市長の娘マヤ

 ある日、清掃工場に市長の娘が慰問にやって来た。現市長は開明的な人物で、「『白金族』と『玄武族』の融和」をスローガンに様々な政策を行っていた。『玄武族』が自立して生きていく為に必要な職場や学校を整備して、市役所の下級役人にも積極的に『玄武族』を登用していた。

 スラムで飢え死にしそうになっていたレンも、市長のおかげで職に就けて、休日には絵を嗜むほどの生活が出来るようになっていた。


「『白金族』も『玄武族』も肌や組織の色が違うだけで、生物学的には全く同じ人間である!」

「色の違いで差別をしてはいけない!」

 いつも市長は声高に主張していた。

 娘のマヤも父の主張に賛同して、精力的に『玄武族』の職場や学校を訪問しては、励ましの言葉をかけていた。

 清掃工場を訪問したマヤは色々な場所へ行き、現場の人と談笑して回っていた。

 マヤは職場に掲示されていたポスターに目を付けた。

「このポスターを描いたのは誰かしら?」

 恥ずかしそうにレンが手を挙げる。

「とても絵がお上手ですね」

「はい……」

 レンが恥ずかしそうに答える。

「今度、私を描いて下さらない?」

「はいっ⁈」

 レンが驚いて返事をする。

「じゃぁ、次の休日に私があなたの部屋を訪問しますね」

「は、はぁー」

 レンは生返事で答えた。

「それでは、決まり!」

 マヤは嬉しそうに手をたたいて喜んでいた。

 やがて、マヤは職場の人達に笑顔を振りまきながら工場を去って行った。

 寮に帰ったレンは、

「どうせ、社交辞令で次の日には忘れているだろうなぁ」

 と思っていた。

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