逃避行

 外へ出たマヤとレンの二人は、工場の敷地から出る為に周辺を彷徨していた。しかしどこへ行っても警官隊が居て周囲を捜索していた。

「だめだわ、ここにも警官隊が居るわ」

「暗くなるまで、どこかに隠れましょう」

 マヤは言った。

「では、工場の中に入ろう、この時間なら中に人は居ないはずだから」

 レンが答えた。


「でも、工場の入口には警官隊が居るはず……」

「まかせて! 秘密の裏口が有るから!」

「始業時間に遅刻しそうな時は、そこから入って持ち場に就いていたんだ」

「工場のほとんどの人は知らないから、大丈夫!」

「ボクの持ち場なら誰も入って来ないから、そこで隠れよう」

「解ったわ、行きましょう!」


 二人は警官隊に見付からない様に遠巻きに離れて工場の建物へ向かった。

 二人が工場の裏手に着くと、レンはとある場所の壁板を叩いた。すると、叩いた壁板の隣の壁板が開いた。二人はそこから工場内へ入った。

 中に入ると廊下で、レンの持ち場のすぐ近くであった。


「あの場所から入口へ向かうとかなり時間が掛かるので、遅刻の時はこっから入っていたんだ」

 レンは話しながら開いていた壁板を元に戻した。戻した壁板はどこが開くのか一目では解らなくなっていた。

「さあ、こっちがボクの持ち場だよ」

 レンは持ち場の入口のドアを持っていた鍵で開けて入った。

 マヤもそれに続く。二人が入るとドアを閉め鍵を掛けた。


「これで暫らくは安全だよ、追手はボク達が既に工場内に居るとは思っては無いだろうから…」

「この部屋に他の人は入って来ないの?」

「持ち場の鍵は担当の人しか持って無いから、就業中に他の人は入って来ないよ」

「スペアキーは警備室にあるから警備の人がドアを開けて覗く可能性は有るけど……」

「念の為に、暗くなるまではゴミの中へ隠れていようよ」

「解ったわ!」

 二人はゴミの山に穴を空けて潜り込んだ。


 落ち着いたせいなのか、二人の腹の虫が同時に「グゥ~」と鳴った。

 二人は向かい合ってクスクスと笑い合う。

「マヤ、食事はどうする?」

「ゴミの中を探せば食べられる物は見付かると思うけど……」

「レン、ここに有るわ」

 マヤは持っていた手提げ袋を差し出す。中には食料と飲料が入っていた。

「セバスが別れる時に渡してくれたの」

「さすがセバスだ、頼りになるなぁ!」

「でも、セバスは今頃……」

 マヤが悲しそうな顔をした。レンが明るい声でいった。

「とにかく! セバスの恩に報いる為にも、ボク達は逃げ続けなければいけないよ!」

「そうね、逃げ続ける為にも食事を取らなきゃね!」

 マヤも明るい声で答えた。


 二人は食事をした後、ゴミの中で横になった。

「マヤ、匂いは大丈夫かい?」

「レンと一緒なら、気にならないわ」


「マヤ、ごめんね」

「ボクと一緒に居たせいで、こんな事になって……」

「あの時、ボクの事を気にしないで市長の所へ帰れば良かったのに」

「ボクは最高の『虹の絵』と『マヤの絵』が完成したから、この世には何も思い残す事が無いよ」

「もしもの時は、ボクを棄てて家族の元へ戻ってね」

「死ぬのはボクだけで良いから……」

「苦労を掛けて本当にごめん、マヤ……」



「そんな、謝る必要は無いわ!」

「私は自分の行いに何も後悔はしていない」

「レンは私にとって大切な人だわ」

「これは同情や憐みの意味では無いの」

「私はレンの事が…  ダイスキナノ... 」

 マヤの声が小さくなる。


「ともかく! 私はレンと一緒に居たいの!」

「どんな苦労が有っても、レンとなら平気よ!」

「レンは大切な人だから、どこまでも付いて行くわ!」

 顔が色付いたマヤは、思い切って声を張った。

「ねぇレン! 良いでしょ?」

 マヤが問いかける。

 当のレンは寝息を立てて眠っていた。

「もう! レンッたら!」

 マヤは頬を膨らまして、レンと反対方向に向いて横になり眠り始めた。

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