第4話

 筋肉隆々の中年男性がスプーン片手に僕に寂しそうに話しかける。

「うん。他のドアも知りたいし」

 僕は嫌と言うほどの冒険という名の探究心に奮い立たされている。そんな気持ちも今まで一度も持ったことがなかった。

 ドアを開け、おじいちゃんの館へと戻る。雲助と振り向くと、中年男性がゆっくりと手を振っていた。


 ドアだらけの空間を右に左に入り組んだ迷路のような道を歩く。色とりどりの同じ形のドアを目にしては僕は楽しくて仕方がない。豪華にも装飾や天使や女神の絵が設けられた天井には、無数の蛍光灯が縦横無尽にあった。でたらめな作り方だったけど、見ていて楽しい。

 二・三段だけの階段もいくつかあり、上ったり下がったりしているうちにここが何階なのかは解らなくなった。

 これがおじいちゃんの本当の館なのだろう。僕は何十個とあるドアを開けては中にいる住人に挨拶をして、そしていちいち感激した。

「坊主。中の中には入っちゃなんね」

 相変わらず雲助はそう言っていた。

「この館にはまだ秘密があるの」

 雲助は僕の顔を6本足の1本で引っ掛け、

「この中には色々あって、たくさん過ぎることがあるんだ。その中には邪悪なものや危険なものもある」

「へー。そうなんだ」


 僕はそれを聞いて、より一層好奇心が湧いてきた。


 二・三段の階段に座り込んで、

「危険なものってどんなの?」

 邪悪なものを知りたくない僕は、危険なものの方を尋ねる。

「この館には無限のドアがあるってことは言ったな。その中には当然、好ましくないものや危険なものがあるのはしょうがないことさ。その中で危険なものとは、この館に住んでいると言われている亡霊さ」

「亡霊?」

「ああ。この館から一歩も出られない者たちには、それを快く思わない人々もいるのさ」

「このおじいちゃんの館に閉じ込められていると思っている人」

 僕には理解出来なかった。だって、こんな凄いところで一生暮らせるなんてまさに天国さ。


「ヨルダン。世の中には普通の人もいれば変わった人もいる。だからどうしてもこの館にいる人たちの中から外へと出たいと思う人がいるのさ。普通の人はこの館で生活をただ与えられた運命のように享受する。変わった人はこの館から外へと出たがり、そんな人がこの館で死ぬと、亡霊になるのさ。……俺から見ると君も変わっている」

 僕も変わっている?そうかな?

「その亡霊が危険って? どういうこと?」

「簡単さ。この館の人に八つ当たりをするからさ」

「ふーん」

 僕は短い階段から立ち上がると、

「さあ、探検の再開だ」 

 背筋を伸ばして意気揚揚と歩きだした。

 今度はどんなことが起きるのだろう?

 そこのドアを開けてみたり、この短い階段のそばにある絵を動かしたり、興味が尽きることはない。


 不思議な部屋を見つけた。


 金色で両開きの大きいドアで、そこは100人くらいが入れそうな劇場のような部屋だった。正面にステージがあり人がその上に一人いた。天井には照明が並列してあって、一人の男性に光を当てている。

「よおーい。おチビちゃん」

 男性が僕のことを大声で呼んだ。僕はそこへと並列してある椅子の群れの間を歩いていくと、

「今度。この場所でショーをするんだ。必ず見てってくれよ。俺の名はハリー。この館で一番の金持ちさ。」

 何かの病気か、左右の目が方々に向いている。ハリーは大きな手を僕の肩に置いた。年は30代くらいで、派手のように捉われる光輝く白いスーツを着ている。

「はい見てみたいです。僕の名前はヨルダン」

 僕は好奇心で答えた。

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