再びマヤを描くレン

「ところで、こんな時間にお屋敷を出ていて大丈夫なの?」

 レンが尋ねる。涙を拭いて落ち着いたマヤが答える。

「お父様とお母様は遠い都市に親善訪問へ行って、七日間は帰って来ないわ」

「私も行く予定だったけど、体の具合が悪い事にしてお屋敷に残ったの」

「お屋敷の人達はセバスのお陰で、みんな私に協力的ですわ」

「お父様が帰って来る六日後までにお屋敷に戻れば大丈夫ですの!」


 一息ついたマヤは真剣な表情でレンに向かって話し出した。

「レンもう一度、私の絵を描いて欲しいの!」

「ちゃんとした絵の具が有れば、レンの才能ならきっと素晴らしい絵になると思うの」

「そこの『虹の絵』みたいに……」

 マヤは壁に飾ってある『虹の絵』を指さした。


「とても素晴らしく美しい絵ですわ!」

「この『虹』を見て、生きる気力が湧いて出たのも解かりますわ」

「やっぱり、レンには絵の才能があるわ!」

「だから、もう一度……」

 マヤは着ていた衣服を脱ぎ始めて、一糸まとわず白く美しい裸体になった。


「マヤ! 止めるんだ!」

 レンは目を瞑って叫ぶ。マヤはゆっくりと語り出す。

「お父様が遠い都市へ行った目的は、私の結婚相手を連れてくる為なの…」

「私はお父様が帰って来たら、遠い都市の市長の息子と政略結婚する予定なの」

「お父様の地位と野望の為に、私は知らない男の花嫁になるの」

「だから、私の純粋な姿を描いてもらうには今しか無いの!」

「お願いレン! もう一度、私を描いて!」

 マヤは涙声で叫んだ。


 話を聞いたレンは力強く答えた。

「解ったよマヤ! ボクは全力を尽して素晴らしいマヤの絵を描くよ!」

「観た人全てが声を失う位に美しいマヤの絵を描いてみせる!」

「マヤ、ボクの絵が完成する為に協力して下さい!」

「いいわ! 協力する!」

 二人はがっしりと手を握り合った。

「マヤ… とりあえず服を着て下さい……」

 レンは黒澄んだ表情で言った。

「あら、ごめんなさいね……」

 マヤは恥ずかしそうに慌てて服を着始めた。




 翌日からレンはマヤを描き始めた。

 職場には体調不良を理由に五日間の休職届を出した。

 出勤して寮に誰も居なくなった時に、マヤはセバスと一緒にお屋敷に帰って入浴や化粧などの準備をした。レンはその間に街へ出て、沢山の食料や絵の道具を買い足した。寮に人が帰って来る前にマヤは戻って来た。

 それからの二人は一歩も外へ出ずに絵を描いていた。

 レンは一心不乱にマヤの絵を描いた。レンは時々マヤへ注文を出した、マヤはその注文に全身全霊で答えていた。


 誰も居ない昼間の時間にマヤは寮の風呂に入り、仮眠を取る。みんなが寝静まった頃に締め切った室内で絵を描く。セバスは毎日寮に訪れてマヤの衣服を交換して食料を差し入れる。

 五日目の朝にマヤの絵は完成した。

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