そして、カレーをかき混ぜる。
七草かなえ
そして、カレーをかき混ぜる。
わたしはカレーライスをぐちゃぐちゃに混ぜて食べるのが好きだ。
更に生卵をトッピングするから、よく食事を共にする人に信じられないものを見るような目で見られたりする。別に自由でいいじゃん、と言いきることができないのがわたしの弱さだ。
大体みんな、カレーライスはスプーンで一さじ一さじ、崩すようにして食べる。ぐちゃぐちゃに混ぜたりなんて誰もしていない。大方親御さんに、かき混ぜるのはお行儀悪いとでも言われて育ったのだろう。
それはそうとして。わたしの得意料理もカレーライスだったりする。という訳で。
「うわあ。良い匂い!」
鍋をのぞき込んだ彼女が歓声を上げる。
「でしょ? せっかくだから咲良に最高のカレーを食べて欲しくて、張り切っちゃった」
「璃々ちゃんのカレー楽しみにしてたんだ」
親友の鮎川咲良を自宅に招いて、今日はわたし草壁璃々の得意料理であるカレーライスを振る舞うことになっていた。
咲良は小学生以来、同じ女子大学に通う今でも大事な大事な親友。そんな彼女にいい加減なものを食べさせたくなくて、わたしは腕によりをかけた。
――咲良を見ていると、わたしの心がぐちゃぐちゃになる。
いつからだったろうか……。咲良を想うとわたしの体と心が隅から隅までかき回されるような気分になる。
心拍数が上がるとか、顔が火照るとかいうのとは似ているようで少し違う。今もちょっと、自分の内側が震えている。
なぜなのだろう、とか、この感情の名前はなんなのだろう、とかはもう分かっている。
――咲良。
「はーい、できたよ」
そうこうしているうちに。カレーライスができあがる。
わたし草壁璃々にとって、鮎川咲良は特別な人間だ。
例えばカレーライスに生卵を入れてぐちゃぐちゃにかき混ぜるのを、咎めるどころか面白そうな顔をして見ていてくれていたり。
ああ。その可愛らしい顔、やっぱり。
――咲良。わたしは、
真っさらな深皿に米飯とカレーをよそう。ほかほかと沸き上がる湯気は、わたしのホットな心を表しているみたい。
――咲良。わたしは、貴女を
二人向かい合わせで席に着く。いただきますを言ってから、早速わたしは生卵を割り入れて、カレーライスをかき混ぜる。
咲良がいつもの面白そうなものを見るようで、その実とても愛おしそうなものを見つめる目でわたしを見ている。
ただ否定しないだけ、じゃない。咲良はわたしのこの食べ方を尊重してくれている。
「璃々ちゃん、美味しいね」
「ありがとう」
「璃々ちゃんと食べてるから、余計に美味しい」
嗚呼、なんて嬉しくなることを言ってくれるんだろう。
――咲良。わたしは、貴女を愛している。
そして、カレーをかき混ぜる。 七草かなえ @nanakusakanae
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます