第31話

 真っ黒いドアの水の流れる溝の付近には、何やら大きい布袋を4つ持っているルージー夫妻の夫の方と、ピンクのドアのマルコイ。そして初めて出会うポルサがいた。それと、天使の扉で働いている大人たちや、恐ろしく細い女。ポルサは黒髪のトゲトゲ頭で、若い青年だった。

 そして、ハリー・ザ・ショーでの観客席にいたと百人もの人々。

 みんな僕と少なからず関わっている人たちだ。


 真っ黒の両開きドアが内側から勢いよく開け放たれた。

「ようこそ! ハリーの部屋の奥からの旅行へ!」

「わぁー!!!」

 歓声が所狭しと……中にはドアの間に入れずに廊下からこちらへ拍手をしている人、何十階もある吹き抜けのところからも人々が歓声を上げている。吹き抜けになっている階層から多くの人が小さい金色の紙吹雪を一斉に振りまいていた。

この旅行を更に更に心を高ぶらせる旅立ちへと変える。

 水玉模様のスーツ姿のハリーが慇懃にお辞儀をして、みんなを出迎えた。

「さあ! この中から旅行へと旅立つ勇者はいるかい! 四人までなら誰とでも! 館の亡霊には気を付けろ! 食料は自腹で食べてくれ!」

 マイクを持っていなくても大きい声のハリーの弾む声でリードされ、

「僕とグッテンとロッテさ」

 僕は四人目のいないことを大して気にせずに、でも、本当に旅行のことで頭がいっぱいなのさ。

「よ! 頑張れよ」

「俺も旅行へ行きたいな」

「必ず戻ってく来てくれよ」

「坊ず。土産はフライドチキンがいいぜ」

 僕の仕事仲間の大人たちの興奮は留まるところを知らない。


 そして、百人もの歓声がハリーの部屋の間を埋め尽くした。

 大量に水を吐き出す馬の口たちの中央にいる。ハリーのところへと僕とグッテン、そしてロッテが歩き出した。

「やあやあ。四人目はいないか。仕方がない。けれど腹が減ったらどうするんだ。共食いをするにもお腹一杯にはならないぞ。すぐに腹減りだ。二週間もあるんだよ」

 そこで、ルージー夫妻の夫の方が四つの布袋から三つを右手に持ち、こちらへと歩いてきた。

「リスヘル。これを持って行きなさい。二週間分とは言えないが……。少しは足しになるだろう」

 ルージー夫妻の夫の方……。隣のグッテンから名をリグおじさんと聞いた。

「ありがとう。リグおじさん」

 僕たちは布袋を手に手に持った。


 僕はやっとルージー夫妻に心から素直な言葉を言えた気がした。

 チクリ……キャサリンおばさんが可哀そうと思えてきた……。

「さあ。この三人を拍手で送り出そう」

 ハリーの一声にみんながいっせいに拍手をしてくれた。

「これからが、僕の本当のおじいちゃんの館の探険さ」

「坊主……中の中には……入っては……いけない」

 雲助は今までにない神妙な声で僕の肩から厳しく囁いた。


 真っ黒いドアからハリーの部屋へと入って、薄暗い廊下がある左側にハリーと僕たちは進んで行った。ハリーの部屋の奥、目の前にはこじんまりとした白と黒の水玉模様の細いドアがあり、天井にも同じ水玉模様。

 狭い通路を四人で歩く。

「ここからは、水玉模様のドアからはだが、大昔とちっとも変わっていないのさ。古文書によると、ジェームズ・ハントという人物が造った館の原型がそのままなのさ」

 目を四方八方にしているハリーが小声をする。

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