第49話

「なるほど、黄金の至宝をとって来たんだね。そっちの・・・ヨルダンくん」

 おじさんが皺を寄せた顔で僕を覗く。その表情は何だか愉快になる。

「トーマスさん。爆弾を少し分けてもらえないでしょうか」

 グッテンは布袋からレタスを取り出しながら話す。

「なんだか物騒だね。でも、君達がいるから大丈夫か。それにしてもすごいチームだね。館の格闘技チャンピオンのコルジンくん。有名な学者のグッテンくん。そして、この館で唯一の医者の私の娘のロッテを連れているんだから」

 トーマスおじさんの人を愉快にさせる言葉に、

「ええー! そうだったの?みんながそんなに凄いなんて!」

 僕はびっくり仰天。そんなに凄い友達だったの。

「俺も忘れてもらっちゃ困る」

 雲助が唸る。

「それは君もだよ外館人」

 グッテンは美味しそうにレタスに齧りつく。

「あははは、若い時のことさ」

 コルジンは両手を叩いて笑いだした。

 ドアの奥へと向かったロッテが爆弾を抱えて戻って来た。丸くて黒い色の普通の爆弾だ。けれどロッテが軽々と持っているため軽いようだ。

「さあ。行きましょう」

「頑張ってくれ。薬草が無いとまずいんだ」

 トーマスおじさんが手を振りながら言った。


 僕はトーマスに笑顔で答え、黄金の至宝を念じて捻じる。

「爆弾を置いたらどこへ行こう」

 僕はロッテに耳に口を近づけて聞いた。心臓が高鳴るけど、今はそれどころじゃないんだね。館の亡霊を退治できる初めての試みだ。

「そうね。あなたはどこへ行きたいの?」

 目の前にはあの化け物がいる。コルジンとグッテンは僕の肩に手を置いている。

「ふーむー」

 化け物はゆっくりと近付いてきた。けれど、もう怖くは無いぞ。

「これでいいわ。さあ、行きましょう」

 ロッテは爆弾を床にセットした。

「じゃあ。そうだねコルジンの部屋へ行こう」

 黄金の至宝を念じて捻じる。

 ドスン。大きな音が聞こえたように思えた。

 せせこましいコルジンの部屋へと着くと、ギュウギュウだ。でも、またすぐに戻ることになる。

「ちょっと、待ってヨルダン。今は行かない方がいい。あの廊下は大量の埃が舞っているはずだから、今戻ると大変だぞ」


 グッテンが窮屈なコルジンの部屋で僕とロッテに挟まった。妙なポーズをして渋々言った。

「そうだな。軽く食事でも取るか」

 コルジンは窮屈さに平気な顔をして、キッチンで大きな鍋を用意する。

「座りましょう」

 ロッテは小さいテーブルへと座る。

「うん」

 僕も座ると、グッテンも妙なポーズから解放されてテーブルに着く。本当に狭い……。

「ヨルダン。端っこには何かあるというのは俺も賛成だ。けれど、何の役にもたたないものかも」

 雲助が僕の頭の後ろから話してきた。

「それでも、見る価値はあるさ。きっと700年前からの何かがきっとある。」

 僕は早く埃が落ち着いて、端っこに行けないかとウズウズしている自分に気が付いた。

「ほれ。出来たぞ。じゃんじゃん召し上がれ!」

 小さいテーブルには、懐しいハムサンドバーガーが置かれた。それが4人分。テーブルに本当にはみ出し、僕たちの食欲も膨れ上がる。僕は急に涙目になりだした。

「まあ。これは何て言うの?」

 ロッテは両手でバーガーを持って首を傾げた。 

「ハムサンドバーガーさ。すっごく美味しいんだよ」


 涙目を大きいハムサンドバーガーで隠している僕の言葉にロッテは嬉しがる。そして、ニッコリして頬張る。雲助のも僕のバーガーのレタスの部分を与えた。

「ハム……」

 グッテンは渋々ハムだけを取って、食べる。

「どうだい。美味いか」

 コルジンはみんなに聞いた。

「うん!」

 僕たちは更なる旅の英気を養う。

 食事を終えてからしばらくすると、

「もう。大丈夫かな?」

 グッテンがテーブルから立ち上がった。

「ヨルダンもう行こう。きっと埃は廊下に落ち着いた」

 グッテンは大袈裟に高らかに言うと、僕の肩に慇懃に手を置いた。

「うん」

 みんなも僕に手を置き、僕たちはあの埃だらけの廊下へと旅立った。


 埃だらけの廊下は随分と落ち着いていた。あの化け物はどこかへと吹っ飛んだようだ。そして、本当に原型館の魔法で廊下はビクともしない。

 僕たちは少し足早に進んで行った。ガラスの両開きドアまで……。

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