真夜中の訪問者

 ある日の深夜、レンの部屋のドアにノックの音がした。レンがドアを開けると、そこにはマヤが立っていた。慌ててレンはマヤを引き入れて、ドアを閉めて鍵をかけた。


「寮の他の人に見付からなかったのかい?」

「大丈夫よ! 静かに、ゆっくりと歩いて来たから!」

「ここまで、どうやって来たの?」

「セバスが車で送ってくれたのよ」

「レンも知っている通り、セバスは私達の味方よ」

「知ってはいたけれど……」


 レンはマヤを椅子に座る様に勧た後に台所に立ち、インスタントコーヒーを淹れてマヤに差し出す。


「お口に合いますかどうか」

「大丈夫よ! こう言うチープな味も好みですわ」

「あらっ、ごめんなさいね! 失礼な事を言って……」

 マヤはペロリと舌を出す。


 コーヒーを飲んで落ち着いたマヤは話し出した。

「誕生日パーティーでの出来事は、後からセバスに聞いて知ったわ」

「お父様がレンに行った失礼な振る舞いも……」

「あの絵の具セットは私がレンの為に用意した物なの」

「パーティーの時にお礼の意味で渡そうとしていたの」

「私の絵を描いた時、レンの持っていた絵の具は余りにも貧弱だったわ」

「少ない絵の具のせいで、十分な絵を描けなかった事も、私知っていたの」

「それをお父様は勝手に持ち出して、手切れ金と一緒にレンに渡すなんて……」

「お父様に代わって謝罪いたしますわ」

 そう言って、マヤはレンに向かって深々と頭を下げた。


「もうそんなには気にしていないから、大丈夫だよ!」

「『玄武族』と『白金族』の関係では当たり前の事だから……」

 レンは慌ててマヤの下げた頭を優しく起こした。

 起き上がったマヤの目からは、沢山の涙が溢れ出てていた。

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