王の下に集いし者達
――誓いの
シュヴェスタル創世の時代、全ての精霊の民の長が集まったこの広間で、獅子の精霊が王を選び、世界の行く末を定めたと言われている。
円形の広間には赤絨毯が敷かれ、天井には太陽と獅子の見事な絵が、壁にはシュヴェスタル創世の神話をテーマにした絵が描かれている。目の前には段差が設けられ、その奥には見事な五つの獅子の玉座があった。
ここに来ると、壁画や天井画の圧で、歴史の重みが肩にのしかかってくる様な気がする為、イヴァリオにとってはあまり好きな場所ではない。
あたりを見渡すと、今回の救世主召喚の事で全ての民の長、又は代理が呼び出されたようだった。
見知った顔と、初めて見る顔がいる。先ほど顔を合わせたユピテルはイヴァリオの左隣で一輝と朗らかに談笑しており、右隣には、馬の紋章を前面にあしらった緑のチュニックを着た背の高い男が立っている。
馬の民、コルディール領に住むターセエグリス家の長子、ファーガスだ。
ターセエグリス家とフルーヴァング家は先祖達が魔物相手に共に戦った歴史があり、両家にはずっと交流があるのでイヴァリオにも見覚えがあった。
「ファーガス殿、お久しぶりです」
「やぁ、イヴァリオ。君も来てたんだね。ところで……君は一体何番目だった?」
「……なんのことですか?」
全く意味不明な問いを投げかけられ、イヴァリオは疑問符を頭に浮かべる。
「何って、到着の順番さ。私は今日の朝だったんだが、どうやら私より早く来た人がいたらしくてね。気になって仕方がないのだ」
「僕達は早朝に到着しました。……ユピテル殿も同じくらいだったと」
「なんと……ということは私は三番目か?!遅い……遅すぎる……これでは私の忠誠心が疑われてしまうじゃないか!」
「それは……考えすぎだと思いますよ?」
「いいや、これはとても大事な事なのだイヴァリオ。ターセエグリスの家の者は、常に先陣を切り、王の為に忠義を尽くさねば。だから今回も朝日が上ったと同時に全力で馬を走らせてきたというのに……」
「僕達、狼の民は夜目が効くので一晩かけてここに辿り着きましたから、ファーガス殿より僕達が早いのは仕方がないのでは……」
「まぁそれはそうだが……しかし、私の忠誠心が誤解されてしまうのは耐えられないっ!!」
イヴァリオには全く理解できない事ではあるが、馬の民にとって忠誠心を示すことは何よりも重大な事らしい。ファーガスはしばらくうんうんと一人で唸っているので、イヴァリオは気づかれぬうちにその場を離れた。
「皆様、レグルス王がいらっしゃいます」
ざわついていた広間が静まり返る。
近衛兵がそう告げると、大きな音と共に背後の扉が開け放たれた。
赤いビロードのマントを翻らせ、金色の長い癖毛を揺らしながら、男が広間へと入ってくる。大股で、堂々と広間の真ん中を闊歩し、そのまま中心の玉座へと腰を下ろした。長い足を優雅に組むと、金色の瞳で広場をぐるりと見渡し、満足そうに笑みを浮かべる。
彼こそがシュヴェスタルの全てを導く獅子の王であり、王都ラインハルトを統べるレグルス・クラウディウス王だった。
そしてその後ろに次女のアダフェラ、次男のシェルタン、三男のアルテルフが続く。皆、金色の輝く髪に黄金の瞳を持ち、まるで絵に描いた様な美しさを誇っていた。
彼等は正面の玉座にそれぞれ座ると、じっと王の言葉を待った。
「皆の者、よく来てくれた」
朗々とした声。
ただの挨拶だが、それは獅子の咆哮のように人々を圧倒した。皆が、中心の玉座に座るレグルス王を見つめている。
レグルス王がパチンと指を弾いた。
「喜べ!正義の鷲の民、アドラー家のユピテルが吉報をもたらした。さぁ、ユピテル、前へ出て話してくれないか。私達にお前の素晴らしい成果を知らせてくれ」
「はい、レグルス様」
ユピテルはこの一世一代の偉業を自分が成し得ることに興奮しているのか、頬を赤く染めていた。
ユピテルは一輝の手を引き、王の前へと進み出る。一方で、当の救世主様は大して緊張も興奮もしていないように見えた。
「皆様に申し上げます。私達は別の世界より、救世主様の召喚に成功致しました!その救世主様こそ、ここにいらっしゃるカズキ様!彼の方は別の世界、ニホンからいらっしゃった特別な方です。信じられない程の莫大な魔力を体に宿しています、きっとこれから私たちの力になってくれるでしょう」
広場に集まった人間は皆、信じられないと言った顔で一輝を見つめ、ヒソヒソと何かを囁き合っている。
「私達アドラー家は、鷲の民を代表し、カズキ様と協力して、まずは南からやってくる魔物の殲滅に力を注ぎます。そして次は、全ての元凶である、封印された北の獣を抹消する。北の獣が存在するから、その力を求めて南から魔物達が来続けるのです。ならばその元凶を断つべし。私達はそう考えました」
広間がざわめく。
「カズキ様の力は計り知れません。魔力はこの世界の誰よりも高い。我らでお助けすれば、いずれはどのような事も可能になるでしょう」
ユピテルは仰々しい演説を終えると、優雅にお辞儀をした。まばらな拍手が広間に響いた。
「ありがとう、ユピテル。さて、では次はカズキに……」
「お待ちくださいませ!父上!」
扉が、大きな音と共に開け放たれる。
広間にいた皆が咄嗟に後ろを振り返ると、巨大な斧を担ぎ上げた甲冑の騎士がそこには立っていた。
騎士が血にまみれた兜を脱ぎ捨てると、金色の長い髪に金色の瞳、息を呑む様な美貌が現れた。
「クラウディウス王家、第一王女デネボラ、只今帰還した!」
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