第6話 天使の扉

 今度は四・五段だけの階段の正面のドアを開ける。

 そのドアは淀んでいる青だった。中には複数の人が住んでいた。いつも緊張していてとにかく真面目そうな人たちだった。

「あなたは?」

 真面目そうな人たちの一人が声を掛けてきた。

「僕はヨルダン。あなたたちはどなたですか?」

 僕は敬語や丁寧語には慣れっこだ。意地悪な両親に幾度も教えられている。


 その部屋はけっこう広くになっていて、住人は3人もいる。質素で地味な家具が置いてある部屋だった。

 手前の神経質そうな小柄の男性が、

 「僕たちは学者なのさ。この館を研究している。例えば、この館には幾つ部屋があるのか、館から出られるのか、この館は何時頃建てられたのかなど、調べたり考えたり」

「それは僕も知りたいことです。今はどんなことが解っていますか。良かったら教えて下さい」

 すると、部屋の奥にいる長身の男性が、

「この館は、約700年前に建てられたようだ。館の主はジェームズ・ハントという大地主の狂人で、それぞれ大き過ぎる館だったようで、それらをそれぞれ滅茶苦茶に改造した後にくっつけたようだ」

「ジェームズ・ハント?その人が造った館……」

 僕はてっきりおじいちゃんがこの館を建てたんだと勝手に思っていたようだ。

「この館から外に出られた人はいるの」

 僕は心にもないことを興味本位で尋ねる。

「……恐らくいない」

 長身の男は苦々しく言った。そして、不思議そうな顔をして、

「何かの魔法が掛っているのかもしれないな。ヨルダンくんはどうやってここへ来た」

 僕は長身の男性に向かって、思い切って、

「おじいちゃんの館から来たのさ。もっと具体的にはおじいちゃんの館にあった、おじいちゃんの奥さんの部屋にあった、冬空が見える外へと向かうドアからさ」

 僕は敬語を使わなくなった。そんな気分になったからだ。僕は勇敢にこの館を死ぬまで調べ尽したかった。この学者のような人たちになんか負けないぞ。

「僕は一人で探検をしてこの館を調べ尽すつもりだ!」

 長身の男は驚きを隠さなかった。


「外館人」


 他の男性たちも驚いた表情でいっぱいになる。

「そう。僕は空があるところから来たのさ。青い空や輝く太陽の下で生活していたんだ。でも、とても傷ついてこの不思議な館へと来た」

 僕は背筋を伸ばし、

「僕の知ってることを少し話そう。ぼーっとしたい時には、空のある世界にある巨大で深い青い海、何時までも眺めていたい時は、遠くからでも近くにあるような山、そんな風景を僕は毎日のように飽きずに見ていた。一人で落ち着きたい時や嫌なことがあった時に」


「……古文書にあるとおりだ」

 長身の男、この男性たちのリーダーのようだ。は、驚嘆と羨望の眼差しを僕に向けた。気が付くと、他の男性たちも僕を同じ目で見ていた。

「素晴らしい。それほどの世界がこの世にあるとは。私たちはどうしてもその世界をこの目で見てみたい。それがこの研究の究極の目標だ」

 ふいに、小柄の男性が驚嘆と羨望の目から疑いの目に変化して小首を傾げた。

「グッテン。けれど子供の言うことだぞ。信じるのか?」

「ああ。この館にある古文書は難解すぎる……。どうしても子供では読めないはずさ。それに、誰かの大人に教えてもらったという可能性は、私たちでも解読するのに時間がかかるのだし、有り得なくはないないが……」


 グッテンと言われた男性は年齢が20代半ばで、ラフな薄汚れた緑のジャージ姿。長身でほっそりしている。黒髪のオールバックで均整のとれた顔をしていた。

 他の男性、小柄と太った男や小柄でもやしのような体格の男も薄汚れた緑のジャージ姿だった。


「グッテン。信じようよ。この子は嘘はつきそうもない顔をしているし」

 太った男性は早口でまくしあげる。

「そうだね。この子が本当のことを言っているように私は思った」

 グッテンは力強く頷く。

「ヨルダン。これから、どこへ行くのかい」

 グッテンの問いに、

「今は三日後のハリーのショーがるので、仕方なくこの周辺の探険さ」

「ハリーのショー?」

 太った男性が早口で聞き返してきた。

「そう。ハリーおじさんが金色のドアで、今からだいたい三日後に楽しいショーをやるって」

「あのハリーが」

 グッテンは落ち着いて考え込む仕草をした。

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