第44話

 黄金の至宝は手に持つと、キラキラがより一層強くなる。

「軽いんだね」

 重さを微塵も感じないそれは、例えるなら中身がない小さい箱だ。

 女の頭の影が迫って来た。

「ヨルダン! 早く! その至宝で館の構造を変えるんだ!」

 雲助の言われたことをやってみようとした。


 …………


「構造? どうやったらいいの?」

「簡単さ。念じて捻じる」

 僕は黄金の至宝をグッテンたちがいた部屋を念じて捻じった。

 すると……。

 館の形……構造が眩い光と共に変化した。

 最初は100人のベットの部屋が目の前に現れ、その次は食肉動物園。次にはコルジンの部屋。

 館のあらゆる部屋……空間が動きだし、目の前が走馬灯のように変化していく。

 最後にグッテンたちのいる部屋が目の前に現れた。

「ヨルダン。これは一体……?」

 ブロンズ天使の像の近くのグッテンが僕に気が付き、驚いた顔で近付いてきた。


 僕はきっと、グッテンたちの目の前に突然現れた……?


「おチビちゃん? これは一体?」

「どうやったの?」

 コルジンとロッテが驚愕の表情で互いの顔を見合わせる。

「黄金の至宝さ」

 僕は両手の小さい箱をみんなに見せた。

「黄金の至宝……。これほどとは……恐らく、それは館の構造を変化出来る魔法の宝物なのだろう」

 賢いグッテンが状況をあっという間に把握した。

「いきなり館の形が走馬灯のようになって、気がついたらヨルダンが目の前にいたのよね」

「おチビちゃん。とんでもないものを見つけたな」

 僕は得意満面。みんなに自慢したくて、今まで起きたことをかなりの熱を持って話始めた。

「おチビちゃん。凄いぜ。俺が傍に居てやればよかったんだが」

 コルジンが珍しく眉間に皺を寄せて感心した。

「本当に素晴らしい」

「そうよね。私なら怖くてきっと死んでいたわ」

 三人の感嘆ぶりに僕は大喜び。さっそく、食料を探そう。みんなお腹が空いているはずさ。きっと、簡単に見つかるさ。僕には黄金の至宝があるんだ。


 ハリーの旅行はまだ1週間半はあるんだし、その間、原型館を隅々まで調べられるんだ。でも、キャサリンおばさんの焦げた顔のことがあるかしら?それなら後3日くらいで戻ってこよう。どちらにしても、僕の大好きなロッテの薬草があった方が良いに決まっているんだね。

「それじゃあ。まずは端っこへと行こう」

「ヨルダン。ちょっと待て」

 雲助が僕に待ったを掛けた。

「え、何?」

「その黄金の至宝は、一度行ったことがある場所でないと行けない」

「えー!」

「ここは当然。行った時のある場所。館の端っこは一度も行った時が無い場所」


 雲助が黄金の至宝の説明をみんなにしてくれる。


「雲助。君は凄いな。私でも解らない……。いや、古文書にもない知識だ」

「俺の知識はとある人物のものなのさ。誰だとは言わないでほしい。この館の秘密の一つで、それもかなり高度な秘密なのさ。つまり、言うと駄目」

「それじゃあ。館の端っこに行くには自力で行くしかないのか」

 コルジンが精悍な顔をした。

「それじゃあ。薬草を探すのも頼りになるのは自分の力なのね。困ったわ。早くキャサリンおばさんを治してあげたいのに」


 ロッテは可哀そうといった顔をしている。僕もその気持ちを持っている。けれど、きっと不可能じゃないはずさ。僕はこの黄金の至宝のいいところは館の亡霊に出会っても、もう絶対大丈夫だということだと思う。コルジンにだけ大変な思いをさせなくてもいいんだ。

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