第38話 不思議な原型館

 息が苦しいけど僕は好奇心で周りを見た。

 水の中は天井に蛍光灯の照明があって、かなり明るい。遠くにある四方の壁には天使や女神の模様が所狭しとあった。遥か彼方に小さい天井の空きがある。そこなら、地上へと出られるだろう。

 僕は布袋を持ったロッテの手を握り、二人で足をバタバタしながら泳いで、天井の抜け穴を目指す。遠くに同じく天井の抜け穴を見つけたコルジンとグッテンが見えた。二人とも泳ぎとは言えないただ進んでいるだけの姿だった。


 コルジンは後ろを時々見ては、僕たちにこっちに早く来いと手でジェスチャーを送る。

 ここの床は粘土質な土。水は澄んでいて遠くを見れるし、僕たちは苦もなく泳げられる。けれど、ロッテだけはそうもいかないようで、僕の手を握っては死に物狂いで足をバタつかせた。


 僕とロッテはやっと、先に地上へと出たコルジンとグッテンたちがいる。天井の抜け穴までなんとか泳ぎ切った。

 魚はいないし、本当に食料をどこで探そうか?

「ぷはっ!」

 僕とロッテは一斉に水の張った館の床から、顔を出して呼吸を整える。

「私。今度から泳ぎを覚えよう。大浴場なら泳げると思うし。水が怖くてしょうがないわ」

 ロッテは真っ青な顔で、何度も顔をずぶ揺れになっている布袋で拭いている。が、しかしまた濡れ始める。

「こんなでかい風呂は初めてだな」

 グッテンは布袋を近くに置いて感激しているが、その姿がお風呂に入ったことが今までで、数えるほとだということが解る。

「おチビちゃん。ここには危険はもうないとは思う。けど、油断しないでおこう」

 コルジンは茶色がかった髪を掻きあげるが、水の脅威は続いていた。


 この館には空がない。けれど、ここには雨が降っていた。

天井のスプリンクラーだ。こんなものなんで付いているのか……。僕の住んでいたところでは、火事の時にしか作動しないし、この館では魔法があるから不要のはず。(後、消防団が住人の中に何人かいて、その人たちは小さいボヤだけの担当だとグッテンから聞いた時があった)

 スプリンクラーは大雨よろしく僕たちを濡らす。館の特殊な亡霊よりはましなんだけど……。これだと風邪を引いちゃうかも知れない。

 それに、この部屋には出口がない。

 これは賢いグッテンに何か方法を考えてもらわないと……。もう一つの出口はあの水の中。

「グッテン。どうするの?また水の中に入る?」

 グッテンが考えだしてから5分後。

 壁にはたくさんの巨大な天使の絵が描かれている。こんなところでは食糧は食べられないかな。

「ここで、何か食べましょう。とは言えないわ。……お腹が空いたわ」

 ロッテはがっかりしている様子だ。


 スプリンクラーの雨は布袋に入っている……かなり濡れている雲助は不機嫌な顔?で、

「ヨルダン。雨の降っていない部屋へ行こう。腹が減ったぞ」

 雲助もお腹が減っているようだ。僕もだ。

「けれど、どうやって他の部屋へと行けばいいのか」

 グッテンは眉間に皺を寄せて考え込んだ。 

 コルジンは両手を振って壁に穴を開けようとしている。

「コルジン。無駄だよ。この館には魔法があるから壊れない。それにここは原型館だ。きっと、私たちの館よりも強力な魔法が掛っているはず」

 グッテンはコルジンを制してから、巨大な天使の絵の数々を調べ出した。

 天井を埋め尽くすスプリンクラーの雨は容赦がなく。僕たちはまだずぶ濡れのままだ。

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