第34話

「雲助。何とかみんなと戻らないと。お願い……どうにかして」

「無理だな。館の亡霊だけじゃない。この原型館には魔法があるんだ」

 ドアの外はシンとしている。

ロッテとグッテンも無事なのだ。

 僕はまず、ここから外へ出て館の亡霊を何とかしないと、と考えた。

 

 きっと、床に落ちているモップや雑巾に当たるのだから、何か固いもので殴れば逃げて行くだろうと、考える。

 そこで、この部屋にあるものを見回した。奥のキッチンにはお風呂が付いていて、 こっちには白いテーブルを囲むように椅子が5脚ある。僕はその椅子を一つ抱えると、外へ出ようとした。

「ヨルダン! そんなんじゃダメだ!」

 雲助が僕の顔のところへとやって来て叫んだ。

「大丈夫だよ。これでもかって言うくらいに、ぶっ叩くから」

「ヨルダン! 早まるな! ジッとしていろ!」

 雲助が僕の鼻に六本足を引っ掛けて思い切り踏ん張った。

 その時、外が騒がしくなった。

 怒声と戦いの音がする。

 

 ……しばらくすると、急に静かになった。


「おチビちゃん。無事か」

 コルジンの声だ。

 僕は椅子を持ったまま外へとドアを開ける。

 目の前にはコルジンが精悍な顔をして、ボクシングのような戦いの構えを解いているところだった。

「早めに来てよかったよ。おチビちゃん。俺も一緒に行くから、その椅子は置いてくれ」

「コルジン。仕事はどうしたの」

 向こうの二つの部屋のドアから、もう安心だとロッテとグッテンが出てきた。

「仕事はしばらくしなくてもいいさ。俺には貯金があるし、旅行から帰ってきたら。まっ先に風呂に入って、その次の日の仕事に精を出せば何もかも元通りさ」

 コルジンは、僕の抱えている椅子を持ち上げて脇に置いた。

「コルジン。ありがとう」


 僕はコルジンにそう言うと、グッテンやロッテに向かって、「大丈夫だった」と言った。

「ああ。大丈夫さ。それよりコルジンが来てくれてよかった。これで、旅行に行く人数は決められた4人になる。この館は私の研究欲を満たしてくれそうだし、危険なところも少なくなる」

 グッテンはさっきの窮地で顔が少し青い色になっていた。

「コルジン。どうもありがとう。これなら、薬草を取ることが出来るかも知れないわ」

 ロッテも青い顔だがいつも通りおっとりしている。

 これで、4人はこの大旅行で各々の目的を持った。

 コルジンは僕を守るため。

 グッテンはおじいちゃんの館の研究のため。

僕は黄金の至宝を取るため。

 ロッテは薬草を取るため。

「雲助。お願いがあるんだけど……さっきの話。みんなには内緒にしてほしい。でも、黄金の至宝……。どんなものだろう。僕たちはこの館の奥で大旅行をした後に、無事帰って来られないと意味が全く無いんだね」

 僕たちは、新しいのか古いのか解らない廊下を歩きだした。


 遠くの天井にシャンデリアがぶら下がっている。僕たちは、そこへと取り合えず向かう。この大き過ぎる館の奥、原型館にみんな当てがあるはずもない。シャンデリアをただ単に、グッテンたちが珍しがったことが一番の理由。

「でっかいガラスだ。これは照明なのかな?」

 グッテンがリグおじさんから貰った布袋から、レタスを早速取り出した。僕の隣にいるコルジンの分もリグおじさんが渡してくれていた。

「そうだよ。こんな感じの大きい照明で……簡単に言うと飾りでもあるんだ」

 僕の家にはあるはずも無い大きなシャンデリアを眺めた。確か小さい頃に意地悪な両親と旅行へ行った時、どこかのホテルで見た時がある。

 グッテンはレタスをシャキシャキと食べながら、三階まである吹き抜けの天井にぶら下がるシャンデリアを見つめている。

「古文書にも無いな。これは……」

 僕たちはしばらくシャンデリアを見ながら、リグおじさんが渡した布袋の中身を確認していた。

 野菜丸ごと……ニンジン、きゅうり、レタス、スライスされたパン。そして、豚肉が数枚。肉は高いので、リグおじさんの好意に嬉しくなる。2日分もあった。

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