第48話  

「本当にこの館を造った人物は狂人だな」

 コルジンの言葉に、

「ジェームズ・ハントはそれと同時に魔法使いだったようだ」

 グッテンの言葉を聞いて僕は雲助の言葉を思い出した。

「グッテン。この館を作ったジェームズ・ハントは魔女狩りにあったんだよね?」

「俺の知識だ。けれど断片的」

 雲助と僕はグッテンに聞こうと、グッテンの顔を見る。


 グッテンは急に顔に熱が入った。

「そうだ。ジェームズ・ハントは大昔……700年以上前に魔法の実験をしていた。それは時間や空間……そして……因果律を変化させる魔法の研究で人体実験までやっていたのだ。その頃はこの館の近辺にはクロイス協会というのがあって、その機関は魔女狩りを積極的にしていたのだ。その機関に見つかったジェームズ・ハントはそれぞれの大き過ぎる館を……この近辺だけだが……を魔法の力も使ってくっつけた。そして外……いや外界だな……を遮断したと古文書に書いてある。今ではクロイス協会にその断片的な建造物が存在していると書かれていた……。何のことやら解らないが……。」

「グッテン。因果律って何?」

「原因があって結果がある。そういうことだ。必然なのだよ。恐らくジェームズ・ハントはその不可逆な因果律をひっくり返すことをしようとしていたのだろう」

 コルジンはまた柔和な表情をしている。


 ロッテはグッテンの話に感心をして拍手をしている。

 そうなんだ……僕の住んでいた町にはクロイス協会が今でもある。でも、今では大きい病院になっているんだ。きっと、この館の主のジェームズ・ハントと大きく関わったんだと思う。僕のおじいちゃんの館に不思議なドアがあったのは、一体……。何か僕のおじいちゃんとジェームズ・ハントは関係があるのかな?


 うーん? おじいちゃんは昔は不動屋さんをしていたって、意地悪な両親に聞いた時があったけど。

「雲助。グッテン。それじゃあ館の亡霊はどうなの? ジェームズ・ハントの魔法が関係しているの?」

「そうかも知れない。特殊な亡霊も、そして、普通の亡霊もこの館から出たがって死んだ人なだけではないかも知れない……」

 グッテンは布袋からレタスを取り出した。それをガブリ!

「俺の知っているのは変わっている人が死ぬと……亡霊になるということだ」

 雲助は僕の布袋から器用にレタスを一枚、僕の肩まで持って来てガブリ?

「ジェームズ・ハントの魔法……。それは一体どんなものなのだろう」

「さあ。たっぷりと涼しんだし、難しい話はこれで終わりにして、先に進もう。おチビちゃんもうそろそろ端っこへと行こうや!」

 コルジンがニッコリして大声を発した。

 僕たちはベージュ色のドアを開け次の場所へと行く。

 今度は廊下が延々と続いている。部屋ではない。途方もなく長い廊下は遥か先にガラスの両開きドアが見える。

「うひゃー! この廊下は長すぎるぜ!」

 コルジンが驚きの表情で颯爽と歩きだした。


 廊下にはこの館では珍しい埃がつもり、歩くと足跡が床にくっきり。

「700年前からの埃かな?」

 グッテンが靴で床を蹴った。埃がめい一杯空中を舞う。

「けほけほ。グッテン止めて」

 ロッテは鼻と口を押さえて涙目になる。

 僕は気にせずに……掃除嫌いな僕の部屋は埃だらけなのさ……歩きだした。

 そういえば、おじいちゃんの館は魔法で掃除をしなくても埃があまり落ちないと聞いた時があった。

「けほけほ。済まない興味と好奇心からやってしまった。恐らく、700年前はここは特別なところだったのかも知れない。つまり、埃を誰かが持って来て床にまいたりしたのだろう」

 賢いグッテンが推理を話し出した。

「それにしても、すっごい埃だな」

 先頭を歩いているコルジンが口を押さえながら言った。


 しばらく歩いてもガラスの扉までまだまだ。いっぱい歩いてみんなの靴が埃まみれ。僕は寝巻きの下は踵も入るスリッパだから多少汚れても平気だけれど。いったい何でこんなに埃があるのやら?きっと、700年間も誰も人が来ていないのかも知れない。あれ、グッテンの考えと違うことを考えている。

 そうこうしていると、またあの声が聞こえてきた。

「ウーーふーーー」

「ヨルダン。あの時の化け物だ!」

 僕は後ろを恐る恐る振り向くと、四本足で歩いているあの化け物の姿が、木と木を打ち当てる音を鳴らしてこっちに歩いてきた。その恐ろしい風貌は以前と何も変わっていない。四本のマネキン足は、今では血で塗られていた。

「何だ。あいつは?」

 先頭のコルジンが後ろの化け物に気が付いた。

 グッテンとロッテも気が付く。

「僕をさんざん追い回した奴なんだ。変な化け物でやっぱり危険だと思う」

 僕の言葉に、

「逃げるより私の部屋へ行ってヨルダン」

 ロッテは青い顔ながら自信のある声色をしている。

「解った。みんなつかまって!」

 僕は黄金の至宝を両手で持ちながら叫んだ。みんながあっという間に僕の体に接触した。

 黄金の至宝を念じて捻じる。

 周囲がぐにゃり。


 次にはロッテの黄色いドアの前に僕たちは現れた。


「ちょっと待っててね」

 ロッテはドアを開ける。

「ただいまー」

 すると、中から鬚面のこれ以上ない薄汚れた格好の中年男性が部屋から出てきた。ボサボサの髪はある意味スタイリッシュだが、やっぱりボサボサ頭だ。

「ロッテ。もう薬草を持ってきたのかい。偉いぞ。早速調合したらキャサリンさんのドアへと行かないと」

 ロッテはおじさんの耳元に、その小さい唇を寄せて何かを話す。きっと、そうでないと人の話を聞かないのだろう。僕は直観的にそう思った。

 正解かも……。

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