬されるのは、いやだ!」

「これからボクとマヤは一つの資材になって、この世界を最後まで見届けよう」

「『玄武族』と『白金族』がお互いに、信じ合い愛し合う世界になる事を祈って……」



 レンはマヤを抱いたまま粉砕機の中へ消えた。

 二人が入った粉砕機は音をたてて稼働し、やがて止まった……



 明るくなって工場へ突入した警官隊から、「金色の血痕があった」との報告が有り、市長は慌てて工場へ向かった。

 現場の廊下から点々と金色の血痕がレンの持ち場へと続いていた。


「なぜ娘を撃った!」

「しかも、なぜ朝までそのまま放っておいたのだ!」

 市長は怒りながら小隊長に問いただした。

「白と黒の人影があって、白い方がマヤお嬢様と思いまして……」

「馬鹿な! 『玄武族』が暗闇の中で光る事を知らんのか!」

「はい、『玄武族』は暗闇では能力が増すとしか知りませんでした」

「『玄武族』の男が負傷したと思い、無駄な争いを避ける為に朝まで待機していました」

「解った…… ともかく娘の容体が心配だ」

 市長達はレンの持ち場へ向かう。

 持ち場には二人の姿は無く、血痕は粉砕機の中へと続いていた……


「マヤ! マヤ! おお、何て事だ……」

 市長は粉砕機の前で泣き崩れた。その後、怒りの表情で立ち上がった。

「全ての原因は、あの『玄武族』の男せいだ!」

「やはり、前市長の政策通りに『玄武族』を根絶やしにしないと!」

「こんな悲劇を繰り返さない為にも!」

 市長の怒りは頂点に達していた。


「市長、こちらへ来て下さい!」

 警官隊が市長を呼ぶ。

 市長は粉砕機の地下にある分離室へ向かった。


「…⁉ こ、これは……」


 分離室の廃液プールには『虹色』の液体が溜まっていた。

 隣りの砂溜まりには『虹色』の砂が積もっていた。

 二つの『虹』を見た市長は、怒りを忘れ涙を流しながら語りだした。

「おお、二人は『虹』を生みだす程に信じ合い愛し合っていたのか」

「わたしが正直に『彩虹伝説』を二人に伝えていれば……」

「『彩虹族』が現れる切っ掛けを二人が与えてくれたはずなのに」

「もう既に、この世界に『彩虹族』が出現する時期が来ていたのだ」

「マヤ、マヤ、わたしが悪かった」

「『白金族』の地位を守る為に、『彩虹伝説』を秘密にしていたわたしを……」

「許しておくれ、マヤ!」

 市長は廃液プールの前で泣きながら土下座していた。


 時間が来たので、自動的に廃液プールの液体は川へ流れていった。

 川へ出た液体は、かってレンが住んでいたスラム街跡に至った。



 ぐちゃぐちゃになった二人の体は、美しい『虹』のような液体になってスラム街跡を流れていった。



 レンが見て生きる気力を生みだした、あの時の『虹』を水面に映した様であった……

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