休日の訪問者

 次の休日、レンの部屋の外が妙に騒がしくなった。やがて、レンの部屋のドアにノックの音がした。レンがドアを開けるとマヤと運転手兼ボディーガードの大男が立っていた。マヤは大男に、

「セバス、悪いけどドアの前で待ってて頂けるかしら」

「私、彼と二人っきりで話がしたいの」

「わかりましたお嬢様、もしもの時は大声をあげて下されば、すぐに助けに参ります」

「大丈夫よ、そんな事にはならないわ」

 クスクスと笑ってマヤは、セバスと呼ばれた大男をドアの外へ押し出し、ドアを閉めて鍵をかけた。

「初めまして、私はマヤ」

「あなたのお名前は?」

「レ、レンです」

「良いお名前ですね」

「どうも……」

「今日はレンに私の絵を描いて欲しくって来たのよ」

「工場に掲示されたポスターはとてもお上手でしたわ」

「あなたの腕前なら、きっと素晴らしい絵になると思うの」

「…ありがとうございます」

「どの位で出来上がりますの?」

「下描きに約三日、彩色と仕上げに一日づつの五日です」

「休日にしか作業が出来ないので、約五週間です」

「下描きだけお付き合いして下さったら、後は一人で出来ます」

「なるほど……、ちょうど六週間後は私のお誕生日なの」

「来週から、毎週休日にレンの部屋へ伺いますわ」

「誕生日までに絵を仕上げて欲しいの」

「わかりました、お嬢様は最初の三週間だけ来て頂ければ結構です」

「いえ、完成まで毎週伺いますわ、あなたの手で私の絵が仕上がっていくのを見ていたいの」

「それと、私の事を『お嬢様』ではなくって、『マヤ』と呼んで欲しいわ」

「わかった、レン?」

「わかりました、おじょ、マヤさん」

「…まぁいいわ、それでは来週からよろしくね、レン!」

「はい、マヤさん!」

 マヤはレンと握手をした。急な出来事で戸惑っているレンを尻目にマヤはドアをノックして、

「セバス、帰るわよ」

「わかりました、お嬢様!」

「じゃぁ、またね!」

 と言って部屋から出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る