トラウマ確定?
今はちょうど昼休みらしく、ホテルの周辺は学生さんで溢れかえっていた……凄く車から降りづらいです。
「岩倉。急がせたみたいで悪いな」
駐車場に着くと同時に大村が車に乗り込んできた。その表情からは焦りが伝わってくる。
「次の約束まで時間があるから平気だよ……模擬戦なんて適当な理由をつけて断れば良いだろ?」
模擬戦で怪我したら意味ないんだし。ましてや引き抜きなんて応じる理由がない。
「断ったけど、しつこいんだって。つうか、話が通じないんだよ。もう模擬戦が決まっている前提で、話してくるんだぞ」
多分、介部は俺に力を無効にされている事に気付いていないんだろう。
「とりあえずお互いの実力が分からないから模擬戦の意味がないってとか言って、返事を引き伸ばしておけ。しつこい様なら大将戦ありで受けろ。最悪、俺が全員ぶちのめす」
魔石を持っているとはいえ、介部はしょせん人間だ。でも、俺はほぼ魔族に戻りつつある。負ける訳がない。
もし桜達が負けそうになっても、俺が
「分かった。しかし、竜崎では、あれを注意しないのかよ。教師としての、自覚がないのか?」
大村の視線の先にいるのは、女生徒に囲まれてご満悦な介部。車のシートを少し倒して、介部の視界から姿を隠す。
(
じっくり観察する事で、介部のジョブであるロードの仕組みが分かった。でも、あんな趣味の悪い術式なんて聞いた事がないぞ。
「公務で、ブーメランパンツをはく教師って凄いよな。あえて放置している可能性があるぞ。大村、介部のパーティーにいる生徒……その親御さんの職業を調べてもらえるか?」
俺の予想が正しければ、あの子達の親御さんは竜崎財閥関連の会社に勤めている筈。そして役職は部長以下だと思う。
「あえて放置って、どういう事だよ?教師が生徒に手を出すなんて大問題なんだぞ」
さすが真面目教師の大村君。このまま放置すれば、教育論を語りかねない。
「介部を中心とした範囲五メートル内が介部先生王国になるみたいだな。その中にいると徐々に介部の好感度が上がっていく。そして忠誠を誓った者には、戦力強化のバフが掛かる。早い話が介部と仲良くなれば、ユニフォームガーディアンとして強くなれるんだよ。スマホゲームとかでも良くあるだろ」
半径五メートル……それを国土って呼んで良いのか?
最初は俺や村みたく指導者として真面目に接して、徐々に好感度を上げていったんだろう。近くにいれば強くなるから、相乗効果で信頼度も上がる。
学校側は弱い魔石の生徒でも、一定の戦力になるからウインウインだ。
そして娘が活躍すれば、親御さんは出世……正確に言うと介部の指導を受けさせる様に圧力を掛けたんだと思う。
「ちょっと待て。俺も国民にされているのか?」
大村の顔色が悪くなる。そりゃ、そうだ。洗脳に近い術式なんだし。
「隣にいるのが、誰だと思っているんだ?お前や桜達には、呪術系を無効にする魔法を掛けている。それに一時的であるけど、ここは俺の領土だ。あんな悪趣味な術式は働かせないっての」
問題はもう虜になっている生徒達だ。俺とは縁もゆかりもない子達だけど、あまりにも不憫で見過せない。
「なら安心だ。あいつのスキルも何か弊害があるのか?」
流石は教職員。他校の生徒でも気になるらしい。
「好感度を無理矢理上げるってのが、一番の弊害だよ。時間が長くなれば、依存に近い状態になる」
しかし、誰がこんな術式を作ったんだ?好感度なんて数値化出来ないし、任意で発動させれないと大変な事になると思うんだけど。
「……分かった。それで、うちの生徒は白い目で見ているのか」
大村の言う通り、ラルムの生徒さんは介部達を見てドン引きしている。でも、女の子は介部に夢中で気付かない。
「
◇
魔王様は、午後からも一生懸命労働に勤しんでおります。今は地元のスーパーで、コピー機のメンテ中。塩害、砂塵防止魔法を掛けたら物凄い好評なのです。
「岩倉さん、聞きました?例の行方不明者、何人か見つかったみたいですよ」
岡流息子、他数名は浜辺で発見されたらしい。怖いのは、ニュースになっていない事。絶対に竜崎財閥が圧力をかけたんだと思う。
「そうなんですか?怪我とかしていないと良いんですけどね」
まあ、骨折位で済んでいればラッキーだと思う。
だって、どう考えても人体実験の被験者にされていたんだし。
「親戚に警察官がいるんですけど“ここだけの話……頭を打っていたって噂なんだよ”って言っていましたね」
そのお巡りさんいわく“酔って頭を打って気絶していた可能性は否定出来ない”との事……権力って敵に回すと怖いよね。
(これで問題、一つ解決っと。後は介部をスルー出来ればオッケーなんだけどな)
でも、あいつは自分の力が無効にされているとは、気付いていない訳で。
「これで観光客の皆様も安心して頂けますね……これでオッケーと……今日のお勧めは何ですか?」
俺は仁漁に来た時は、新鮮な魚を買いだめしていく。安いし美味いし、お客様は喜んでくれると良い事づくめなのだ。
◇
フットワーク、軽すぎないか?
「竜崎側からセイレーンの討伐に協力して欲しいって依頼がきた。そこでお互いの実力を見て模擬戦をしませんか?だとよ」
スーパーから出ると同時に大村から電話がきた。四人ハーレム要員がいれば、十分だろ?
「どうやってセイレーンを倒すんだ?あいつ等、陸に上がってこないんだぞ」
だからと言って海中に入るのは、アウトだ。どう足掻いても桜達は勝てない。
「月夜になると海岸にセイレーンが集まるそうだ。遠浅だから危険も少ないって言ってたぞ」
いや、引きずり込まれたら終わりなんだけど……股下より深い所に連れていからない様に結界を貼っておくか。
「もう一つ大きな問題がある。セイレーンは見た目が殆んど人間なんだぞ。絶対にトラウマになる」
いくら倒せば死体は消えるとはいえ、血は出るし怨嗟の目で見られる
しかもあいつ等声帯が発達しているから、断末魔が凄いんだよな。
「そんなに人間みたいな顔しているのか?」
大村の顔が青くなる。生徒に人殺しをしろと言っている様なもんだし。
「絵本に出てくる人魚そのものだよ。でも、性格は好戦的でえげつねえぞ。自分より弱い奴には、とことん残酷になるし」
ある意味野生動物なんだから、当たり前だけど。
俺なら平気で三枚におろせるけど、桜達には無理だと思う。
流石に何か考えるか。
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