第5話
この館の住人のことを隅々まで知りたいと思うと同時に、ハリーの催すショー、こんなヘンテコな館でどんなショーなのかと期待を膨らます。どうしても見てみたい。
「どんなショーなんですか?」
ハリーはニッコリして、
「それは見てからのお楽しみさ。きっと、一生忘れないほど楽しいぞ」
僕は不思議に思うところが一つあった。それはこの館にお金があるのだろうか……?
「ここにはお金があるんですか?」
「勿論。大昔から何代もそれぞれの人が受け続けている金銭があって、それが物々交換をしなくてもいい方法さ。そのお金で毎日の食事やお風呂にありつけるんだ。後、仕事もある。君は持っているかい?」
「いいえ。財布にはいくらか円が有りますが、この館のお金はぜんぜん持ってないです」
「ヨルダン。円て何だ?」
雲助が僕の寝巻きの腰の財布辺りを見て尋ねる。
「僕の世界のお金さ」
ハリーは少し考えて、
「俺のショーは有料だから……。仕方ない30クレジットやるよ。それがこの館のお金さ。そのお金を無駄遣いせずに必ず俺のショーを見に来てくれ。ところで、このおチビちゃんはどこから来たのかな?」
「解りました。必ず見に来ます。どんなショーなのか今からとても楽しみです」
ハリーは満面の笑顔で、
「この館には楽しみがないんだ。俺はそんなんじゃつまらないといつも思っている。そこで、このショーを思いついたんだ。このショーをやったら絶対楽しい……。この館の他にはない楽しみになってくれるさ」
僕は目をキラキラさせた。ふと、
「いつ頃始めるんですか?」
「だいたい三日後さ。楽しいことは早い方がいい」
そういえば、この館には時間があるのだろうか。
去り際に、
ハリーが明るい口調で、目を四方八方に向けて、
「一生心に残るショーさ」
「雲助。お腹が空いてきたよ」
僕はハリーのところから、数時間。階段の上り下りと散々歩きまわったせいでお腹が空いてきた。
「じゃあ。適当なドアの中の住人から食べ物を貰えばいいのさ」
雲助はお腹が空いているのかいないのか解らない口ぶりだ。
「うん。解った。おいしいきゅうりもあればいいよね」
僕は意気揚揚と隅っこにポツンとある灰色のドアを開けた。
「あら、いらっしゃい」
そこはピンクのエプロン姿の陰気なおばさんと、黒のズボンに白のセーターのしかめっ面のおじさんの部屋だった。
「何にする。何にする」
陰気なおばさんは怖い顔で、挑むように何度も僕に身を乗り出して尋ねた。しかめっ面のおじさんは、
「適当に作れ!」
そう一言、陰気なおばさんに言い放った。
僕はそれまでの意気揚揚な気分が、急に萎れて落ち込む気分になりだした。俯いて陰気なおばさんの進めたテーブルに座り、しかめっ面のおじさんの真っ正面になる。
「坊や。何か食べにきたのか」
ぶっきらぼうにそう言い放つと、
「さっさと、作れよ! 鬱陶しいんだよこの子!」
「そうね」
僕は落ち込む気持ちが心の底まできていた。まるで海に沈んだ古い船のよう。気分はどんよりとして、この場でどうしていいのか解らない。
「さっさと食え!」
しかめっ面のおじさんはギザギザのサラダを指差し言い放つ。僕は味なんかどうでもよくなってきて、それを一気に口に放り込む。
肩にいる雲助は何食わぬ顔?でサラダからきゅうりを6本の足で取り出し、食べていた。
息苦しい食事は40分以上も経ったように思えた。お腹がギュウっとなった。ぞんざいな食事を終えてドアから外へ出ると……急に涙が出てきた。
……また悲惨な食事をここでもするなんて……。
「災難だったなヨルダン」
雲助が話す。
「たまにこういったことが起きるんだ。この館はいいことだけじゃないのさ」
僕は涙を拭いて、早めに立ち直るために力強く歩きだした。
「……。次は、きっといいことがあるぞ! さあ、行こう!」
僕は雲助に辛かった気持ちを跳ね退けて元気よく発声した。
こんなことでこの探検を終わらせたくなかった。物凄くいい事がある。そう……きっと。本当の探検はこれからだ。
三日後のハリーのショーはいったいどんなものなのだろう。僕はワクワクしているはずの心に、不思議とざわざわと不可解な感じの部分に気が付く。
館を奥へと行くのではなく、三日後のハリーのショーがあるので灰色のドアを開けずに、探検をすることにした。
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