第43話
せせこましい部屋で、何日か経った。どうしてもコルジンの部屋で食事を一緒に取ったことが、思いだされる。
心細い……涙がいっぱい出てきそう……。
「コルジン……グッテン……ロッテ……」
僕は涙を拭いて、その部屋のキッチンを借りることにした。リグおじさんから貰った布袋から野菜をとても簡単に調理して、食べることにした。
空腹感は緊張と恐怖でなかなか感じないけど、食べないと力が出ないような心に強く迫るものが僕にはあった。
「俺にもくれ」
そういえば、雲助がいたんだ。僕は完璧にもう一人ではないんだね。
「きゅうりをやるよ雲助。……これからどうしよう」
きゅうりの欠片を雲助に与える。
床に座り力が出てこない腰を休める。
「さあな……。だから、中の中には入っちゃいけないと言ったんだ」
雲助は僕の手のきゅうりを降りて来て齧った。
「御免。あんまりにもおじいちゃんの館が楽しかったから……。きっと、どうでもよかったように聞いていたんだと思う。こんなことになるなんて。もっと早くに雲助の言葉を聞いていたら……」
布袋の中はもうなにもない。
僕は考えた。館の亡霊がうじゃうじゃの原型館で……何をしたところで、戻れそうもないし、もう何も出来ない。
「後、一日。ここでじっとしていよう。もう、疲れちゃった」
「ヨルダン……。影が変だぞ。」
「え?」
見ると、自分の影のところに巨大な女性の頭髪の影が床に見える。
「なんなの?」
「ヨルダン! 逃げた方がいい!」
僕は立ち上がった。
その影は僕の影を覆い尽くすようになり、天井を見上げるが何もない。不気味な……影だけだ。
突然、何とも言えない声を漏らして、その影は更に大きくなった。
僕は雲助を肩に乗せて走り出す。
この部屋は黒色のドアの狭い1Kで、すぐに紫色のドアから外へと出られる。外には廊下が遥か遠くへと伸びている。
僕は走った。何が何だか解らない影から。……影が追ってきた。
また、恐怖か……。僕は自棄になって、リグおじさんから貰った布袋を影目掛けて思いっきり投げようかと思った。
けど、体が言うことを聞かない。
不気味な影が長い髪を振り乱し追ってきている。
「ヨルダン! きっと、助かる! 力を振り絞ってどこかのドアへと逃げるんだ!」
僕は自暴自棄になるところで、最後の力で踏ん張った。そして、白と黒が縦横にあるドアを開ける。
その部屋は木の匂いが充満しているところだった。頭髪の影が追ってきているかも知れないが。一瞬、安心感が湧いてくる匂いだ。その向こうに灰色のドアがある。
「ヨ……ヨルダン」
「え?」
見ると、雲助の向く方向に……キラキラ光っている正四角形の小さな箱のようなものがあった。
それは、部屋の中央にある植木にぶら下がっていた。
「やったぞ! これでコルジンたちに会える。黄金の至宝だ」
「ええ!? これがそうなの?!」
焦げ茶色の床の部屋は老人が住んでいたような造りだった。
僕はまだある恐怖心をふっ飛ばして、黄金の至宝のところまで歩いて行った。
「ヨルダン。それはこの館の形を自由に変えられるんだ。強力な魔法の塊」
「強力な魔法の塊? つまり、この箱なら元の館へと戻れるのかな?」
「ああ。戻れる。原型館の魔法よりも強い。ジェームズ・ハントは狂人だったが、実は強力な魔法の研究をしていたんだ。でも、魔女狩りにあって、館の中へと逃げた。そこはグッテンのほうが詳しい。俺の知識はある人物がくれたもの。断片的だ」
「ある人物? って、雲助。いったい誰のこと?」
「今に解る。この館から出る時に……」
僕は目をいっぱい開けて、
「この館から出る!?」
「そうだ。その黄金の至宝はこの館からも出ることが出来る。さっき言った。館を……この原型館ですらも部屋の形から天井の形も自由に変えることが出来る。その力で天使の扉にあったガラスのバリアも……」
「ええ! そんなに凄いの!」
僕は恐怖を感じなくなるほど驚いた。そして、大感激して黄金の至宝を手に持った。これで、グッテンたちを助けられる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます