五日目の朝

 絵が完成した安堵と疲れで眠っていた二人を、部屋のドアが大きな音を立てて起こした。市長が警察を伴ってやって来たのだ。


「マヤ! 早く出てくるんだ!」

「出発前の様子がおかしかったので一日早く帰ってみれば、こんな汚い『玄武族』の部屋に入り浸っていたとは!」

「花婿様に何て申し訳すれば良いのだ……」

「まだ間に合うから、素直に出てくるのだ!」


「おい! レン! こんな事をして無事に済むと思っているのか!」

「今素直にドアを開ければ、今までの事は不問にしてやろう」

「もし抵抗するのなら、命の保証は無いからな!」

 市長は叫び続ける。


 マヤはレンに向かって話す。

「こうなったら、私はレンと何処までも一緒に行きます!」

「もし離れたら、レンは殺されてしまうでしょう」

「私は、会っても無い人の花嫁になるのはイヤ!」

「花嫁になるなら、好きになった……」

 マヤの声が小さくなる。

「何て言ったの?」

 レンが聞き返す。

「何でもないわ! ともかくここから逃げましょう!」

 マヤの顔は黄色く色づいていた。

「解った! マヤと一緒なら何処へでも行くよ!」 

 レンも肯いた。


 マヤは部屋の窓を開けて大声で叫んだ。

「セバス! セバス! わたし達二人を助けて欲しいの!」

「はい! お嬢様!」

 セバスは返事をして、窓の下で大きく腕を広げて立っていた。

「わたしが受け止めます! 飛び降りて下さい!」

 マヤは躊躇なく三階の窓から飛び降りた。

 セバスの大きな体と腕がマヤの身体をがっしりと受け止めた。

「さあ! レン様も!」

 セバスが呼びかける。レンも覚悟を決めて飛び降りる。

 部屋のドアが破かれる寸前であった。


「レン! 大丈夫?」

「ああ、マヤは?」

「私は大丈夫!」

 外へ出た二人は無事を確かめ合う。

「お嬢様! 追手はわたしが食い止めるので、一刻も早く逃げて下さい!」

 セバスが大きな胸を叩いて頷く。

「ありがとう! セバス!」

 二人はお礼を言って走り出した。

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