マヤの絵

 レンがマヤの絵を描き始めてから五週目が過ぎた。その間、マヤは毎週レンの部屋へ通っていた。

 仕上げを終えたレンが叫んだ。

「よし! 完成だ!」

「ねぇ、早く見せて!」

 マヤは待ちきれない表情をして、レンを急かしていた。

「見てごらん! ほらっ!」

 レンはクルリとカンバスを回して、完成した絵をマヤに向けた。

「素敵よ! レン、とっても素敵よ!」


 カンバスには薄暗い背景に、金髪の美しい女性の姿が浮かび上がっていた。彼女の白い肌の部分は、カンバスの地の白い部分がそのまま使われていた。目の青色や、金色の髪の毛や眉毛、鼻や頬や唇のディテールには色が入っていた。

「どうして、白い色を使わなかったの?」

「マヤの美しい肌の色は絵の具では表現出来なくて……」

 本当はレンの手持ちの絵の具の白色が少なかったのだ。彼女を描く為の苦肉の策であった。

「もっと沢山の色の絵の具があったら、マヤをもっと美しく描けたのに……」

 レンは心の中で唇を噛んでいた。


「そうだわ、レンに報酬を支払わないと!」

「そんな、何もいりません!」

「マヤと一緒に過ごす時間が貰えただけで、充分です!」

「そんな事を言わないで」

「レン、目を瞑ってくれる」

「はい…」

 レンは目を瞑って待っていた。マヤはレンの唇にキスをした。

「……⁉︎」

「フフフッ、驚いた? 私の初めてのキッスよ…」

「も、申し訳ございません!」

「大丈夫よ、素敵な絵を描いて貰ったお礼だもの、これ位の事はしないと!」

 マヤは悪戯っぽく笑った。


「この絵を持ち帰って良いかしら?」

「来週の誕生日パーティーに皆様に披露するの!」

「どうぞ、ご自由にして下さい」

「ありがとう、レン!」

「そうだわ! レン、あなたもパーティーに来て下さらない?」

「絵と一緒にあなたも紹介したいわ」

「上手くいけば、新しい絵の注文が入るかも知れないのよ!」

「で、でも……」

「『白金族』のパーティーに、『玄武族』のボクが参加するのは……」

「大丈夫よっ!」

「私がお父様にお話をするし、お父様も理解して下さるわ!」

「私に任せて下さいね!」

「来週セバスを迎えに送るから、必ずいらして下さいね」

「セバス! 帰るわよ!」

「はい! お嬢様!」

 マヤはレンの絵を持って部屋を出て行った。

「じゃぁ、またね!」

 と言って……


「本当に、大丈夫かなぁ…」

 一人になったレンは、何とも言えない不安感に襲われていた。

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