第37話
コルジンが僕を抱き抱えて、廊下を走りだした。ロッテたちも続く。
4人が急いで通り過ぎると、僕たちがいた空間に巨大な顔が大口を開けて、噛み付いた。その顔はひどく年寄りだ。
あのホクロだらけの男はこの大口に噛まれ、大量の出血は大口に啜られたようだ。
「驚いたな。この館にも特殊な亡霊がいるのだ!」
走りながらグッテンが叫んだ。
「特殊な亡霊?!」
「そう。目に見えないもの以外の亡霊さ! 外館人の君には解らないものだろうけど!」
学者のグッテンが全速力で走りながら叫びながら講義をしようとしたが、僕はおじいちゃんの館の最初に、絵の具の亡霊に襲われたことを思い出した。
走りながらの会話は息が苦しくなる。
「ああ、僕は知っている! この館へ来たときに最初に見た奴だ!」
グッテンは荒い呼吸で目を丸くして、
「君はなんという幸運の持ち主だ。館の亡霊より特殊な亡霊のほうが凶暴で危険だ。そんな化け物に出会っても、生きているなんて!」
走る。
走る。
走る。
肖像画が消えるところまで来た。後ろの特殊な亡霊はゆっくりとだが追いかけてくる。僕たちは不運にも貴重な食糧を逃した。
そこは、紫色のドアだった。
ドアを足の速い一番のグッテンが開けた。そして、みんなが続く。
「何て所だ!?」
グッテンは驚いた。走って来た僕たちは面食らった。
中央には滑り台。小さいが正四角形の床を引っぺがしたところに水が張ってあって、丁度滑り台を滑ったら水の中へと入る仕組みだ。
回りには行き止まりだよと言いそうな。肖像画がある壁に覆われていた。
「ここは危険だから、この水の中に入るしかないか」
グッテンが息を切らして言った。
まだあの大きい口の老人の顔が追い掛けてくる。
「この滑り台を滑って、水の中に入るしかないの!」
ロッテは部屋へと入り叫んだ。
僕はこのヘンテコな原型館に早くも興味を持った。
「みんな。水の中に入るしかないよ。滑り台を使わなくても水の中に入ろう」
肩で息をしているみんなに、僕は微笑んだ。反対に雲助は僕の頭で踏ん張った。
「それじゃ、俺が一番手だ」
息をあまり切らしていないコルジンが大きな体をザブンと水の中に入れた。
「大丈夫なの?」
ロッテは泳げないのか水を怖がっている様子。僕は好奇心に胸躍り、その横顔を除いて一緒に滑ろうと言った。僕は僕の町のプールで、息次ぎは出来ないけど泳ぎを知っている。
「私は先に行く。ヨルダンもロッテも急いだほうがいい。布袋は水を吸うと重くなるから注意が必要だ。コルジンは力持ちだから平気だが……」
グッテンは幾度か深呼吸をしてから水の中に入って行った。
「さあ。一緒に滑ろう。ここは危険だ」
僕はロッテの手を取ると、急いで滑り台の階段を布袋片手に昇る。雲助が悲鳴を上げた。
「待て! ヨルダン! 俺はどうする!」
「簡単さ。この布袋に入っていて」
僕は雲助を布袋にある肉のパックに押し込める。これで、水中で少し無茶をしても大丈夫さ。
「さあ!」
僕は力強く言った。後ろでは館の変な亡霊が追い掛けてくる。でも、僕は怖くは無いぞ。
ロッテは少しどうしよう……。と、呟いていたが。何とか滑り台の階段を上がる。
二人で滑り台を滑り、水の中へと落ちた。
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