第24話

「でも、僕はコルジンにお礼をしたいんだ」

 コルジンは首を縦に振ってくれない。

「俺のことを考えてくれるおチビちゃんは好きだ。けれど、ルージー夫妻は仕事をしても、何十年間と……いや……今までとこれからもただ働きなんだよ。そんな人にこそお金を分けてあげるものだよ。俺は仕事が出来て給料もちゃんと貰えるんだ。部屋ならきっと金を貯めて買うことが出来るし……」


 僕は……解ったよと蚊の鳴く声を発した。

雲助はグッテンの傍から解放されて、きゅうりにありつきご機嫌の様子。

 このビスケット。明日には賞金100万クレジットと交換出来る。やっぱり食べてはいけないと言われている。僕は雲助にかじられでもしたらとヒヤヒヤしていた。

ルージー夫人は今はどうしているのかな。部屋で火傷の治療をしているんだろうけど。そういえば、金髪の少女は医者の娘だったけど、まだ小さいからお金を取らないのだそうだ。

僕はルージー夫人を今まで可愛そうとは……一度も思わなかった。でも、コルジンたちがルージー夫妻のために一生懸命になっている。というのは、解らないわけじゃないよ。

 でも、どうしてか何の感情も出てこない。


 きっと、嫌な気持ちだった時と同情心がごっちゃになって心が停止しているんだと思う。

 でも、確かにハリーのショーの時は、これ以上ルージー夫人の顔が焦げることは、避けようと頑張った時もあったけど……。

「お金ってなんだ?それがあると色々と出来る魔法の丸っこいものか?俺も欲しいぞ」

 雲助がきゅうりの上に乗っかり、不思議なことを言った。

「あのね。雲助。これは魔法じゃないんだ」

 僕はそこまで言うと、自分でも解からなくなって、口を噤んだ。

「そうだ。おチビちゃん。100万クレジットは一まず置いて……。ハリーの部屋からの旅行はどうするんだ?俺は行った時がないが、聞くところによるとこれまた豪勢なようだぞ。それでも、館の亡霊はやっぱり怖いだろうけど……」


 僕はこの館にも旅行があるのが不思議だった。でも、旅行に行けるということは、この館をもっと遠くまで探検が出来るということだ。

 今まではハリーのショーのために遠くまで行けなかったけど……。

「うん。絶対行くよ。僕はこのおじいちゃんの館を隅々まで探検して、最後には住んじゃおうと思っているんだ」

 コルジンは鍛え抜かれた手でスプーンを持ち、カレーを頬張り、

「おじいちゃんの館?」

 僕はカレーを口に運ぶのを止め、

「そう。僕はグッテンたちが言っていた外館人なんだ。太陽のことも知っている。おじいちゃんの家からここへと来たんだ」

「なんだって。太陽に会ったのか」


 コルジンは興味津津といった顔で、その精悍な顔を綻ばせた。

「俺は太陽って奴に負けないように、今まで体を鍛えていたんだ。そいつはどんくらい強い?俺はこの館からもし出られたら、そいつと勝負したいんだ」

 僕はどうせこの館からコルジンが出られないと思い……。そして、僕は絶対おじいちゃんになっても出ないけど。嘘を付いた。

「すっごく強いよ。今のコルジンじゃ敵わないかも」

 コルジンは大笑いして、

「そいつは凄いぞ。俺はもっと強くなる。絶対に」

 ボクシングのような格闘技が、この館にあるのかと僕は一瞬考えた。

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