ぐちゃぐちゃになったそれは、美しい虹のような…
わたくし
『虹』を描きたかったレン
街の清掃工場でレンは働いていた。レンの持ち場に次々とゴミが雪崩れ込んで来る。レンは素早く「使える物」と「使えない物」を分別する。
「使える物」はベルトコンベアーに乗せ、隣の部屋へ運ばれていく。運ばれた物は綺麗に清掃して、また商品として流通する。
「使えない物」は目の前の粉砕機へ放り込む。金剛石の刃で出来た粉砕機は、ありとあらゆる物を粉々に砕いてしまう。粉砕機の下には特殊な分離機があり、砂状の個体と液体へと分離する。液体は廃液プールに一時的に溜められた後、少しずつ川へ流していた。
残った砂状の個体は型に入れて焼き固めて、ブロック状の建設資材となって社会へ還元されていた。
レンは十代の頃からこの工場で働いていた。レンは『玄武族』の出自であった。
『玄武族』の人間は灰黒色の皮膚と体組織と血液を持っていた。
社会の上流階級の『白金族』からは忌み嫌われ、言われ無き差別を受けていた。
『白金族』の人間は白い肌と体組織、金色の髪の毛、黄金色の血液が流れていた。
太古の昔から『玄武族』と『白金族』は争っていたが、次第に『白金族』が力を付けて『玄武族』を支配するようになっていた。
そして、両種族間の結婚は禁忌とされていた。
終業のサイレンが鳴り、レンは工場の隣の従業員寮へ帰った。レンの手には様々な物を持っていた。従業員がゴミの中から物を私的に持ち出す行為は、「手で持てる物」であれば黙認されていた。従業員は期限切れでもまだ食べられそうな食料や酒、使えそうな衣服や日用品、力のある者は家具や寝具などを寮へ持ち帰っていた。
レンが持ち帰ったのは、絵を描く道具や紙であった。鉛筆や筆、絵の具やクレパス、画用紙や裏の白い印刷物など、絵を描ける物なら何でも寮へ持ち帰っていた。
休日になるとレンは絵を描いていた。絵の題材は自分の部屋や窓から見た風景、同僚の似顔絵、工場から頼まれた職場啓発用のポスターなど様々な物を書いていた。
レンはある物を描きたいと思っていた。それは生まれ育ったスラム街で見上げて見た『虹』であった。自分と同じ灰黒色の街並みの中で飢餓に苦しんで仰向けに倒れた時に見た、空に掛かった七色の美しい『虹』だ。
あの世界で唯一の鮮やかな色の付いた物。それを何時かは絵で再現したいと思っていた。
レンは少ない絵の具を使って何度か描いてみた。しかし足りない色があり、その色を作ろうと絵の具を混ぜてゆく。ぐちゃぐちゃに混ぜ合わさった絵の具は、美しい『虹』のような色にならず、次第に自分と同じ灰黒色になっていった……
その絵の具の色を見たレンは、落胆して絵筆を放り投げていた。
「もっと沢山の色の絵の具があれば……」
レンはいつもそう思っていた。
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