ケーキ

春雷

第1話

 小さく真っ暗な部屋に僕は閉じ込められている。僕は横になっている。窓が開き、みんな僕の顔を見る。彼らは深刻そうな顔をしている。

 何もかも嫌になって逃げだして、辿り着いた部屋。

 新天地。

 

 生まれてこなければ良かったといつも思う。親はどうして僕を産んだのか。こんな苦しいだけの世界。どうしてみな子を産み育てるのだ? 子が不幸になるかもしれないのに。子が地獄を見るかもしれないのに。親になるような奴は楽観的な人間なのだろうなと思う。

 占いが嫌いだ。天邪鬼な性格なので、幸せになるためとかいうアドバイス、それを聞くといつも、幸せになんてなってたまるかと思う。

 そもそも幸せになるのが怖い。

 幸せそうな顔している奴らを見ると吐き気がする。気色が悪い。世の中の不幸をすべて無視して、何にも感じずに生きている。くそったれな連中だ。

 もうどうでもいい。

 何もかもが嫌いだ。

 

 今日は僕の誕生日。

 親がケーキを買ってきた。

 誕生日。

 一体何がめでたいというのか。馬鹿馬鹿しい。

 僕はこの世界に誕生などしたくなかったのに。

 不幸の始まりの日。

 何がめでたいというのだ。

 僕はケーキをひっくり返した。

 ケーキは床に叩きつけられ、ぐちゃぐちゃになる。

 これでいいんだ。

 何もかもが嫌だ。

 僕は逃げ出した。


 逃げ出した先。

 僕はいつの間にか異界へと足を踏み入れていた。

 僕は真っ暗な部屋に閉じ込められていた。

 潰れたホールケーキ。

 僕は考える。

 僕が生まれた意味。

 僕はどうしたいのだ。

 僕はどうすればいいのだ。

 どこへ行けば……、この心の穴は埋まる?

 何をしても、何を見ても、何を聞いても、満たされない。

 心……。

 心なんてなかったらよかったのに。

 心がなかったなら、きっと生きやすかっただろう。

 僕はみんなのように器用に生きられない。

 馬鹿で無能だから。

 社会から必要とされない。

 価値のない人間なんだ。

 そのくせ妙にプライドはあって。

 馬鹿だ。

 僕は馬鹿だ。

 どうしようもない人間だ。

 誰か僕を殺してくれ。

 誰でもいい……。

 苦しいだけの世界から解放してくれないか。

 いや……、やはり自分でやるしかない……。

 ぐちゃぐちゃになったケーキ。

 それは……、僕の解放の証。

 魂の蝋燭は吹き消え、

 僕は新しい自分になった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ケーキ 春雷 @syunrai3333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ