『彩虹伝説』

 警官隊は全員外への捜索に向かった。

 一人残った市長は、布が被さったマヤの絵と壁に掛かっていた『虹』の絵を交互に観ながら考えていた。


「わたしが『玄武族』の救済の為に市長選挙に立候補を思い立った時」

「前市長が何故『優生的人種隔離政策』と言う酷い政策を考え付いたのか解らなかった」

「そこで前市長の行いを精査するべく、様々な記録や資料を調べてみた」

「その中で『歴代の市長だけが閲覧出来る伝説の書物』が原因だと解った」

「わたしは市長になる為に役人や企業と結託して、前市長に汚職事件を捏造して失脚させた」

「捏造も『玄武族』を助ける為の方便で、恥ずべき事では無いと思っていた」


「市長に当選して『彩虹伝説』と言う名の『伝説の書物』を閲覧した」

「そこには、この世界の歴史の秘密が書いてあった」

「二つの種族のそれぞれの長所と短所」

「なぜ人間が『白金族』と『玄武族』に別れたのか」

「我々『白金族』が勢力争いに勝利した理由」

「伝説の最後には驚くべき予言が書いてあった……」


【『白金族』と『玄武族』が心から一つになった時】

【新たなる種族『彩虹族』が現れるであろう】

【『彩虹族』はこの世界の全ての人々の上に立ち】

【希望の時代へ人々を導くであろう】


「これで、前市長が酷い政策を立案した理由も解った」

「前市長は、我々『白金族』の地位を脅かす『彩虹族』の出現を恐れていたのだ」

「過去の記録によると、罪人を使って『白金族』と『玄武族』の間で性交実験を行ったが、産まれた子供はどちらかの種族の特徴しか持って無かった」

「二つの種族がお互いに信じ合い愛し合った時にのみ、新たな種族が生まれる可能性が有るのだ」

「前市長は『白金族』と『玄武族』の接触を断つ為に、『優生的人種隔離政策』を行ったのだ」

「出来れば『玄武族』を根絶やしにするつもりだったのかもしれない」


「わたしは純粋に『玄武族』の救済の為に裏工作をして市長になった」

「しかし、『彩虹伝説』を知ってしまった今、わたし自身の政策も修正しなければならなくなった」

「必要以上に『白金族』と『玄武族』は触れ合ってはいけないのだ」

「わたしは、『白金族』と『玄武族』の対等な関係を築く事を放棄した」

「単純に『玄武族』の地位や生活水準の向上を行い、『玄武族』内の生活圏を活性化して『白金族』に興味が湧かない様に仕向けた」


「娘のマヤも『玄武族』救済の政策に賛同して、積極的に協力してくれた」

「『玄武族』のレンに興味を持ったのも、ただの憐みや同情だと思い黙認していた」

「しかし、マヤはレンに憐み以上の感情を持ってしまったのだ」

「わたしは誕生日パーティーの時にわざとレンに冷い態度を取った、マヤを諦めさせる為にだ」

「マヤには遠い都市の男との縁談を持ってきてレンを忘れさせようとした」

「それなのに、マヤはレンの所へ……」


「今はまだ『彩虹伝説』は秘密にしなければならない、時期尚早なのだ」

「何時の日にか『白金族』と『玄武族』が本当に信じ合う時が来るまでは待つべきなのだ」

「秘密を守る為に、娘のマヤと『玄武族』のレンの仲は引き裂かなければいけないのだ!」

「間違いが起こる前に……」



 突然、部屋の入口に外へ出たはずの警官隊が戻って来た。

「市長! 寮の玄関に大男が立ちはだかって、我々が外へ出るのを妨害しています!」

「どうすれば良いのですか?」


「セバスだな、余計な事を……」

「武器を使って実力行使をしても構わん!」

「何としてでも、外へ出て娘を探し出すのだ!」

 市長は非情な決断をした。


 警官隊とセバスの争いの結果、セバスは多数の警棒に打ち据えられて手足を広げ立ったまま気を失っていた。

 手足の隙間を潜り抜けて警官隊は外へ飛び出していった。


 市長は失神しているセバスの顔に手を当てて優しい声で言った。

「すまない、セバス……」

「これも我々の未来の為なんだ、『彩虹伝説』の秘密を守る為なのだ」

「許しておくれ、セバス……」

 市長の目には涙が光っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る