暗闇の中の『虹』

 マヤが起きた時、辺りは漆黒の闇が覆っていた。しかし、ゴミの中は薄っすらと明るかった。

「レン、灯りを点けたの?」

 マヤはレンの方に振り向く。そこには体が青白く光るレンの姿があった。


「マヤ、びっくりしたかい?」

「これが『玄武族』の本当の姿なんだ」

「『玄武族』は暗闇になると体が光り出し、本来の力が発揮できるのさ」

「でも、寮に居る時は光って無かったわ、どうして?」 


「太陽の光と、蠟燭や電球などの人工の光が少しでも有ると駄目なんだ」

「この工場は古くて常夜灯が設置されて無いんだ、夜間は無人になるし」

「『建物の各部屋や廊下には、必ず常夜灯を設置する事』この法律は『白金族』が『玄武族』を抑え込む為に作った法律なんだ」

「それと、街中に建ってる街灯も」

「私は夜目が悪い『白金族』の為だと思っていたわ」

「それも有るけど、『白金族』は『玄武族』の反乱を常に恐れていたのさ」

「暗闇の中だと昼間の倍以上の体力や能力を発揮する『玄武族』を」


「昔、死んだお祖母ちゃんに聞いた話だけど……」

 レンは話を始めた。


 太古の昔、この世界の人間は一種族だけだった。

 ある時期にこの世界が『昼間だけの土地』と『夜だけの土地』に別れてしまった。

 二つの土地の境界には常に嵐が吹き荒れて、人々の往来が不可能になった。


 長い年月を経て、それぞれの土地で暮していた人間は環境に適応した。

『昼間だけの土地』の人間は『白金族』に、

『夜だけの土地』の人間は『玄武族』へと変化した。


 やがて二つの土地は『昼と夜を繰り返す世界』に再び戻り、境界の嵐は消え去っていた。

 二つの種族はお互いの土地に入り交流していった。

 始めは対等に暮らしていたが、文明が発達して『人工の光』を発明した『白金族』が『玄武族』を支配する様になった。


「…… お祖母ちゃんがいつも言っていたよ」

「【『玄武族』と『白金族』が心から信じ合い愛し合えば『虹』が生まれる】」

「【『虹』が生まれれば世界が良くなる】って」

「『虹』の意味はよく解らないけど……」


「ボクは市長やマヤのお陰で『白金族』の人を信じられる様になったよ」

「今の市長は変わったと思うけど……」

「ボクもマヤが好きだ!」

「このままマヤと一緒に暮して行きたい!」

「二人であの『虹の絵』みたいな『虹』を作ろう!」

「レン、私の言葉を聞いていたのね」

「ごめん、寝たふりをしていた……」

「もう!」

 マヤは怒る素振りをする。


「もう少し明るくするね」

 レンは照れ隠しにそう言って、服を脱ぎ上半身裸になった。

 光る体の面積が増えたので、辺りが一層明るくなった。

 マヤはレンの姿に見惚れていた。

 青白く光る体。

 肉体労働で鍛えて引き締まった筋肉。

 子供の頃の迫害で出来た多数の傷跡。

 そのどれもが愛おしくなっていた。

「レン、美しいわ!」

「この世界のどんな人よりも、レンが一番美しい」

「私の……」

 マヤが言いかけた時、マヤの体が金色に輝きだした。

「凄いよマヤ! マヤの方が世界中で一番美しいよ!」

「レン、私の全てを受け止めて!」

 マヤが叫ぶ。

「マヤ! ボクと一つになろう!」

 レンが答える。


 二人は共に一糸纏わぬ姿になって、お互いを見つめ合った。

『青白い光』と『金色の光』は相手の光に反応するかの様に光が増していった。

 二つの光はやがて、一つに重なった。

 唇と唇、手と手、胸と胸、足と足、体と体……

 交わった二つの光は、『虹色』に輝きだした。


「マヤ、苦しくないかい?」

「ええ大丈夫、このまま私を引き寄せて……」

「マヤ、見てごらん、『虹』が見えるよ!」

「暗闇の中なのに、『虹』が!」

「本当だ、美しいわ!」

「私達二人で作った『虹』ね……」


「もっと強く! レン! もっと強く!」

「全てを忘れる程に、強く抱いて!」

 マヤは嬌声を上げる。

「マヤ! マヤ! ボクはもう……」

 レンの動きが激しくなる。


 漆黒の闇の中でゴミの山の光が、『虹色』に増々輝いた後に消えた。

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